民事調停委員・司法委員の経験から一覧

家庭裁判所に係る実務で、最も『実効性』が難しいのは面会交流です。

 ここに実効性と書いたのは、仮に調停が成立し、また審判が確定しても、そのとおりに面交が実現するとは限らないからです。

 

 未成年の子と離れて暮らす親、これを非監護親と言いますが、子を監護する親が協力しなければ面交は実現されません。幼い子どもが非監護親のもとにひとりで行き来することはありませんから。

 

 それと裁判所は、調停委員会も含めて言うことは立派で正しいが、司法手続を離れた後の面交の実情については、ほとんど理解しておりません。理解しているとしても、司法手続以外の事柄に、手を差し伸べてくれません。弁護士が必要な理由が、ここにもあります。

 

 弁護士が当事者の代理人として関与しない調停や審判では、本質的に子を別れた非監護親と会わせたくないと考えている監護親は、この場さえ切り抜ければよいと思っています。昔は、「子が会いたいと言えば会わす」というふざけた答弁が少なくなかったのですが、最近では「裁判所で決まった(決められた)ことは守る」というものが見受けられます。

 

 こんなケースで、「月1回、日時・場所・受渡しの方法は、子の利益を考慮して当事者誠実に協議して決定する。」程度の調停条項や、審判にされるのがオチです。協議協力なんかするはずがない。

 

 私は、裁量の余地のない面会条項を作成合意しなければならないと、常々申しておりました。当事者が「協議」するまでもなく、いわば機械的に行うかたちです。

 

そして最近では、監護親が逃げられない、拒否できない面交条項又は審判決定を得ることを希求しています。

 

裁判所は、間接強制が可能となる条項や審判を嫌います。

間接強制とは、「・・・のかたちで面交させなければならない」と定めたうえ、もし監護親がこれを守らないときは、地方裁判所に強制執行の申立てをし、これを受けた裁判所が、「・・・しないときは、不履行1回について金〇〇円を支払え」などと命じ、心理的に面交をせざるを得ない状況を作ることを言います。

 

この間接強制ができれば、できるような審判となっていれば、実行可能性は高まります。しかし家裁は嫌がります。一度もしたことがないと言って、憚らない裁判官もおりました。

 

とするなら間接強制によらず、事実上監護親が面交実行から逃げられない条項や、審判を求める必要があるのです。ここ数年の間に私は、何回かこれを経験し、獲得してきました。折を見てその実務をお話ししたいと思います。

 

まずは面交を求めながら、あるいは面交ができる調停・審判がありながら実現できない非監護親の方は、どうぞご相談にお越しください。

民事調停委員を40代の9年間歴任しました。

 

調停制度は文字どおり、存在する法的紛争を調整し、常識にかなった解決を得るために、当事者が譲り合うことで、判決と同じ効果がもたらされるよう民間の良識を得て進められる司法手続きです。

この調停を担当するのが簡易裁判所、また、当事者の合意があるときなど一部の地方裁判所内に設けられる調停委員会です(家事事件を専門に扱うのは、家事調停委員です)。

裁判官が主任で、最高裁判所から(実務上は、所在の地方裁判所長から)任免する専門的知見を有する民間2名を調停委員として構成します。その専門性から調停委員は、医師・建築士・不動産鑑定士・税理士等専門職のほか、教員や金融機関・保険会社等に勤務した方など、バリエーションに富んでいます。2名のうち1名が、弁護士資格を有する者が選任されることは、少なからずあります。

 調停は、裁判所が行なう紛争解決の型体です。ただ主役は当事者、つまり調停申立人とその相手方であり、しばしば『互譲の精神』により調停は行なわれ、調停委員会は、基本取り次ぎ見守り、必要に応じ調整し、一定の示唆を与えつつ、当事者をサポートする役割があるといわれます。

 

実際調停委員は、自ら『公平に行う』と宣言し、取り次ぎはされるも、あまり専門的立場から、意見を述べない人が少なくありません。

 

調停委員として執務しているとき、私が配転を受けるのは、たいてい当事者に代理人弁護士が就いていて(少なくとも、申立人・相手方のいずれかには就いていて)、法的論点が含まれている案件でした。弁護士として仕事をするについても、自分の依頼者の相手方には、弁護士が就いて欲しいと常に思っておりますが、調停委員という非常勤といえども、裁判所の組織内で仕事をする際にも同様に思っておりました。

 ここで申し上げる『感想』は、弁護士が就いているケースが中心です。ただし、今にして思えば、いささか勘違いもあるのですが、当事者の代理人として裁判所にやって来る弁護士も、いろいろいるのだなと、弁護士の姿を垣間見ることができたことは、得難い経験になりました。裁判所から、調停委員会からみた場合、当事者主体・当事者主導の手続ですから、やる気のあるなしはすぐに気づきます。もちろん当事者・依頼者を説得しきれなくて、調停委員会に意見を言ってもらうことは、私は、良いことだと思っています。

 ただ、いかに裁判ではないと言っても、事案の分析がおろそかだったり、法的に理解困難な組み立てや反論をされるなど、ここが裁判所であることを忘れたような対応がなされることがありました。

 そのような場合、依頼人とその弁護士の信頼関係を損わないように対処するのも、調停委員会の重要な役割です。そしていわゆる無理筋の事件・主張は収めてもらういっぽうで、例え相手方とされた側にとっては、無理強いはできなくても、調停を止めて――不成立にして、これで全てが解決したことにするのかは、考えていただきたいものでした。

 裁判手続によらない解決が、調停の妙味です。その場をどのように扱い、調停の主役となるかは、代理人弁護士の力量だと思っています。それは法的知識ではなく、説得力です。それは依頼者本人を、そして調停委員会を引き込み「味方にする」説得力です。それができる弁護士が代理人に就いた依頼者は幸せです。

このことに関して次に書きます。

調停委員も司法委員も、民間から選ばれた人が裁判所の手続に関わることで、一般社会の良識と乖離しない司法が運営されることを意図するものです。

 

弁護士は、法律専門家ではありますが、国民の側に居て、特に民主主義社会ではときとして、多数により少数者の意見が届かなかったり、少数者の権利がないがしろにされる危険性を内包することから、そのような方々の権利が損なわれないよう、裁判所に橋渡しする役割も担う立場です。

司法委員は簡易裁判所に配属され、調停委員も特別なケースを除き、簡易裁判所及び家庭裁判所に配属されます。これら裁判所は市民に近い、手が届きやすい、利用して欲しいとの考えが根底にあると思っています。

 

ただし、調停委員と司法委員は実務での具体的場面では、職務内容は異なります。

調停は文字通り、調整を行う手続であり、その結果を決めるのは当事者です。これに対し司法委員は、簡易裁判所に係属した民事訴訟の中から、裁判官から配転を受けた事件について、裁判官を補佐するかたちで、裁判所の立場で解決する職務となっています。

 

よく調停では、当事者が譲り合うこと、その調整役を調停委員が行なうのだと説明されます。加えて言えば、調停委員はどちらの味方でもなく公平なのだとも。

この説明自体は間違いではありませんが、私の考え方、捉え方は改めて申し上げます。

 

司法委員は現に提起され、係属する民事訴訟を裁判所の立場で見ることからスタートします。裁判所は、最終的には係属した事件を判決というかたちで解決しなければならない。もちろん副次的には紛争について、最終的な結論を出してあげるのは当事者にとっても「解決」とはなるのでしょうが、あくまで裁判官は、法と良心のみに従って職責を全うします。当事者の主張や希望を分析・整理し、係属する事件の「本当の問題点」などを押さえて裁判官に繋げる役割が、司法委員には求められるのです。

 調停委員は、中立と言われます。この中立という言葉がひとり歩きし、私からすれば、それは言い訳に聞こえることがままあります。調停委員は、判決をする立場にはないことから、時として明らかな理不尽、法律上あり得ない当事者の主張であっても、「それは違う!」などと主張することは少ない現実です。

 司法委員は裁判所の、より具体的には判決をしなければならない裁判官の立場で事案を見ます。ここでしばしば感じるのは、解決には判決は相応しくないというケースです。

疾病等で稼働できず、収入が減ったから家賃が支払えなくなって、家主・賃貸人から契約解除を受け、明渡しをしたくても引越しするお金に事欠く場合があります。

そんなとき「明渡せ」の判決を裁判官が書いても、現実に賃借人の意思で自分から退去・引越しすることは困難でしょう。勝訴した賃貸人は、判決があるのに何だ!と思うでしょう。つまり、解決になっていないのです。

 このようなケースで司法委員は、当事者の意見を聞き、証拠を分析しつつも現実的な解決案を裁判所の立場で提案することがあります。これを「司法和解」と言います。

むしろ司法委員は、判決ではなく、和解により解決するのに相応しい案件を配転されることが多いです。判決によらない民間の良識に従った解決です。

 ただし、調停委員や司法委員もその職場は裁判所です。当然法律を無視した解決を勧めることはできません。特に司法委員は、司法和解できなければ、裁判官は判決をします。ですから当事者が、どのような主張をし、裁判所に判決を求めているかを正確に聞き取り整理し、裁判官に説明しなければなりません。

 司法委員として執務する過程で、ときとして法律上成り立たない、また証拠上も合理的な説明が困難な事案の当事者に対しては、後見的な意識のもとそれを質すことがあります。

 証拠調べが終了するころには、裁判官と打ち合わせの上、判決の見通しもお話します。これは、相当抵抗反発を受けます。しかし、裁判所以外の手続では解決できないのであれば、ここが最後の機会です。判決を見据えて、司法委員として、これを受取った方からすれば、かなり厳しいことも申し上げます。

私は年を重ねるごとに、家庭裁判所に関わる案件の依頼を受けることが多くなっています。家事事件には、「調停前置主義」という言葉もあり、調停が手続の中心であります。専門機関を介しての話し合いが、有意義だということです。

 調停委員を退任して思うことは、いかにして当事者代理人として調停委員会を利用するかということです。また、実効性のある調停はどうすれば可能か、このあたりのことを随時お話したいと思います。

前回「久しぶりに」と附記して、「司法委員として感じること(1)」を書きましたが、続くその(2)を書くことなく、昨年12月、私は東京地方裁判所管内の簡易裁判所の司法委員を退任しました。

民事調停委員は、40代のときに退任しました。裁判所側から、裁判所から見た法的紛争を解決する場に長く携われたことはとても有意義でした。このことにまず感謝しなければなりません。

「その2」を書く今回は、「弁護士は誰のために仕事をするのか」についてです。

 

