アメリカ合衆国ケリー国務長官が、広島平和記念公園に献花し、原爆資料館を見学したとの報道に寄せて。

2016年4月15日
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先進7ヶ国、G7外相会議が広島市で行われ、『核兵器のない世界』の実現を呼びかける広島宣言が採択されました。

全ての国の人にとってより安全な世界を追求し、核兵器のない世界に向けた環境を醸成するとのコミットメントを再確認すると強調したうえで、特定の国の挑発行為に言及するなど、安全保障環境の悪化を言うところは、いつものように、核兵器廃絶に直結するメッセージとは、受け取ることはできません。


日米同盟を言う以上、核兵器の傘の下に入ることを意味するわけで、被爆地である広島長崎の思いを顧みると、いつも限界と言うか、自己矛盾を感じる場面です。先に核兵器を保持した国は廃棄しなくても良いが、新たに核兵器を保持するのはダメだと言う論理は、どうしても理解できないのです。核の均衡とか、核の傘なる政治の言葉に慣れた日本人一般の意識と『被害者』との温度差はあるでしょう。

さて、そんな会議であり、核兵器の非人道性まで踏み込めなかった宣言ではありますが、7ヶ国の外相が、核保有国3ヶ国を含めて平和記念公園では献花し、原爆資料館を見学したことは、大きな意義があったと思っています。


特にアメリカ合衆国のジョン ケリー国務長官が、1945年世界初の原子爆弾がこの地に投下された後、米国の国務長官として、初めて平和記念公園を訪れたことは、驚きとともに、日本とアメリカのみならず、世界中に、何らかのメッセージを発信したと受け取ることができるでしょう。

アメリカ国内では、先の大戦で、アメリカが日本に原子爆弾を投下したのは、戦争を終結させるため、日本軍国主義を取り除くためにはなされた、また、日本を含めた世界の人々を救った正義の行為として評価されています。リトルボーイ、エノラゲイ乗組員が、原爆投下後どのような人生を送ったかはともかく、彼らは英雄とされてきました。


いかに日米同盟だ、日本の内閣総理大臣が、日本国内より先に、いわゆる安全保障法を施行させると約束しても、あの原爆投下は誤りではなく、まして日本国内に、広島に謝罪などする必要はないとの国民意識です。ですから、歴代の国務長官が、平和記念公園に行くと、謝罪させられるのではないかとの思惑もあり、大統領はもとより、閣僚政府高官の訪問は、為されなかったのです。

以前から、アメリカ合衆国オバマ大統領は、広島訪問を希望していたと報道されていました。今年5月に行われる伊勢志摩サミットの後、広島を訪れるのではないかと取り沙汰されてもおりました。


そんな情勢の中でのケリー国務長官の平和記念公園原爆資料館の訪問でした。ケリー氏、初めて平和記念公園を訪れた国務長官となったことについて、「非常に大きな名誉と感じたとともに、感極まるものだったことを個人レベルで表明したい」と述べられました。

私は、ケリー氏、国務長官として、オバマ大統領の側近として、いっぽうで優れた政治家として、また人間としてギリギリの、しかし素晴らしい感想を述べられたと思います。ケリー国務長官は、原爆資料館の展示は驚異的で、人間としてのすべての感受性を揺さぶられる衝撃的なものであると表現した上で、こう述べられました。「すべての人が、広島を訪れるべきだ」と。


アメリカ合衆国オバマ大統領は、就任直後にノーベル平和賞を受賞しました。受賞理由は、国際外交と諸民族間の協力強化により、世界の人々に、良き将来への希望を与えたことと公式には発表されています。ですが、核兵器、大量破壊兵器の取り扱いに関する対応が、前政権と違うのだと言う期待が込められていたことは否定できないでしょう。


そんなオバマ大統領が、広島を訪問し、平和記念公園に献花するのは、今後の『日米同盟』の方向性や、今世界で絶えない紛争解決に、『戦争』を行うことに関して、新たな意義つけがなされるかもしれません。任期満了が近いからできることかもしれませんが、オバマ大統領の英断に期待したいものです。


今回のケリー国務長官は、謝罪はしないと言われました。私も、原爆は悪であるが、アメリカ合衆国が、日本に対して謝れ!と要求するものではありません。謝るべきは、自国民を戦争に駆り立て、巻き込み、原爆投下等の甚大な被害を齎した日本軍国主義であり、これを進めた、止めれらなかった当時の為政者です。最終的にはポツダム宣言を受諾して、日本は、無条件降伏したわけですが、アメリカに言わせれば、ポツダム宣言を受諾して、戦争終結させる機会を逸した日本に対して、戦争を止めさせるために原子爆弾を投下したことになるわけです。

でもねえ。そう思っていない人がいるんですよ。曰く「ポツダム宣言と言うのは、アメリカが、日本に原子爆弾を2発も落として、日本に大変な惨状を与えた後、『どうだ!』とばかりに叩きつけてきたもの」と理解していたのです。この方、それから10年経過した昨年の国会でも、「ポツダム宣言は、詳らかに読んでいない」と答弁されましたから、まだ正しい理解をしていないのだと思われます。

広島で行われたのは、外相会談であり、両国のトップ、方やバラクオバマ大統領、方や……の首脳会談にならなくてよかったとの余計な声が聞こえてきそうです。オバマ大統領、ぜひ広島長崎に来てください。