67歳の無職の男性が、自宅近くの東武東上線の踏切にある非常ボタンを、なんの異常もないのに押し、電車を停止させたとして、偽計業務妨害の被疑事実で逮捕されたと報道されていました。
一口に業務妨害罪といっても、『虚偽の風説の流布』『偽計』『威力』の3類型があり、偽計とは、被害者を騙して業務を妨害する型と言えます。 よく摘発されるのは『威力業務妨害罪』で、例えば物を投げつける、怒号する、暴れる等よく聞くと思います。
『虚偽の風説の流布』は、潰れるとか、粗悪品を売っている等虚偽の噂を流すこと等が考えられます。
これに対して『偽計』とは、聞きなれない言葉かもしれません。
この事件で言えば、見えないところでまんまと騙されたと考えると、ピッタリ当てはまるのです。有形力が見える威力との違い、ハッキリ嘘を言い回ったような虚偽の風説の流布との違いがわかるかと思います。 でも、被疑者とされたこの67歳の男性、バレないように、見えないように、『被害者』となる鉄道会社をまんまと騙ましたつもりはなかったのでは?と思われます。報道されたところでは、この男性、膝が悪く、思うように踏切を渡れない鬱憤を晴らすために、踏切内には異常がないのに、非常ボタンを押したとその動機を述べたと言われています。
でも、「チョット待って!」と言いたいです。
この男性、本当に、『鬱憤』なんて言葉を吐いたのでしょうか。膝の具合が悪くて、踏切を渡ることはかなりの不便不自由が予想されます。
確かに日常生活で、件の踏切を利用せざるを得ないならば、相当なストレスになっていたのではないでしょうか?もしかして、自分が、安心安全に踏切を通行するため、そんな『利己的な自己中心主義』の考えから、こんな『犯罪』に手を染めたのかもしれません。
東武東上線ではありませんが、ある私鉄会社の路線で、ある駅近くにある踏切は、本線とその駅から分かれる支線を纏めて通過していることから、しかも、線路内の道路が、幾分斜めになっていることから、歩行時間を要するお年寄りが、しばしば踏切内に取り残された状態で、遮断機が降りることが指摘されておりました。実際踏切を渡りきれず、電車に跳ねられて命を落とした方もおられます。
よく、『開かずの踏切』が指摘されますが、踏切内に取り残される危険性は、もっと大事だと思います。 鉄道会社は、可及的に踏切を無くし、高架線または地下化を進めてはいるのです。これは、単なる交通渋滞対策ではありません。高齢化社会を迎える日本ですが、国の予算の配分から、社会保障関係費の削減が叫ばれ、お年寄りは、在宅にて看護の方向が打ち出されています。老人のひとり暮らしは、これからどんどん増えるでしょう。事故が心配です。 この非常停止ボタンを押して、『偽計業務妨害罪』で逮捕された老人を評して、「最近の老人は、何をするかわからない」なんてTweetがありましたが、果たしてこの被疑者の男性、そんな大それた事件を起こしたとの自覚はあるのでしょうか。
何と無く報道の仕方と、一般の受け取り方は、なんか違うのではと感じた法律実務家のひとりごとであります。