私は、委任契約を締結した方から、必ず弁護士費用を頂戴します。もちろん委任契約書に拘束されますが、「このお金を払う人」と「委任状をもらう人」とが異なることは、大いに問題だと思っておりました。

 簡易裁判所で現在多い案件は交通事故です。簡易裁判所は、訴訟物の価額(原告の請求額と言っても良い)が140万円以下の事件を取り扱いますので、交通事故でもいわゆる物損がほとんどです。

交通事故の場合、もともと裁判所に出てくる代理人は、保険会社から派遣された弁護士がほとんどです。事故の当事者も保険でやってもらうとの意識が強いので、つい任せてしまう。当然弁護士費用も保険会社から出る。事故の当事者は、実は委任状を書くだけになっている。

 

このような場合事故は存在し、損害が発生しているが、何らかの理由でその事故が保険適用にならず、事故を起こした本人が、現実に損害金を支払わなければならないとされたらどうでしょう。実際そのような事例が、最高裁判所で示されたことがあります。

 

これとは別に最近よく見かけるのは、個人で契約する保険に、一定範囲で無料で弁護士に委任することができる特約が付いていて、これを利用して保険会社が選んだ弁護士が代理人として出てくるケースです。

全てが交通事故ではありませんが、数万円から数十万円の訴額が多いです。

 

どのような事案でも、困っている人のために弁護士が出てくることは重要です。「10万円の事件だからやらない」という態度は、好ましいものではありません。

しかし当事者となった人は、保険会社の選んだ弁護士が割り当てられるので、もともと自身が選んだわけではない。依頼者と受任弁護士との間に、信頼関係が形成されていくのです。

 

実際司法委員として、主張整理や和解の手伝いをする過程で、代理人弁護士が、事件本人と打ち合わせをしていないと感じるケースは多々あります。またこのような代理人の対応主張は、真に事件本人が希望するのだろうかと疑問に思うことはあります。

 

受任弁護士としては、数万円の違いでも訴訟等の結果、その報酬は保険会社から支払われるので、事件本人、即ち委任状を書いてもらった人の顔を見て、仕事をしているのかということです。

 

司法委員の立場として、基本的には当事者に法律専門家である弁護士・司法書士が就いていただく方が有難いのです。

しかし時として、これは事件本人、委任者の意向なのだろうか、これは委任者事件本人の利益となる訴訟活動なのかと思うことがあるのです。それは委任契約書を締結する人と、お金を支払う人が違うことから導かれる現象です。

 

私の場合、解決のため弁護士が必要だと判断したならば、数万円、数十万円の事件でも、所定の弁護士費用を頂戴して必ず事件受任します。ただし、依頼者と支払者は同一人です。

これが、弁護士と依頼者間の信頼関係構築の基本と考えています。

今日は司法委員として、簡易裁判所に勤め、裁判官から当事者に主張整理や、和解勧試を託された経験から、感じるところを書きます。

民事訴訟の管轄は、基本的に訴額により定まり、140万円以下の民事事件は、簡易裁判所に係属します。典型的なのは、140万円以下の金額の貸金請求や、交通事故の物損に関する賠償請求です。ただ不動産の明渡しや、境界確定、管理費の請求等もあります。

 

司法委員は、社会的経験を積んだ学識をもつ、人格的にも優れた人が任命される建前ですが、弁護士資格を持つ者はそういう観点からではなく、単に法律事務に詳しいという理由で、一定数配置されているのが現実です。

ですから、私が割り当てられる事案は、法的係争の要因が強いものが少なくありません。 簡易裁判所のもう1つの特徴は、民事訴訟では当事者本人(法人の場合は代表者・支配人)以外は、弁護士を代理人として出頭するのが法の原則のところ、「許可代理制度」があることです。例えば、クレジット会社の担当者、子が損害賠償の当事者となった親等が許可を受けて、代理人となることが認められています。

その中で、当事者本人より以上に感じるのは、「代理人」となった人の意気込み、感情、そして人の話を聞くことに、慣れていないことです。

因みに本人、即ち会社としての方針が固い金融会社から派遣される代理人は、むしろこの反対で、「本人」を説得できないのですが。 代理人の行なった効果は、本人に帰属します。弁護士ならば当り前ですが、その判断が本人に影響するので、必ず説得し、納得してもらいます。

 

これが本人ではない、代理人の役割です。 私ども法律実務に携わる司法委員が、主として法律的見地から事案を整理し、進行をはかろうとするとき、たいてい自己主張のみ繰り広げて、容易に先へ進まないのが、当事者本人の体となった許可代理人です。裁判所で司法委員を介して伝え、次回までに準備することができないことも少なくありません。

話が進まないのです。 本当に本人の利益になっているのか、疑わしいと感じることが、事実あります。そんなとき、評議の結果裁判官は、許可代理を取消したり、本人に出頭を求める手続を執ることもあります。 簡易裁判所は、市民に近い裁判所であるがゆえの利点と問題点です。 裁判所は、法律相談をする場ではないのですが、つい理解していただけない当事者代理人には、説得をしてしまう。

それが、あたかも裁判の公平を害するかに言われるのもまた事実です。代理人である自分が気に入らないのは、最後まで気に入らないということのようです。 私ども司法委員は、弁護士に相談してくださいと言うのですが、さまざまな理由をつけて対応されないのです。 それは、実は本人の立場で行なっている自分の要求は、無理筋であることをわかっていても、認めたくないからだと思われます。

 

でも代理人の行動は、本人に効果が生じます。 弁護士や司法書士が、首に鈴をつける役割をしてほしいと思います。 裁判は、白黒つける場という人が多いのですが、白黒つけて幸せが得られるものではないと考えます。 裁判所から、弁護士の役割がまた見えるのが、司法委員・調停委員としての経験だと思っております。

『調停を利用する』『調停委員会をその気にさせる』

 

これは、調停手続を弁護士に依頼し、ともに臨まなければなしえないことです。

 きさらぎ法律事務所のホームページの本稿では、繰り返し『調停は、必ず弁護士に依頼して行なうこと』を述べています。

 

調停は解決の場、そこに何を持ち込むかは、調停を利用する当事者のやり方次第です。調停委員会は、何もしない人,何も感じられない人に、何かしてくれるものではありません。

 

よくご本人のみで調停に臨まれた方から聞く調停委員会に対する不満の中で、「相手の話ばかり聞く」「(相手から)こんな主張・要求があったから調べなさい,答えなさいと言う」等があります。

 

これは、調停にひとり臨まれた方のメッセージが,すなわち、調停の『場』に何を持ち込むとか、何をして欲しいのか伝わっていないからなのです。何も伝わらなければ、調停委員会は、何かしてくれるはずがありません。

 

だから、「持ち込んでいる」と思われる相手の話のみ聞いているように感じられるのです。

 

調停では、依頼者ではなく、代理人である福本がほとんどしゃべっています。

 

はじめは、使命感・義務感から、また、いいところを見せたくて、調停委員が、依頼者本人に対して、あれこれ尋ねられることはあります。しかし、すぐに私が引き取って、福本悟の言葉でお返しします。

 

そうすると、以後調停委員会は、代理人弁護士福本を無視し、また、その意向を聞くことなく、本人にあれこれ聞き、やらせることはいたしません。調停委員会として、相手方に何を言う,何を求めるかに関しても、全て代理人に聞いてきます。

 

こうなると、調停は、しっかり機能しているので、この『場』を使って、ひとつの結論をもたらすことができると感じられます。そして、そんなときこそ、『調停委員の先生方のおかげで…』を忘れてはなりません。

 

いつか調停委員会に物申す弁護士とお話をしたことがありました。調停委員は、経験・年齢を踏んだ『ひとかどの人物』です。そんな人に文句?を言えるのですか?

 

さて、実際きさらぎ法律事務所にお越しになって、福本悟と一緒に調停に臨もうではありませんか。

「調停は、必ず弁護士に委任して行なうこと」

 

「弁護士を頼まない調停は、やってはいけない」

 

 これは、本稿で繰り返し申し上げることです。

 

 依頼者の代理人として調停に臨みながら、困った調停委員に遭遇することがあります。

 

 調停委員会が結論を急ぎ、解決までのプロセスを無視していると感じることがあります。

 

 たとえば、夫婦関係調整調停で、離婚するかしないかの結論を先に求めることが、その例です。

 

「愛せなくなったら離婚」

 

「愛されなくなっても離婚」

 

これは、そのとおりです。

 

しかし、当事者は、それがわかっていても、葛藤を抱えているのです。

 

 心を落ち着かせ、収まるべきところに収まるには、一定時間のプロセスが必要です。

 

 これがまさに、「調停の機能」であるはずです。

 

 当り前のこと,わかっていることを頭ごなしに突きつけられたら、反発してしまうこともあるでしょう。

 

 調停委員会は、よく、「協力して欲しい」,「(その内容の調停条項案は)調停では用いない」等と、当事者(代理人)に言うことがあります。

 

 これもまた、簡単に、パターン化して、事件処理をしたい表れなのかもしれません。

 

 しばしば「事件を落とす」という言葉が使われます。

 

 「協力して欲しい」は、当事者間で基本的な部分では合意をみたけれども、細部の詰めのところで、最終合意まで時間が掛かっているケースにおいて、よく述べられる言葉です。

 

 「協力して欲しい」,これは、主客転倒ですね。

 

 『調停』という場を設定し、主役である当事者に協力するのが調停委員会の役割です。

 

 以前お話ししましたが、代理人が就かない離婚調停の調停調書は、至って単純です。

 

 最近では、これに、『子の面接交渉を認める,月○回程度とし、日時・場所等、具体的な面接の方法は、子の福祉に配慮して、当事者が協議して決定する』との定型文言が附加されます。

 

 しかし、互いに信頼関係がなくなっている,あるいは、いがみ合っていた当事者元夫婦は、『調停』という場であるからこそ、これまで、かろうじて、『話し合い』ができていたのです。

 

 調停という場が終了した後(離婚した後)に、一体どのような協議をするというのでしょうか。

 

 この面接交渉に関しては、当事者の代理人として、具体的詳細な調停条項案を用意する側なのですが、ほぼ調停委員会と『衝突』します。

 

 それは、簡潔ではない、定型化した内容ではないからです。要は、面倒で、面喰っているのです。

 

 中には、官僚のように「先例がない」なんて言われたこともあります。

 

 調停が成立した後、当事者は、相互にやり取りはしたくないはずです。

 

