搭乗する航空機が、到着地までのギリギリの燃料しか搭載していないと知ったら、あなたは搭乗しますか?

2016年12月1日
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南米コロンビア北西部メデジン近くの山岳地帯に墜落した航空機事故は、事故機には、墜落時燃料が無かった可能性が高いことが明らかにされました。このボリビアラミア航空のチャーター便は、アブロFJ85型機と言う日本では聞きなれない機種ですが、この機体の最長飛行距離は、3.000kmとされています。ところが、この航空機が離陸したボリビアのサンタクルスから、着陸地のコロンビアのジョゼ・マリア・コルドバ国際空港までは、2.985kmなのだとわかりました。コレ、数字見ただけで恐ろしいです。

記者会見したコロンビアの民間航空局責任者は、墜落機には爆発した形跡はなく、現場を捜索した結果、機体が地面に激突した瞬間には、機内に燃料はなかったことが確認されたと発表しています。規則では、緊急時に別の空港に辿り着けるように、30分分の予備の燃料を搭載しなければならないところ、事故機にはそれがなかったと追加発表されました。

この『追加』部分の説明は、そりゃそうでしょう!としか言えません。だってこの航空機、構造上あと15kmしか飛行できないんですから。計算上30分飛行に耐える分の燃料を入れることは不可能です。

事故機の操縦室から管制に対して、電気系統が完全に故障した、燃料が切れたと繰り返し連絡してきたようです。航空当局によると、燃料が切れたら電気系統は全く使い物にならないと述べました。この事故で助かった搭乗者の話として、突然機内の電気が消え、落ちていったと述べたと伝えられています。落ちていく瞬間、驚いた搭乗者らは、立ち上がって叫んだそうです。

言葉が見当たりません。

確かに何事もなく飛行を続けることができれば、ギリギリセーフでした。直接の原因は、この航空機が着陸態勢に入ったとき、別の航空機が燃料漏れを起こしたと管制官に通告、ジョゼ・マリア・コルドバ国際空港の管制官は、この燃料漏れを起こした航空機に緊急着陸を許可したため、事故機は着陸できず、燃料がないことを管制官に通告して、緊急着陸の許可は受けたものの、上空で旋回するうちに時間切れ、燃料切れとなった可能性が示唆されるのです。
この間15分、先の計算式に従えば、燃料が無くなることは明らかです。

緊急着陸を要請した航空機が重なったことは偶然で、悲劇ではあります。でも、この機体、最初からもうギリギリの飛行距離であることは、運航会社はもとより、操縦士・管制官ら航空関係者には分かっていたと思います。コロンビア民間航空の責任者は、規則で決めれた30分分の燃料がなかったと言い、それは事実でしょうが、計算上それは不可能なのです。そもそもそんな航空機、運航させることが驚きであります。このボリビアの民間航空会社のチャーター機、しばしば南米のサッカー選手の移動のためにチャーター運航されていたとかで、メッシ選手も最近搭乗したことを明らかにしました。決して人ごとではありません。

自分が搭乗する航空機に、飛行距離に相応する分の燃料しか搭載されていないことがわかっていたら、搭乗に躊躇する人が少なくないと思います。もちろん『30分』の予備は搭載されているはずですから、日本国内の利用に関しては、現実にはあり得ないことです。実際着陸混雑等のために随分と旋回し、着陸が遅くなることはしばしば経験されるところです。3.000kmしか飛行できない機体に、2.985kmの区間の運航をさせるなんて、全く信じられないと言うほかはありません。

ボリビアの航空会社、また、サッカーの大会等のためにしばしばチャーター便が利用されている南米各地の航空会社、そしてその関係者はどのように考えているのでしょう。確かに無駄な燃料は使わないほうが効率は良いでしょう。これは、カラの航空機は飛ばさない航空会社の思惑の一環でもあります。こうして見ると格安航空会社、low-costキャリアすなわちLCCはどうなんでしょう。定義としては、効率化の向上によって低い運航費用を実現し、低価格かつサービスが簡素化された航空輸送サービスを提供する航空会社とされています。確かに機内で飲み物を持って来たり、機内販売するなど余計なことで、国内線しか利用しない私からすると、そんなことにお金を使うな!とは思います。キャビンアテンダントは、保安要員てす。

数日前に、高度経済成長を支えた当時のモーレツサラリーマン、今や団塊の世代の方たとって懐かしい名称は?と言うテーマがありました。その中で、『アンカレッジ』が登場していました。今の若い人は、アンカレッジってなんだと思われるのではないでしょうか。アンカレッジとは、アメリカ合衆国アラスカ州にある都市で、かつてここに国際空港があったのです。もちろん今でもアンカレッジ国際空港はあります。ただ、『あの頃』すなわち冷戦時代は、ソビエト連邦の上空は、飛行制限があり、日本からヨーロッパ諸国に行く場合は、『南回り』と『北回り』があり、南回りで経由する中東地区では紛争が続いて、日本人も絡んだハイジャック事件等も続出しており、『北回り』がビジネスマンには重宝されていたのです。北回りは全てアンカレッジを経由します。そうなのです。ここで給油するのです。

今ではアンカレッジ、アラスカ、北欧のオーロラ鑑賞に訪れる観光客にほとんど利用されているそうです。また冷戦時代にはやはり北極海あたりでは、東西の緊張感があって、航空自衛隊千歳基地からスクランブル発進が繰り返され、これが千歳飛行場を共用する民間航空機の遅延につながり、後に『新千歳空港』が開業する機縁ともなっていました。私が福岡市で司法修習生をしていた昭和58年9月に起きた『大韓航空機撃墜事件』は、アンカレッジ国際空港を経由してアメリカ合衆国ニューヨークから、大韓民国ソウルの金浦国際空港に向かう途中に、航空路を逸脱してソ連領空に侵入した大韓航空機が、樺太上空を出たあたりの上空で、ソ連の戦闘機に撃墜され、乗客乗員全員が死亡した事件です。悲喜交々のアンカレッジがあるのです。

アンカレッジ経由が求めれていたころの世界は、民間航空路も錯綜していました。単に直線距離を飛行すればよいのではありませんから、経由地が多くあり、また燃料補給もしばしばでした。また、航空機の飛行距離も伸びています。そんな中での燃料切れによる今回の事件、信じられない思いです。南米は、サッカーでは強豪であるとともに、各国間の連携協力もあるはずです。このチャーター便を利用するなら、2.985kmの直行ではなく、途中どこかを経由して燃料補給できなかったものでしょうか。悲劇に見舞われたブラジルシャコペエンセの街では、深い悲しみに覆われ、ブラジル国内は、3日間の喪に服すると大統領は発表されました。日本国内とは言え、日頃航空機を利用する機会が多い者としても、燃料切れのショックは大きいです。割り切れない思いを持ちながら、福岡空港の『いつもの指定席』で書いています。合掌