 調停成立後、相互にやり取りをしなくて済む,いわば、「調停条項を機械的に当てはめて行動すればよい」という内容の調停条項が構築されるべきなのです。

 

 当事者代理人として、弁護士福本悟は、冒頭に挙げたような言辞・対応を調停委員会がされたとしても、毅然と対応いたします。

 

 これはときに、「喧嘩」と映ることがあるかもしれません。

 

 しかし、当事者あっての調停,依頼者あっての弁護士です。

 

 ぜひ、弁護士福本悟と一緒に、調停に臨まれるようご案内します。

簡易裁判所の司法委員を務めて、15年になります。

 

 この間、少額訴訟制度の導入,裁判管轄権の変更(訴額金900,000円以下から、金1,400,000円以下に拡大)等法令の変更もありました。

 

 しかし、司法委員として感じるのは、取扱事件と、裁判所に出頭される人が、ずいぶん変わったということです。

 

 これは、いわゆる過払金(不当利得返還)請求事件の到来と増大を意味します。

 

 私たちの先人の幾多の努力により、いわゆる『みなし弁済』からはじまり、『悪意の受益者』,『期限の利益の再度付与』,『一本の取引』等々、消費者・借り手に有利な裁判例が集積され、ここ数年、一挙に『過払金』ブームが起きたのです。

 

 ひところ、過払金事件を専門に扱う弁護士や認定司法書士が、大量に発生しましたが、最近では、過払金(利息)計算ソフトや、一般向けテキスト(?)も、容易に手に入るようになって、弁護士等に依頼せず、『本人訴訟』を行なう方が増えているのだと思います。

 

 簡易裁判所が、文字とおり簡単に、市民の皆様に利用していただけることは、よろこばしいことです。

 

 しかし、『調停』についても申しましたが、裁判所が何とかしてくれると思われないことです。裁判所は、これを利用する方の対応ひとつで、それぞれの顔を見せ、結果をもたらします。

 

 司法委員は、裁判官を補佐する立場にあります。法廷の審理において、意見を言い、当事者間に和解の勧試を行なうことがあります。

 

 司法委員が入って、当事者の主張を聞き、和解の可能性を探る等しているとき、弁護士や認定司法書士に依頼せず、裁判の当事者となられた方は、ちょっと安心されると思います。確かに、司法委員は、民間から選ばれた者で、ひな壇で法服を着用している裁判官ではないのです。

 

 しかし、司法委員は、裁判所の立場で、事件の処理を担当します。いっぽうの当事者の味方ではないのです。

 

 とはいえ、弁護士出身の司法委員(かつて8年間は、調停委員もしておりました)としては、弁護士的発想がなかなか抜けきれないと言うのが、本当のところです。普段は、依頼者のサポートをしているからです。『困った人』を見たら、捨ておけないとでも申しましょうか。

 

 このあたりの実例,悩みを、折に触れてお話ししたいと思います。

 

 刑事裁判では、『疑わしきは被告人の利益に』の原理があり、検察官が、合理的な疑い容れない程度までの立証を要します。

 

 これに対し、民事裁判では、証拠の優越,つまり、51%対49%でも、判断できるものといわれます。

 

 これを文字とおり受取ると、ほんのわずか、紙一重のところで、勝敗が決するのだと思われがちです。

 

 しかし、裁判官の心証形成と、実際の判決に至る過程は、『紙一重』,すなわち、裁判官は悩み抜いて、ぎりぎりのところで決断しているのではありません。

 

 司法委員は、裁判官を補佐します。ときとして、証人尋問等の証拠調に立会い、意見を述べることがあります。その経験から申しますと、裁判官には、『心証のなだれ現象』があるということです。

 

 『心証のなだれ現象』という言葉は、先輩弁護士らの受け売りですが、ある事実,ある証拠を岐点に、一挙に裁判官の心証が、一定方向に決まってしまうことを意味します。まさに、なだれを打つかのように。

 

 原告Xと、被告Yの間で、X所有のA土地に関する売買契約が成立し、決済日に、Xは、所有権移転登記手続に必要な準備をして、予め決めてあった場所でYを待っていたが、Yが来なかった,Xは、Yには、約束日に売買代金の支払いをしない債務不履行があったとして、直ちにYに対し契約を解除して、損害賠償等の請求をしたケースを考えます。

 

 Yは、決済当日は、突然激しい腹痛に見舞われて、終日動けなかった,Yは、その旨Xに当日夜電話した,決済できなかったのは、やむをえない事情があった,体調が回復した現在は、もちろん代金も用意してあるし、件の決済当日の翌日には、病院に行き、薬を処方してもらったと主張したとします。

 

 この場合、決済当日、Yが、売買代金の支払いができなかった,要は、指定された時間・場所に行けなかったことはやむをえなかったのか(法的に言えば、Yの責に帰すべき債務不履行といえるのか)が論点です。

 

 Yにおいて、当日夜の通話記録のほか、現在売買代金に相当する金額が預金されている銀行の証明書,Y主張日の処方箋の記録等が証拠提出されていた場合、Yの主張には、合理性がありそうです。

 

 しかし、証拠調の過程で、当該売買代金額が、Y名義で預金されたのは、決済日以降、特に、Xから、契約解除の通知を受けた後であった事実が判明したらどうでしょう。

 

 反対に、Xが、Yに対する売買契約解除の通知を出した直後に、第三者Zに対し、Yに対する売値の1.2倍の金額で、A土地の売買契約を締結していた事実が判明したらどうでしょう。

 

この場合、Xは、Yの『病気』をさいわいに、これをYの債務不履行と主張することで、より大きなもうけを考えた,つまり、反射的に、Yの主張に合理性があるのではないかの判断に傾くのではないでしょうか。

 

 また、決済当日夜の電話で、Yが、現在主張する突然の腹痛ではなく、「今日が決済日であることを忘れた」と言っていたらどうでしょう。

 

 これが実際の裁判です。裁判官は、あるきっかけ,それは、真実を見極めたということを意味するのですが、自信を持って、判断していると考えるべきなのです。もちろん、その判断が間違いであることが、ないとはいえませんが。

 

 以上の心証のなだれ現象は、法律相談を受ける弁護士としても当てはまります。

 

 相談者は、自分の一番知りたいこと,大切と考えていること,直截に言えば、自分の期待する回答を得たいと思って、法律相談を受けます。

 

 30分無料相談では、おそらく期待する回答が得られるでしょう。

 

 しかし、これでは、解決になりません。

 

 時間をかけて、詳しくお話を伺うと、相談者が気づかなかった,あるいは、気づきたくなかった事実が出てくることは、実に多いです。

 

 これに直面した弁護士は、本当の問題点を示し、相談者が目指すべきところ,事案解決の着地点をさぐります。

 

 法廷における裁判官,事務所での弁護士、いずれも心証のなだれ現象が起きた後どうするか、特に、相談を受けた弁護士は、どのようにサポートし、終結させるかが、とても大切と思っております。

 

調停とは、裁判所・調停委員会を介して、話し合いによって、当事者間の紛争を解決する手続です。

 

 どのような案件が、調停手続を利用するのにふさわしいのでしょうか。

 

 1つは、判決を得ても、本質的な問題は解決しない,あるいは、積み残しとなってしまうケースです。

 

 たとえば、家賃を滞納した賃借人に対し、契約を解除して、建物の明渡しを求める場合、明渡しを命ずる判決が出されても、被告,すなわち、現に居住する賃借人が家を出て、他に住居を定める資金に事欠けば、出て行こうにも出られません。

 

 あるいは、夫(又は妻)の不倫相手に対し、妻(又は夫)が、そのような関係は認めることができないとして、慰謝料を請求した場合、夫(又は妻)と不倫した被告に対し、お金を支払うよう命ずる判決が出され、その被告が、現に判決とおりのお金を支払っても、夫(又は妻)との不倫関係を止めなければ、本当の意味での解決にはなりません。

 

 もう1つは、事件の筋,正義はあっても、それを裏付ける証拠に乏しく、裁判を起こすことに躊躇されるケースがあります。

 

 きさらぎ法律事務所にいらっしゃる方で、よく『証拠』に関して言及され、不安を述べられるケースは少なくありません。

 

 私は、大切なことは、『証拠』ではなく、『事実』だと申し上げます。

 

 とはいえ、証拠裁判主義といわれるように、当事者の主張を、証拠によって認定された『事実』が、法律上真実とみなされるシステムであることは間違いありません。

 

 そのようなケースにあっては、民事調停を選択することが考えられます。

 

 もちろん、裁判所の手続ですから、法律に基づかない主張を言うだけでは何も進みません。

 

ただし、調停を申立てした当事者の要求は、充分ありえる話であり、それを裏付ける主張も、それ自体としては、決して不合理ではないと調停委員会が関心を持てば、たとえ証拠に乏しくても、調停相手方を、相当強く説得することが期待されます。

 

 しばしば申し上げるバランスに配した着地点に導くということです。

 

 たとえば、ある業者が、工事を頼まれて、現に着工して仕事を完成したが、契約書どころか、注文書も見積りもなく、誰が発注したかわからない,つまり、この工事を請負った業者は、誰に対して、いくらの工事代金を請求すべきか問題になるケースを聞知します。

 

 この場合、実際に工事が行なわれ、『誰か』は利益を得たことは間違いないのです。このようなケースで、厳密な法律論のみを言い、また、証拠云々の議論に留まることは、正義公正といえるのかということです。

 

 上記のようなケースは、これまで機会を得て、申し上げてまいりました。主として、これは調停を利用する代理人弁護士としての視点です。

 

 ところで、平成20年までの8年間、東京簡易裁判所の民事調停委員を担当した経験から、もっと裁判所の調停手続を利用していただきたいと感じることがあります。これは、いわば調停委員会としての目線かもしれません。

 

 次回以降にお話しいたします。

このところ、調停に臨んだ折に感じたこと,調停委員の対応等について、お話ししました。

 

 これをご覧になった方が、調停制度をネガティブに受取られたならば、本意ではありません。

 

 最近の経験から、「良い調停委員に当たった」と感じた例をお話しします。

 

 当事者代理人として、調停に携わる際、この調停委員会のもとで調停を進めたい,調停を成立させたいと感じることができたならば、それは、よい調停委員に当たったことになります。

 

 この場合、調停期日を重ねるごとに、少しずつ進展があり、やがて当事者の目指すべきところに収まります。

 

 ある調停では、期日の冒頭、まず調停委員から、前回期日までの到達点,この日宿題となっていた事柄について、案内があります。

 

 調停とは、話し合いの場ですが、ときとして、当事者それぞれが、論点と関係のないこと,また、感情論を述べることがあります。

 

 上記調停委員会の進め方は、後戻りしない,冷静に、そして、一歩一歩懸案事項を解決しようとする姿勢が見て取れ、当事者代理人として安心します。

 

 調停期日では、やがて当事者それぞれの『待ち時間』が、ほとんど同じくらいになっていきます。

 

 これは、難しい,厳しい事案であっても、調停委員が、単に声が大きい人の相手ばかりするのではなく、その主張・要求をもんで、説得・調整が働いているものと考えられます。

 

 調停期日では、ほとんど当事者代理人である私が、しゃべっていると申しました。

 

 ところが、調停の進行が落ち着いて、調停委員に進行を委ねられるようになると、当事者代理人が、口出しする場面は減ります。軌道修正の必要はないからです。

 

 このような調停委員に当たりますと、何回調停期日に足を運んでも、次に対する期待がもてるものです。

 

従って、調停期日を重ねるのは、調停がうまくいっている,成立に向っていることが多いのです。

 

 もっとも、良い調停委員は、当事者代理人が、調停委員には、「このようにあってほしい」と考えていることを、よくわかっているのです。

 

 調停委員会にわかってもらうこと、これが、代理人弁護士の職責でもあります。

 

平成20年3月までの8年間、東京簡易裁判所の民事調停委員を務めました。

 

調停をしきるタイプだった私は、今振り返ると、ずいぶんと余計なお世話をし、また、当事者の心情に思い至らず、積極的な進め方をしてきたのだと反省いたします。

 

繰り返し申し上げるとおり、調停は、紛争を解決するひとつの『場』であり、これを利用する当事者に、運営は、任されているものです。

 

ところで、調停委員を退任して、当事者の代理人の立場で調停に臨むとき、調停委員会は頼りない,逃げている等々と感じることがあることを、否定することはできません。

 

当事者が、調停手続を選択するのは、離婚等のいわゆる調停前置が義務つけられているケースはもとより、裁判,すなわち、判決を得ることで、本当の問題は解決しない事案であることが多いです。

 

たとえば、婚姻外男女関係を解消したいのに、相手が応じず、脅迫的言辞を吐いてつきまとう,また、名誉を害する言動をしたというケースでは、損害賠償請求の民事訴訟を提起すればよいのでしょうか。

 

それは否ですね。

 

当事者の希望は、二度とつきまとってほしくない,将来にわたって、安心・安全を確保したいことにあると思われます。

 

これを実現する『場』として、家事もしくは民事の調停が利用されます。

 

調停であれば、単にお金の問題とするのではなく、なぜそのような行動を執るのか、当事者の心の部分にも目を向けて、調整が進められ、また、調停の効果としても、接触禁止や秘密保持等を、当事者が約束することが可能となるでしょう。

 

しかし、せっかく調停を申立てしたのに、指導力・調整力が伴なっていないと感じる調停委員会に当たることも、ないではありません。

 

調停は話し合いの場,調停委員は、話を伝えるのが仕事だとして、調停相手方の主張・要求を吟味せず、意見もなく、ただ伝えるだけの調停委員がおります。

 

調停といえども、裁判所です。明らかに不合理,法律上成り立ち得ないような主張・要求がなされた場合、介入し、是正する,つまり、説得するのが、調停委員会の仕事です。

 

当事者は、この『場』を利用することが、自己の悩み,心配事,そして、奪われた権利を回復する最もふさわしいのだと判断して、調停に来ているはずです。

 

それなのに、単に調停委員は、調停相手方の言うことを伝えるだけで、決めるのは当事者,調停は、白黒決める場所ではないなどと言って、調整する意思がなければ、それは、調停とはいえません。

 

調停は、国民・市民のために存在します。

 

ですから、調停委員が、調停をしきってはなりませんし、また、調整しようと乗り出さないことも、正しい姿ではありません。

 

調停委員には、このあたりのバランスが求められます。

 

そのバランスは、調停当事者となった利用者の目線で求められるものです。

 

調停の主人公は、当事者です。

 

バランスを欠いた調停が行なわれていると感じられた方、どうぞ、きさらぎ法律事務所の初回無料相談をご利用ください。

 

そして、常々申しますとおり、調停は、必ず弁護士に依頼して行ないましょう。

 

 

 

 

前回、調停の当事者として、裁判所に提出した書面を、調停委員は、見ていないのではないか,しっかり読んでいるのか、不安を抱くことはなかったかのお伺いをしました。

 

実際に、調停委員が、記録をよく読みこまずに、調停に臨む(そのように感じられる)ケースがあることは、経験上、事実といわざるをえません。

 

この場合、当事者に代理人が就いていれば、心配はありません。

 

調停委員が、当事者本人が提出した資料,特に、主張書面をよく読んでいない――と感じられる――理由のもう1つには、調停は、話し合いをする場所という概念が、強調されすぎることがありえます。

 

それと、当事者に話をしてもらおう,直接話を聞いて、調停委員の経験,人生観等を示唆し、調整に乗り出そうという姿勢も、少なからず影響していると思います。

 

これは、以前お話しした『調停をしきる人』(リンク先:最近調停で感じることについて――思いつくままに(1))に通じるところでもあります。

 

確かに、調停の席では、当事者が、遠慮なく話ができること,調停委員が、真剣に話を聞いてくれることは大切です。

 

しかし、ときとして、調停の解決には関係ないと思われること,一から十までなんでも聞こうとしていることが、なくはないのです。

 

限られた時間を有効に使うため、当事者は、予め資料を提出します。これを見れば聞かずにすんだことを、延々と質問されると、うんざりするものです。

 

私が若いころ、ある夫婦関係調整に関する調停で、当事者双方とも離婚を求めているにも関わらず、調停委員が、開口一番

 

『どちらが先に好きになりましたか』

 

と質問したことがありました。

 

私も若かったので、笑ってすませることができませんでした。調停委員といろいろ応酬した末、この日たった1回の期日で、離婚は成立しました(成立させました)。

 

これは極論です。

 

経験を積んだ現在では、『記録を読んでいないな』と感じた調停の折には、うまいこと調停委員を持ち上げて、対処する術を身につけておりますが…。

 

調停委員が、なんでもかんでも聞いてくる,資料を読めばわかるだろうに…のケースとは、ある意味調停委員が、「自分たちの力で解決しよう」という熱心さがもたらすものといえます。

 

また、直接話を聞かなければ安心できないというのも、これと同じだと思います。

 

提出した資料を見ていない,記録を充分読んでいない,だから直接いろいろ聞いてくると感じられるあなた、弁護士が、代理人に就任すれば、それは解消されます。

 

代理人弁護士が提出した書面を、――本当は読んでいなくても、――「読んでいない」はありえません。あってはならないことです。

 

私は、調停委員は、全て当事者の代理人である弁護士が提出した資料は、読んで理解しているという前提で調停に臨み、調停委員会に進行を諮ります。

 

こんな状況で進められているのに、途中で「知らない」「読んでいない」は、ないでしょうということです。

 

また、調停期日でも、予め書面等で説明している事柄に関して、調停委員が、当事者本人,すなわち、私の依頼人に質問しようとしても、基本的に私が応答します。

 

すなわち、調停期日では、依頼者・当事者本人は、ほとんどしゃべることはないのが、私が進める調停の実態です。

 

調停委員が、記録を読んでいないと感じられる方、きさらぎ法律事務所の初回無料法律相談をご利用ください。

当事者代理人として、調停に臨むにあたり、いろいろな書面を提出します。

 

調停申立書は、既に裁判所に提出されておりますが、調停の進行に従い、当事者(依頼者)の立場で主張書面を出し、また、それを裏付ける,あるいは、説明に供する資料を多く提出することがあります。

 

主として、事実に関する認否や反論,法律的な主張をまとめたものを、民事裁判にならって、『準備書面』といい、事案の解明に有用な、依頼者の主張等を裏付け,補充するものを、『証拠書類』といいます。

 

民事調停・家事関係で、調停期日の前に、準備書面等を裁判所に提出してあるのに、調停期日で、「調停委員は、読んでいない」と感じることが、少なくありません。

 

担当する調停委員から、「よく見ていません」と申し出されることもあります。

 

なぜ調停委員は、記録を読み込んでいないのか、少なくとも、当事者代理人として、そのように感じるのか。

 

1つには、調停委員は、常勤ではなく、その事件のために裁判所に出向くので、記録を持ち歩くことも、手元に置くこともできない事情があります。

 

たとえば、ある日の午前10時から開始される調停に執務するのに、開始10分前に裁判所に出勤するのでは、予め当事者が提出しておいた準備書面を読んで理解し、当日の進行を諮ることは、容易ではないでしょう。

 

それでも、当事者に代理人が就いている案件では、開かれた調停期日の中で、代理人弁護士より、整理された主張等を聴取できるので、代理人弁護士の立場では、――あまり気分が良いものではありませんが、――実害はないと思っています。

 

しかし、弁護士に依頼せず、ご本人のみで調停に臨む場合はどうでしょう。

 

調停委員が、提出した書面等を見ていないと感じられる(実際見ていない)のは、なぜなのか。

 

次回は、このケースについて、お話ししたいと思います。

調停は、基本的に、申立人・相手方それぞれが、交互に調停室に入り、調停委員と話をするシステムです。

 

調停は、『互譲の精神』といって、自分の主張・要求ばかり通そうとするのではなく、調停の相手となった側の言い分も聞き、いくらか受け容れること,これを調整する役割が、調停委員会に課せられているといわれます。

 

調停期日に出頭して、ずいぶん待合室に待たされる経験はありませんか。

 

調停委員会は、調停を開始するにあたり、よく、双方の話を、均等に時間を割り当ててお聞きしますと言われることがあります。

 

しかし、30分どころか1時間待たされた,さらには、たとえば2時間行なわれた期日で、自分のほうは、わずか10分しか調停室に入っていないなど、ありえないことではありません。

 

弁護士に依頼せず、調停に臨まれた方からは、とても不安になるとお聞きします。

 

自分ではなく、相手の話ばかり聞いている,相手のほうが正しいと考えているのではないか,不公平だ,この先心配だ…

 

この不安は、もっともです。

 

もちろん、調停委員会が、声が大きい人の方ばかり向くなど、あってはならないことです。

 

待ち時間が長い調停,実は、私が代理人として担当する案件は、ほとんどがその側なのですが、その理由はなんでしょう。

 

代理人として関与する弁護士の立場から申しますと、それは、調停委員会が、こちらの主張・提案を相手方に伝え、その内容が、当該紛争の収拾にふさわしい,落し処を押さえたものであるがゆえに、なんとか相手側を、説得しようとしているからです。

 

調停に臨まれる方は、相手の方は分からず屋,おかしいのだと思っておられるでしょう。

 

その難しい人に対して、決して追い詰めることなく、着地できるよう説得するのが、この種事案における調停委員会の役割です。

 

特に、当事者の感情的対立が峻烈な家庭裁判所の調停事件を、比較的多く担当する経験から申しますと、2時間待たされた,午後1時30分に始まった調停が、午後6時過ぎまでかかったなど、よくあることなのです。

 

これは、悪いことではありません。調停委員会が、なんとしても解決したいと考え、相手の側を説得しているからです。

 

このようなときは、調停委員会の労を多として、さらにこちらが、ほんの少し降りること,ハードルを下げることも肝要です。きっと解決します。

 

しかしながら、これは、弁護士が、代理人として関与した場合の話です。

 

代理人,すなわち、あなたをサポートする法律専門家がいないケースでは、誠に残念ながら、本当に調停委員が、「声の大きい人」の話に翻弄され、落ち着かせることなく、時間を徒過されているのかもしれません。

 

実際、本人申立て(あるいは、相手方となって出廷)した方の案件で、途中から代理人に就任したケースでは、ほとんど例外なく、「調停委員の態度が変わった」「調停室での話の内容も、全然前と違う」との感想を述べられます。

 

要するに、調停は、必ず弁護士に委任して行なう必要があるということです。

司法委員は、簡易裁判所の民事事件に関与します。

 

簡易裁判所は、訴訟物の価額が、金1,400,000円以下の民事訴訟を扱います。

 

ですから、クレジット会社や、昔のサラ金等からの支払いを求める案件,反対に、消費者から、これら業者に対する過払金の支払いを求める案件が、大半であることは事実です。

 

これら案件は、事実関係に争いはなく、「どうやって支払いますか」という司法和解になじむことが多いです。

 

ところで、ときに、業者ではなく、代理人(弁護士又は認定司法書士)が就いていないいわゆる本人訴訟で、強く判決を求めるケースが見受けられます。

 

裁判所は、紛争を最終的に解決する場であり、法律と良心に従い、公正に判断をされるのが職責です。当事者が、判決を希望するのは、当然といえば当然です。

 

しかし、手続を執る当事者は、裁判所を利用することで、問題は解決すると考えておられるのです。

 

勝訴判決を得ても、その内容が、請求したとおりであったとしても、『問題は解決しない』ケースがあるのではないでしょうか。

 

判決を得ることイコール問題解決となるケースは、履行,執行を要しない事案です。

 

たとえば、「被告は、原告に対し、平成○○年△月×日、売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ」「原告の被告に対する不法行為に基づく金1,000,000円の損害賠償債務が存在しないことを確認する」なる判決主文であれば、これで解決するはずです。

 

前者は、判決正本と確定証明書を、登記所(具体的には司法書士)に提出すれば、そのような登記が完了しますし、後者は、もともと払いたくない,払う必要がない金員について、裁判所が、「そのとおり」とお墨付きを与えたのであり、これで、被告(債権を主張した者)の請求は、認められなくなったからです。

 

つまり、被告すなわち相手方の行為(協力?)を得ることなく、権利を実現でき、紛争が解決するのでなければ、折角の判決が、絵に画いた餅となってしまうのです。

 

典型的な例は、建物明渡しの事案です。

 

すなわち、賃借人だった人が、債務不履行に陥って、契約が解除となり、出ていかなければならないとしても、行くあてがない,引っ越し費用がないときは、どうすればよいのでしょうか。

 

もちろん、判決に従って、強制執行の申立てはできます。しかし、何十万円の費用(弁護士費用ではありません)を要することは、よく聞くところです。

 

また、お金を払えという判決が出ても、今手元にお金がなければ、支払いをしたくても、判決とおりの支払いをすることができません。

 

それでは、どんなケースが、判決を得ても、それだけでは解決しないのか、はたまた、和解手続を執ったとしたら、解決するでしょうか。

 

それは、弁護士としての経験,司法委員や民事調停委員を経験した者としてのお答えにならざるをえません。

 

要は、ケースバイケースです。具体的なご相談内容をお聞きした上で、申し上げます。

 

ですから、法律問題に遭遇した場合,紛争を抱えた場合は、必ず弁護士に相談していただきたいのです。

 

これは、民事調停や現実の司法和解手続が遂行中であっても、同様です。

 

問題を解決したくて、裁判にした(裁判にしようと思っている),しかし、問題は、解決しなかった(本当に解決するかどうか、不安を感じる)方、どうぞ、きさらぎ法律事務所の初回無料相談をご利用ください。

前回は、調停を『しきる人』について、お話ししました。

 

調停に臨まれた際に、せかされる,すぐに答えを求められるような経験はありませんか。

 

もちろん、常々申し上げる弁護士が代理人となって調停に臨まれる限り、そのように感じられることはないはずです。

 

たとえば、「分割払いにしなさい」とか、「その問題は、別の機会に」などと、当事者の希望,説明を充分聞かないで、調停を進めよう,まとめようと感じることはあるのではないでしょうか。

 

申立人が、金3,000,000円を請求している事案で、相手方は、それは不当であり、金1,000,000円しか支払義務がないと争ったようなケースで、足して2で割るがごとき、「それなら、双方2,000,000円で合意したらどうですか」と、調停案(?)を出されることも、ないではありません。

 

なぜそうなるのか,なぜそう感じるのか。

 

良く言えば、調停委員の経験上、同種案件を踏まえた『落し処』を見ているのかもしれません。

 

しかし、中には、当事者が言っていることが、よく理解,整理できていない事案や、少なくない法的論点,専門性を要する事案にあたったとき、本音として、「よくわからない」「面倒だ」と思って、「早く終わりにしよう」「深入りはしない」調停委員会が存在することは、否定できないと思っています。

 

当事者に代理人が就いているケースでは、主張が整理されておりますから、調停委員会が、「わからない」と感じることはありません。

 

このようなケースでは、調停委員会が、急ぐ必要はないのです。調停は、場の提供であり、これを活用する当事者に、まかせておけばよいからです。

 

また、調停委員が、「法律を知らない」ことが見受けられます。

 

全ての調停委員が、法律専門家ではないので、当然といえば当然です。

 

そんなケースでも、当事者に代理人が就いていれば、問題はありません。

 

しかし、当事者に代理人が就いていない,そして、調停委員が、法律専門家ではない組み合わせでは、自ら難解な法律解釈に、立ち入ることはできないのではないでしょうか。

 

そんなとき、隠れた問題点を見過ごし、うわべだけの検討・調整に限ってしまうとか、調停を成立させた後に、本当に当事者の希望が実現できる調停内容となっていたのか、問題の積み残しをしてしまう危険性があるのです。

 

調停委員が、「急いでいる」「早く結論を求めている」と感じられるケースがありましたら、本当に調停委員会は、問題点を理解し、当事者の主張を整理できているのか、端的に言えば、法律をわかっているのか、考えられるべきです。

 

残念ながら、このような経験をされた方もまた、法的素人です。これでは、上手な実効性のある調停が、進められることは困難です。

 

常々申しますとおり、調停は、必ず弁護士に依頼して行ないましょう。

 

民事調停であれ、家事調停であれ、調停事件の当事者となった場合、必ず弁護士に委任してください。

 

これは、きさらぎ法律事務所のホームページ随所に記載し、事務所での初回無料相談の際に、常に申し上げているとおりです。

 

従って、表題の調停で感じる事柄は、調停申立人又は調停相手方として、依頼者の代理人の立場で、調停に臨む際のものであります。もちろん、全ての調停,全ての調停委員が、「そうだ」というわけではありません。

 

調停をしきろうとする人がおります。

 

これは、使命感・熱意の裏返しかもしれません。実は、かくいう弁護士福本悟が、このタイプの民事調停委員でした。

 

調停とは、当事者が主張し、希望し、資料を集め、当事者を調整・説得し、紛争を解決する『場』にすぎません。

 

この『場』に何を持ち込むか、また、この『場』に居合わせた調停委員に、何を訴え求めるかは、全てこの『場』を利用する当事者が行なうべきです。

 

要するに、余計なお世話はしないでくださいということです。

 

特に、当事者に代理人が就いているケースでは、代理人弁護士によって、既にもまれ、整理され、法的な主張に高められて、この場所に持ち込まれるのです。

 

当事者代理人をさしおいて、当事者本人に、あれこれ聞き出し、何か発見し、自分たちの手で何か決めよう、教えようとする必要はないのです。

 

これは、代理人弁護士としての経験から申し上げました。

 

しかし、代理人に委任せず、当事者本人として、調停に臨まれる場合はどうでしょう。

 

もともと調停委員会がなんとかしてくれる,裁判ではないし、間に入って話を聞いてくれると思われること自体が間違いであることは、既に申し上げました。

 

そうすると、当事者として、自分は一生懸命頑張っている,この『場』をこのように利用したいと思われて、調停に臨んだところ、「あーだ、こーだ」と介入され、「こうしなさい」「これは何ですか」等々まくしたてられては、かなわないのではないでしょうか。

 

きさらぎ法律事務所にお越しになる方から、よく「調停委員は、自分の話を聞いてくれなかった」「こうだと決めつけられて、話せなくなった」等の不満をお聞きすることがあります。

 

もちろん、この『場』の主人公がご自身との認識がない方も、おられなかったわけではありません。

 

しかし、そのほとんどが、その調停委員の経験に基づく事件の筋,着地点が、一般的・抽象的に見えるがゆえに、『余計なお世話』がなされるのだと思います。

 

このホームページで、常々申し上げる『事件の筋』『落し処』は、とても大切です。

 

しかし、これらは、その当事者ひとりひとり,事件ひとつひとつによって、変わってくるものです。まさしく、生きた事件なのです。

 

確かに、当事者に代理人が就いていないケースでは、調停委員は、実質的公平の見地から、流々当事者に質問し、意見を言うのだろうと思われます。このこと自体は、間違いではないと考えます。

 

しかし、今、この場で行なわれ、調整されようとしている『事件』は、過去存在し、解決・終結した事案ではないのです。一般論――ときに、これが、道徳論にまで発展することもありますが――でまとめ込められる案件ではないはずです。

 

代理人として関与する調停で、あるいは、経験と正義感から、このような『余計なお世話』『不当な介入』をされる調停委員にあった場合は、毅然として、強く物申します。

 

調停委員会のその後の対応が変わることは、いうまでもありません。ひきしまった,緊張した調停が進められます。

 

そして、調停委員に対して、毅然として対応するという姿勢は、調停委員会を通して、事件の相手方にも伝わります。

 

調停委員に対して、はっきり物申す弁護士は、それこそ余計なお世話をしていることになるのでしょうか?

簡易裁判所における民事事件では、和解の試みを補助したり、訴訟の審理に立ち会って、意見を述べる者として、司法委員がおります。

 これは、一般の社会人の助言等を得ることによって、良識や専門知識を、裁判に反映させることを目的とする制度ですが、現実には、裁判官を補助するのではなく、訴訟当事者が、この裁判手続の中で、紛争に終止符を打つことができるようサポートすることが、司法委員に課せられた職責となっていると思います。

 簡易裁判所に係属する民事事件のうち、司法委員に関与させる案件を決めるのは、担当裁判官です。裁判官は、司法委員が手続に関与することにより、解決できると見込まれた案件を選んで、配転いたします。

 たとえば、原告が、被告に対しお金を貸したが、その返済がないという事案を考えてみましょう。

 返済の約束をして、実際にお金を渡し、そしてその期限が到来したのだとすると、お金を借りた被告が、たとえばもう支払ったなどの、弁済をしなくてもよい事実を主張しない限り、原告の請求は認められます。

 もし、被告が支払いをしない理由が、支払いができない,つまり、お金がないから支払えない場合ならば、いかに裁判所が、支払いをしなさいと判決しても、事実上支払いをすることは不可能でしょう。

 その場合、被告には、財産収入がなくて、本当に支払いをしたくてもできないこともあれば、今まとめて支払うのは無理だが、毎月給与の中から、分割して支払うことなら、数年後完済可能ということもありえます。

 どのような方法で、どうしたら支払えるのか、司法委員が、当事者の間に入って、調整することがあるのです。

 裁判官が、判決をしても、実際は、問題は解決しない,つまり、今の例では、原告が、判決をもらった途端に、お金が入るものではない場合に、司法委員に補助させるわけです。

 もし、簡易裁判所に係属する民事事件の当事者になった場合、裁判官が、「司法委員に入ってもらいます」と言ったならば、裁判官は、当事者にとって、これは解決できる案件だと見込んでいるとお考えください。

 司法委員の前では、尋ねられたことはそのままお答えし、わからないこと,不安なところは、遠慮なくお尋ねになるとよいでしょう。解決できるはずです。

40代の8年間、東京簡易裁判所の民事調停委員を歴任し、現在は、別の裁判所で、司法委員を務めております。

 調停委員司法委員の意義・役割等については、多くの概説書で語られておりますので、改めてのご説明は、省略いたします。

  むしろ、本稿をご覧いただく皆様は、現に調停や裁判が係属中,あるいは、それが予想される状況にあって、実際のご自分のお立場で、調停委員等に、どのように対処し、また、ご自身が置かれた問題を、その手続の中で解決できるのか、その手がかり,ヒントをお求めなのではないでしょうか。

 長らく本稿を更新いたしませんでしたが、きさらぎ法律事務所のホームページの中では、「民事調停委員・司法委員の経験から」が、常にアクセスカウントが多いことも、また事実であります。

 そこで、弁護士福本悟の経験,感じたことを、折に触れてお話ししたいと思います。

 まず確認していただきたいことがございます。それは、『調停は、必ず弁護士に委任して行なう』ことであります。

  これは、これまで繰り返しご説明申し上げました。また、離婚や,男女関係等の問題で、きさらぎ法律事務所の初回無料相談に臨まれた皆様に対し、「本日1つでも覚えていただきたいことがあります。それは、『調停は、弁護士に依頼すること』。これだけでもご理解いただければ、必ず収まり、解決いたします」と申し上げております。

 それでは、このことがどのように、実際の調停や裁判の場に現れるのか、次回以降、少しずつ具体例をお話しいたします。

簡易裁判所の民事調停委員と、司法委員に選任されて、『裁判所から見た調停の経験』と、きさらぎ法律事務所にいらっしゃるご相談者は、比較的、家庭裁判所に関係する案件が多いので、『当事者の代理人』として携わった調停の経験から、最初に、一番大切なことを申します。

 それは、

『調停は、必ず弁護士に委任して行なうこと』
『弁護士に頼まない調停は、やってはいけない』

 ということです。

 このことは、きさらぎ法律事務所ホームページで、詳細にご説明するものです。

 そして、私が法律相談の担当者として、弁護士会や法律相談センター等に赴く機会においても、当事務所内で相談を受けているときでも、とにかくあらゆる場面で、申し上げていることです。

 法律相談を受けている際、調停制度や調停委員に対する不満を、よく耳にします。

 不満を持っている方のほとんどが、弁護士を選任されておりません。

 片や、弁護士が就いており、調停の進行や、その結果について不満がある方については、当然、その不満は、担当弁護士に向けられます。

 その場合は、実は、『調停に対する不満』ではなく、『弁護士に対する不満』を意味します。

 それは、要するに、『弁護士と依頼者がうまくいっていない』ということです。

 『調停』とは、調停委員が、当事者の言い分を聞いて、裁判所で調整を試みる,つまり、『話し合いの場を提供する手続』です。

 調停委員会は、文字とおり、『調整・調停』をするのであって、弁護士のように、『当事者の代理人』として、活動する立場にはありません。

 つまり、調停委員は、どちらか一方の調停当事者の味方でもないのです。

 この調整・調停の場に、何を持ち込むか,この場を利用して、つまり、味方につけて、依頼者のため、納得できる結果を得ようとするのが、当事者の代理人である弁護士の仕事です。

 要するに、

裁判ではないから、弁護士を入れなくても、本人でもできる』

 と考えるのではなく、

『裁判ではないから、法律を駆使し、裁判に出ることを仕事としている弁護士に率先して入ってもう』

 と思い、それによって、

『裁判と同じような有力なアシストを受けられる』

 とお考えください。

 それと、調停委員会は、裁判官が主催し、民間から選ばれる調停委員2名から構成されますが、裁判官は、ほとんど調停の場に、姿を現すことはありません。

 さらに、調停委員は、実は、そのほとんどが、弁護士や、裁判所の仕事に携わっていたような、いわゆる法律専門家が選任,担当することはないのです。

 特に、離婚等の男女や家族の問題を扱う家庭裁判所の家事調停委員は、まず、法曹資格を有しない方が担当します。

 もちろん、心理学,児童学,社会学等に堪能な、あるいは、民生委員,消費生活アドバイザー,教員等の様々な経験を積んだ方が選任されるので、それ自体は、調停を充実させるに、大いに役立っているものです。

 しかし、場所は裁判所です。

 時として、あまり法律的ではない権利義務,というよりも、『人情や道徳を声高に言われる』と感じられることがあると思われます。

 特に、調停が成立した際、作成される調停調書は、確定判決と同じ効力が生じるとても大切な書類です。

 たとえば、離婚の場合、

①申立人と相手方を離婚する
②申立人と相手方の未完成の子○○の親権者を、申立人と定める

 との調停調書が作成されるならわしです。

 この調書に、どのような内容を盛り込むかについても、代理人弁護士の役割は大切です。

 弁護士が就いておらず、当事者同士で調停が成立し、離婚する場合、調書作成の後、調停委員より、「事務処理上の問題は、当事者で話し合って」と、言われます。

 しかし、離婚して、絶縁する者同士に連絡を取り合って協力することなど、期待できるでしょうか。

 健康保険証の扱い,荷物の引渡し,児童手当等の送金口座についてなど、離婚にあたって、いろいろ取り決めしなければならない事柄があるはずです。

 弁護士が代理人として、調停に臨む場合、当然、依頼者が何を、どこまで希望しているか、把握して職務遂行いたします。

 先の例で、せっかく求めた離婚が書類上決まったとしても、処理すべき諸々を積み残しては、本当の意味での解決,解放にはなりえません。

 調停とは、『場所の設定』と、心得ておかれるべきでしょう。

 この場所を、『どのように利用するか』が肝要です。

 調停委員に対する不満,調停手続に対する批判を耳にするケースのほとんどは、相談者の主張,要望が、調停委員会に伝わっていないために起きるものであると感じます。

 依頼者を補佐し、調停委員会に対して動いてもらう,事件の相手方に対する説得をお願いするのは、まさしく弁護士の仕事なのです。

 繰り返し申し上げます。

調停は、必ず弁護士に依頼しましょう。

前回に引き続き、『過払金問題』についてお話しします。

 前回では、司法委員としての経験についてお話ししましたが、裁判所から選任された破産管財人,個人再生委員として、同様の経験をしたことがあります。

 と、いうよりも、『問題意識を持つ機会が増えている』と言っても、過言ではありません。

 破産手続開始決定申立てをするにも、破産予納金が必要です。

 そこで、まず、過払金を回収して、手続費用を維持してから、申立てをすることはよいのです。

 なぜなら、破産という公正な手続を進めるにあたって、必要不可欠な費用(共益的費用)の確保に当たるからです。

 しかし、その限度を超えて、債務整理の依頼を受けた代理人弁護士,または司法書士が、過払金を回収に傾注することは、公正さを疑われる事情にもなり得ます。

 もし、過払金の回収を、裁判所が選任した破産管財人が遂行するならば、裁判所の監督もあり、回収した過払金は、公平に破産管財人より、債権者に配当されます。

 過払金も、破産者の『資産』であり、破産債権者の大切な引当て財産だからです。

 ところが、破産前に回収した過払金(たとえば、債務整理の依頼を受けた代理人が回収した過払金等)が、どのように,いくら使われたのか、一部の債権者の支払いに廻ったのかなど、破産裁判所,破産管財人の関与がありませんので、基本的に『不明』というほかはありません。

 それでも、過払金を回収後も、支払不能であるゆえに、破産手続開始決定の申立てができれば、上記のとおり、破産管財人が、過払金回収が適正になされていたかどうかについて、可能な限り調査いたしますので、まだ、公正さは保っておりますし、なによりも、依頼者(債務者)にとって、解決に進むことにはなっています。

 しかし、過払金を食いつぶして破産もできない、だからといって、もはや過払金返還請求事件を依頼した弁護士・司法書士などとの委任関係は終了してしまって、対応してもらえないのは、悲劇というべきでしょう。

 要するに、『過払金』に飛びつかないことが肝要です。

 当職の依頼人となられて、結果的に、過払金を充当するなどにより、全ての債務を消滅させ、『おつり』が出た方はおられます。

 しかし、そのような場合であっても、お金を借りたことは事実で、今後の生活設計の戒めを述べさせていただいているものです。

過払金がある,あるいは、それが気になる方は、裏を返せば、

① 現在、債務を負担した形になっている 
② 請求を受けている 
③ 少なくとも、債務を負担した事実がある

 ことになります。

 かかる場合、自らが負担したことになる『債務』の処理をどうするかの観点から、専門家のもとに赴かれるべきです。

 そして、辿り着き、応対したその専門家が、

① 過払金の話しかしないような場合
② 「とにかくやってみましょう」程度の依頼内容を曖昧のまま進める場合 
③ 破産,個人再生,任意整理が必要となった場合に、「別途、委任契約を結ぶ必要がある」
  (裏返せば、依頼を受けない可能性がある)との口吻であった場合

債務整理事件の依頼は、慎重になさるべきです。

 特に、広告等で、『過払金』が最も目立つ『専門家』には、注意すべきです。

 決して、広告の案内のみで判断しないことです。

きさらぎ法律事務所は、事務所内での初回相談は、――債務の問題だけではなく、全ての法律問題について――無料で、特に、時間制限は設けておりません。

弁護士以外の者が、応対することもありません。

 その理由は、『無料相談の理由』をご覧ください。

 『債務』と『過払金』は、裏表の関係にあります。

 過払金で後悔しないため、抱えた問題について解決できるよう、ぜひとも、きさらぎ法律事務所弁護士福本悟にご相談ください。

ここ数年、法律事務所や司法書士事務所等の宣伝・広告を、あちこちで目にするようになりました。

 そして、それに比例するように、電車内の広告や、テレビコマーシャル,新聞や雑誌等で、『払いすぎたお金を取り戻せます』,『過払金を取り返そう』という『過払金の請求』をうたい文句にしている広告が多いように見受けられます。

 司法委員を務めておりますと、『過払金』に関する事案を目にすることが多く、特に最近では、クレジット会社やサラ金業者等(以下、『クレサラ業者』と言います)の金融機関に対する過払金請求訴訟は、増える一方です。

 そこで今回は、司法委員の目線から、過払金などの債権・債務に関する事件に潜む問題点について、お話ししたいと思います。

 まず、過払金請求訴訟は、その金額にもよりますが、そのほとんどが、簡易裁判所の『管轄』となります。

 つまり、簡易裁判所は、

  ① 『訴訟物の価額が90万円以下(現在は140万円以下)の民事訴訟の管轄権』を持ち、
② 『許可代理』という制度があり、弁護士以外の者を、訴訟代理人に選任することができる

 という特色があります。

 かつての傾向として、債務者(借主)の支払いが滞って、事実上の取立行為が奏効しないと、債務者を『被告』として、クレサラ業者は、債権の取立訴訟を簡易裁判所に提起し、判決によって、金銭の回収を図る(取立てを行なう)というケースが見受けられました。

 司法委員を務めておりますと、②の『許可代理』という制度を利用して、原告席には、『クレサラ業者の訴訟担当者(クレサラ業者の社員)』が、入れ替り立ち替わりやって来るという光景を、多く目にします。

 つまり、簡易裁判所の制度をうまく使用し、『裁判手続を使って、合法に取立てを行なう』という現象があったのです。

 そのため、このような現象を、『簡易裁判所は、クレサラ業者の取立機関と化している』と、酷評されてしまいました。

 確かに、貸金業法や、破産法が改正される数年前までは、そんな感じがいたしました。

 ところが、最近では、『過払金訴訟』が、急激に増加しました。

 それにより、被告席には、クレサラ業者の担当者,原告席には、債務者(借主)の代理人として、司法書士のほか、いつも同じ弁護士が、いくつもの過払金返還請求訴訟の代理人として、席についている姿が目につきます。

 特に、都心から離れた小規模な簡易裁判所では、弁護士の出廷は少なく、ほとんどが、裁判所での訴訟活動が認められた『認定司法書士』で、しかも、「いつも同じような顔ぶれが並ぶ」と知聞します。

  過払金とは、要するに、利息制限法を超えている部分――しかし、貸金業法の範囲内の利息である(『グレーゾーン金利』と呼ばれる部分) ――の利息を支払った場合には、所定の利息制限法の利率に引き直して計算をし、利息制限法を超えて、『払い過ぎ』となった場合、債務者(借主)が、債権者(貸主)に対して、その返還を求めることができる金員を意味します。

 『過払金』は、取引経過の開示義務や、『みなし弁済』の要件に関する裁判例の集積により、債務者(借主)に、有利な解釈・運用が定着し、ここ数年、一気に脚光を浴びた分野といえます。

 これと同時期に、司法書士にも、簡易裁判所での訴訟代理権が立法によって認められ、また、『弁護士報酬の完全自由化』が打ち出されたことなどの要因が重なって、『過払金特需』などと酷評されるような、『過払金をメインに事件を受任する』などのビジネス化した実体があることを、否定することはできません。

 これまでサラ金業者は、いわゆる『グレーゾーン』で利得し、多重債務者の自殺、夜逃げ、犯罪などといった社会問題を生み出したと評される現実がありました。

 このようなサラ金業者を、決して擁護するものではありません。

 しかし、最近では、サラ金業者に対して請求できる『過払金』の問題も、ひとつの『社会問題化』していると感じます、

 司法委員として、和解勧試等を仰せつかる案件で、訴訟の対象とされた債務以外にも、他に債務を抱えられた方に出会います。

 以前申し上げましたが、たった1件の債務で、金融機関から提訴されるケースは、稀です。

 先にも申しましたように、簡易裁判所は、訴額140万円の民事訴訟を担当しますが、『140万円以内の請求にするかどうか』は、原告である金融業者の自由です。

 たとえば、1000万円の債権を有する金融業者等が、このうち、簡易裁判所で裁判を行なうために、1000万円のうち、『140万円を請求する』との内容の訴訟を提起する形態は、少なくありません。

 なぜなら、簡易裁判所に提訴すれば、クレサラ業者の社員が、弁護士,認定司法書士でなくても、訴訟代理人になれるという制度が影響していると思われるからです。

 最近経験するのは、『提訴された本件債務以外にも債務がある。ところが、この裁判までの間に、弁護士,又は、司法書士に依頼して、数百万円の過払金を回収した』というケースです。

 もちろん、形式的には、弁護士等は、依頼の趣旨に限り、委任契約の範囲で業務を遂行すれば良く、『過払金回収のみ』を依頼されたのであれば、過払金返還請求権を有する依頼者の『債務整理』は、受任外となるのでしょう。

 なぜなら、『債務整理』と、『過払金返還請求』は、事件の内容が違うのです。

 『過払金返還請求』について依頼をすれば、それ以外の債務についても、必ず解決してくれるとは限りません。

 つまり、『過払金回収のみ』を依頼した依頼者は、抱えている『本当の問題』を、解決してもらったことにはならないのです。

 多重債務の相談を受けた折、「とにかく、業者の取引経過を見て、計算してから方針を決めましょう」とお答えすることはあります。

 しかし、この場合であっても、本当の依頼の趣旨は、『債務の問題から解放されたい!』ことのはずです。

 過払金の回収によって、全ての債務が無くなった(過払分を、他の債務に充当するようなやり方も含む)のであれば、結構なことですが、過払金を回収して、弁護士費用や生活費に消費してしまってから、残った債務について、これからどうするかを考えるのでは、手遅れとなるケースが少なくないのです。

 たとえば、元事業主のAさんが、信用保証協会や、サービサーといわれる債権回収機構に債務を負担したが、現在廃業して、定収入がないという現状だったとしましょう。

 あるいは、Aさんの債務の額そのものは、高額ではなかった,しかし、現在失業中であるとか、年金や、生活保護を受給されている等の事情があるとしましょう。

 この場合、問題にすべきことは、①『残った債務』をどのようにして支払うのか,②そもそも、これら債務を支払うべきなのかといったことを、考えなければいけません。

 弁護士等の法律専門家は、上記①,②の視点に立って、法律相談に対応し、この先どうすべきか等の道筋を示し、かつ、着地点を回答し、『債務の問題から解放されたい!』という相談者の本当の望みをかなえるために助言し、依頼を受けるべきなのです。

 一方で、これだけ大々的に、『過払金を取り戻せる』との宣伝がなされますと、「私も長年サラ金業者に支払いをしているから、過払金を保有しているのではないか…」と思われた債務者の方,または、「当面、過払金を回収できれば、そのお金で食い繋いでいけるかもしれない…」との視点から、「過払金の返還請求のみをお願いします」と、事件処理の内容を限定して、弁護士等の法律専門家に、事件依頼をされる方も、いらっしゃるかもしれません。

 ここに、『相談者』=『債務者』と、『受任者』=『(一部の)弁護士』,または、『司法書士』の利害が一致し、『過払金を食いつぶすケース』が発生するのです。

 つまり、数百万円の過払金を回収し(食いつぶし)たけれども、訴えを起こされた債務の支払いに苦慮し、しかも、他にも債務を抱えていらっしゃる,そして、ご自身は、失業中か、安定収入を得る見込みが乏しいという方に、司法委員として、和解を勧めることはいたしません。

 裁判所司法委員は、以前は、過払金を持っていたという方が、現在、支払いができない状況になってしまった場合、「以前、過払金を回収して、数百万円持っていたではないか。だから支払いなさい」と説諭,仲介などはできません。

 そのため、提訴された業者以外にも債務を負担し、しかし、定収入がない等で、およそ支払いが不可能なケース,あるいは、他の債務の支払いも勘案して、支払方法等を考える必要があるケース等々では、司法委員としては、弁護士等の法律専門家に相談し、もう一度、ご自分の生活状況と、債務の状況をよく見直すべきであると、お勧めします。

 私たち裁判所司法委員は、自分が担当する1件についてのみ判断し、関与することしかできないからです。

 しかし、既に過払金返還請求の件で、弁護士・司法書士に相談し、事件依頼をされた方に対し、上記のようなことを申し上げるのは、同じ弁護士として辛く、情けないことです。

 なぜなら、その方々は、法律専門家に巡り会って、費用を支払ったけれども、問題の解決には至ってはいないからです。

 では、何が問題で、一体どうすればよいのでしょうか。

 長くなりましたので、この続きは、次回にお話ししたいと思います。

『今回は、簡易裁判所の司法委員を務めている経験から、お話ししたいと思います。

 簡易裁判所の司法委員が担当する具体的な『仕事』は、裁判官の命により、これを補佐すべく、①訴訟上の和解の試み ②当事者の主張の整理 ③当事者の立証準備に有用となる助言・指導・仲介等です。

 これまで実際に多いのは、金融業者から支払いを求められた私人(債務者)の支払可能性に配慮した和解の勧試であります。

 司法委員として、簡易裁判所で業務に従事する際、しばしば思うことがあります。それは、『弁護士(又は認定司法書士)に相談し、できれば事件依頼して欲しい』ということです。

 言うまでもなく、裁判所は、現に係属する1件について、解決を求められます。

 しかも、当事者、つまり、貸金請求事件であれば、債権者と債務者の双方に、公平でなければなりません。

  もちろん、弁護士の立場から申せば、もともと力関係に差がある当事者(会社対個人等)にあっては、『実質的公平』こそ重要であり、この観点から、あくまで裁判所の立場を大きく外れることがない範囲で、補佐・フォローすることはあります。

 しかし、司法委員は、代理人,すなわち、当事者の補助者ではないのです。

 たとえば、金融業者から訴えられた債務者は、代理人(弁護士又は認定司法書士)に事件処理を依頼することなく裁判を続けていたところ、司法委員が入ることで、分割払いが可能であることがわかると、『毎月5,000円ずつ支払う』など、ご自身の生計,すなわち、支払能力を振り返ることなく申し出され、これを受けた業者,つまり、債権者との間で、金額増減の交渉が始まるのが実際の例です。

 しかし、たとえば生活保護受給者、無職・無収入の方、さらには、いわゆる多重債務者の方が、本当にそのような支払いを継続することができるのでしょうか。

 ある債務者の場合、A社からD社までの4業者から次々と訴えられ、その都度、分割払いの和解を成立させて、訴訟を終結させたと聞くことがあります。

 せっかく裁判所に来て、『和解』するのですから、当事者にとって、意味のある内容、つまり、ご自身の生活状況や生計に見合った内容の『和解』でなければなりません。

 ところが、裁判所に係属した『貸金請求訴訟』では、債務者の支払能力を細かく検討することは困難です。

 弁護士等であれば、単に一つの訴訟への対応のみならず、問題を抱えている当事者(依頼者)にとって、最も良いと考えられる解決策を示します。

 そして、司法委員として、裁判所から、当事者の主張を整理する役割を仰せつかるケースも多いです。

 これは、裁判所は、特に、法律的な問題点があると見ているゆえに、弁護士資格を有する司法委員に、割り振りすると考えられます。

 例示すれば、『自動車の物損事故の被害者は誰か』、『請負契約は誰と誰の間に成立したか』、『この売掛金の消滅時効は何年か』、など、法律的な判断を要するものがありえます。

 また、外形と真実が異なる場合,あるいは、権限の有無の法理論を巡っては、実にいろいろな法規の適用が考えられます。

 たとえば、民法の心裡留保(93条),虚偽表示(95条),表見代理(110条),商法の表見支配人(24条),会社法の表見代表取締役(354条)などが、これです。

 裁判所は、上記に述べたような問題点について、その『解決法』や『筋道』などを教えることはできません。つまり、司法委員も、基本的に同じ立場なのです。

 司法委員として、専門家に相談するよう勧めるケースは、その当事者にとって、『専門家の援助を得ることにより、可及的速やかな解決が可能ではないか』と見ている証なのです。

 「裁判所が理解してくれない」と不満気な感を持たれる当事者を見受けることがあります。

 確かに裁判所は、紛争等を解決する機関です。しかし、その『場』は、利用する当事者によって、いかようにも活用できます。

 民事も刑事も、『当事者主義』といわれます。裁判所が、積極的に何かしてくれると思わないことが大切です。裁判所は、当事者から与えられたテーマについて、『場』を提供するのです。

 改めて、援助者である弁護士の重要性を申し上げたいと思います。

 そして、このような案件に精通した弁護士に巡り会い、まずは相談をするということが望まれます。

 たとえば、弁護士会の法律相談は、30分5,250円が基本ですが、日本司法支援センター法テラスは、相談料は無料です。

 しかも、法テラスでは、弁護士が必要と判断されて、法律援助決定された案件については、弁護士費用を立替えてくれます(サービス一覧)。

 簡易裁判所は、訴額140万円以下の案件の管轄を有する関係で、比較的少額な訴訟が多いのですが、日本弁護士連合会の弁護士検索や、ひまわりサーチ、各地域の弁護士会の法律相談所を利用することにより、それぞれの紛争の内容に精通した弁護士を見つけることも可能です。

 そして、きさらぎ法律事務所は、どのような案件であっても、事務所内での初回法律相談は、無料です(『無料相談の理由』)。

 裁判所からの呼出状を受けたら、裁判所に行く前に、必ず弁護士と会って、相談することを、ぜひ実践していただきたいと思っています。

『調停』とは、裁判所での『話し合い』です。よく『互譲の精神』と言われることがあります。

 裁判官が主催しますが、実際は、民間から選ばれた2人の調停委員が、申立人・相手方から事情を聞いて間に入り、円満・妥当な解決案に至るよう手続を進めます。

 調停委員は、40歳以上の学識経験者であることが要件ですが、弁護士の他、家事調停委員の場合は、心理学・児童福祉学等の専攻者,民生委員,保護司など、民事調停委員の場合は、事案の性質に応じ、一級建築士,不動産鑑定士,医師,税理士などの職にあり、また、あった人が選任されております(調停委員)。

 さて、よく、「調停は自分で申立てできる」「弁護士に頼まなくてもよい」と言われることがあります。

 法律的な回答としては、そのとおりです。しかし、これは、調停の現実を無視した解決とはならない回答です。

 調停を経験した方から、しばしば、「調停委員は話を聞いてくれなかった」「無理だから、取下げしなさいと言われた」「『このとおりしなさい、認めて調停をまとめなさい』と言われた」などの不満を聞くことがあります。

 中には、「調停委員から怒られた」とか、「何を言っているのか全然わからなかった」ように述べられる方もおられます。

 実際、調停の途中から、きさらぎ法律事務所に相談に見えられて、代理人として事件受任をするケースは、少なくありません。

 上記のような経験をされ、調停成立等により、事件が解決した方は、「弁護士が入る前と入った後では、調停委員の対応が(良い方に)変わった」「自分の言いたいことが理解してもらえ、問題点がわかった」などの感想を述べられます。

 また、このまま自分一人で調停を続けていたら、このような結果(解決)にはならなかった」と、はっきり述べられる方が多いのです。

 弁護士の仕事の重要な部分に、『人に対して説明し、また説得する』ことがあると思っています。

 これは、事件の相手方、そして、自分の依頼者に対する場合に限らず、裁判所や、ときには社会・世間に対して、必要となることがあります。

 調停委員も、また人間です。確かに調停は、お互い譲り合うことが必要です。

 ただ、これを主催する調停委員会に、仲裁しやすいような事情・材料を提供しなければ、当事者の満足する方向には、事態は動きません。

 つまり、弁護士が代理人となって、調停委員会に対し、依頼者のため、説得をしなければなりません。

 調停委員をその気にさせることも肝要です。言葉は悪いですが、調停委員を持ち上げ、こちらの主張を提示し、これを他方に通すときにも、「調停委員のお陰である」(仮にそう思っていなくても!)と、態度で示しましょう。

 ただし、いかに人格・識見に優れると言っても、残念ながら、法律を理解していないか、おろそかにされているケースも、ないではありません。

 そのような場合は、依頼者の代理人として、弁護士が毅然と対応し、意見しなければなりません。これは、特に家事調停の場合、重要です。

 私自身も、調停委員と、『けんか』したことはあります。けんかは、その先を見据えているからできることであり、「調停委員を怒らせたら、不利になるのではないか」などと考える必要は、全くないのです。

 それから、民事調停委員を経験した立場、すなわち、主催する裁判所の側に立ってみますと、「この当事者は、説明と説得力が足りない」と感じることがあります。極端な場合、「何を言っているのかわからない」ケースも、ないではありません。

 もちろん、裁判所でありますから、法律的に、不可能・不相当な主張・要求を容れたり、調整・提案することはありません。弁護士調停委員であれば、法律からあまりにそれる、あるいは合致しない場合には、修正・導きをかけます。

 ただし、裁判所は、中立・公平な立場です。一方の当事者に教えることはできません。代弁者であり、援助者であるべきは、当事者の代理人弁護士です。

 調停が成立した場合、特に民事調停の場合は、ほとんど合意・約束されたとおり履行されるでしょう。別の機会に申しますが、裁判の判決は、現実的な解決になり得ないことが多いのです。

 調停は、互譲の精神で、当事者双方、ぎりぎりまで、実現可能性を考えて合意します。

 特に、弁護士が入っている場合は、決めたこと、合意したことは守らせる責務があり、履行可能性は高まります。

 最後に、弁護士が関与する重要な役割として、調停案の策定、すり合わせがあります。調停委員が、良い案を出してくれると思われたら、それは重大な勘違いです。

 調停は、ある程度、機が熟してきますと、当事者双方の説明・説得のうえ出された『調停案』をベースに、進行が計られるのです。

 それは、法律的・現実的・社会的な妥当性と、判断を要します。

 弁護士の関与のない調停は、決してお勧めいたしません。

きさらぎ法律事務所を開設して5年経過した平成12年から、簡易裁判所の民事調停委員司法委員に選任されました。

 東京簡易裁判所の民事調停委員は、平成20年3月、退任いたしましたが、40代の8年間は、裁判所の中から、私人間の紛争解決のあり方を考え、遂行する立場に身を置くことになりました。

 調停委員・司法委員の経験は、その後の弁護士業務にはかり知れない影響を与えました。

 現在も、依頼者の代理人として、調停に臨む機会が多くあります。調停委員を経験したことで、裁判所の見方がわかるようになりました。

 そして、裁判所を『味方』に引き入れて、依頼者の納得を得る解決,事案の落ち着き(大げさに言えば、『社会的妥当性』とも言えます)に配した『着地の仕方』を常に意識して、職務遂行するよう心掛けております。

 この章では、調停委員・司法委員を経験した弁護士としての経験談・心掛けや、裁判所側から見た当事者および代理人弁護士の印象等について、お話ししたいと思っております。

 気の向くままに、また、守秘義務に反しない範囲で書き込みますので、ご一読ください。