31年後の8月12日に起きた『羽田空港『ベルトコンベヤー不良事件』に寄せて。

2016年8月12日
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8月12日は、31年前の昭和60年のこの日、いわゆる日航ジャンボ機墜落事故が起きた日であります。この日、東京羽田空港を午後6時12分に離陸し、大阪伊丹空港に午後6時56分に到着する予定の日本航空123便、ボーイング747SR100型機が、操縦不能となって群馬県多可郡上野村通称御巣鷹の尾根に墜落、乗員乗客524人のうち520人が亡くなった現在でも、単独機の墜落事故としては、世界最悪の死者数となった航空機事故がこれです。


先の大戦を経た昭和史の中でも、忘れることができない悲劇であり、公共交通機関の事故としても、後の世に様様な影響と教訓を残した事故でした。

あれから31年経過した8月12日の早朝、東京羽田空港国内線第2ターミナルビルを使用するANA全日空の手荷物を扱うベルトコンベヤーに、不都合が生じました。

この影響で、一部の出発便に、数分から1時間超の遅れが出たほか、国内線12便が、機内荷物室に詰め込むために搭乗客から預かった荷物を、全く積み込ない状態で目的地に出発、その他十数便も、一部荷物を機内荷物室に納めることができないまま、積み残して出発したアクシデントとなったのです。この『故障』のため、5.500人が影響を受け、到着地にて、後続便に乗せた荷物を受け取るような事態となったということです。


羽田空港第2ターミナルには、全日空のほか、ソラシドエア、エアドゥ、スターフライヤーの各社も使用していています。これら各社は、全日空と共同運航している関係で、全日空からの搭乗客の座席が確保されておりますから、全日空の機械不都合による影響は、避けることができません。

共同運航のマイナス部分も現れたアクシデントです。31年前のこの日、夏休みとお盆の帰省シーズンで満席の日航ジャンボ機と言われたことが思い出されます。さて金曜日の朝、羽田空港からの下り便は、多くの搭乗客があったでしょう。


ベルトコンベヤーのアクシデントそのものは、相手が機械である点で、回避することは困難と言えましょう。ただ今年の3月、全日空では、コンピューターの発券システム等の故障により、数時間搭乗手続きができなくなったアクシデントがありました。そのときもバックアップ体制の重要性を指摘したと思います。何か気になる一連の『機会の故障』であります。

このアクシデントについて、議論が出ているのは、全日空は、ベルトコンベヤーの故障により、機内荷物室に搭乗客から預かっている荷物を搬入していないのに、この事実を出発前に搭乗客に告げずに目的地に出発したことです。つまりこのアクシデントに遭遇した乗客は、機内もしくは到着地空港で、初めて自分が預けた荷物が一緒に届いていないことを知らされたのです。


海外ではよくあることなのだそうですが、全日空のこの判断については、賛否両論ありそうです。ネット上の意見は、例に漏れず全日空に批判的なものが多いです。いっぽうで、最近の報道機関の現実から、現に『被害』に遭われた搭乗客からは、ほとんど怒りや抗議は出ていないように報道されていると感じます。

この問題、もし自分が被害に遭ったらどうだろうかと考えました。航空機を利用する目的がかなり影響すると想像します。私の場合、ほとんどが仕事、しかも裁判所他への出頭のための日帰り出張です。私は、こんなこともあろうかと思って、仕事関係の荷物は、少なくとも往路は必ず機内に持ち込みますので現実には、このような事態に遭うことはないです。でも、もし荷物が届かなかったら、たぶんこの日、この到着地に来た意味はないでしょう。すなわち、事前に手荷物が届かない、少なくともいつ到着するかわからないのであれば、この日の出張は意味はなく、この便に身体だけ搭乗する選択はないと想像します。


これと同様の意見は、ほとんど仕事関係の影響、意味付けの観点から、出されているようです。例えば、大阪伊丹空港や、岡山空港への航空機利用は、予めこんな事態が分かっていたならしないと言われます。この『ひとりごと』でも書いたように、新幹線は、『4時間の壁』があり、東京からならば、新幹線と航空機は、広島でほぼ拮抗、岩国もしくは山口宇部空港で逆転と言われています。大阪伊丹空港で荷物が来るまで待ち惚けならば、新幹線を利用したほうが良いとなるでしょう。


今回は、お盆の時期で、仕事より帰省の人が圧倒的に多いとすれば、衣類等には困らず、「別に急がないだろう」と判断したのではとの意見があります。

逆に、ベルトコンベヤーの故障が直るまで、荷物室に搬入できないがゆえに、航空機が出発を見合わせ続けたならば、おそらく手荷物を預けない私なんかは、文句を言いたくなるでしょうね。人間は勝手ですから。まして、事実を明らかにして、搭乗客に判断を求めたりしたならば、出発空港での混雑混乱は、想像を超えるところでしょう。必ず文句を言う人が出ます。


その対応で、出発は遅れるでしょう。荷物は後でーー何時になるかわからないけれどもーー到着するので、予定の便に搭乗しますか?と搭乗客に選択させるのは果たして解決になるでしょうか。ただし、ペットはどうなんでしょうか?長く飼い主と引き離されて不安でしょうし、先に待っている飼い主こそ、気がどうかなってしまいかねません。

これは『混乱回避』、『危機管理時のお客様サービス』を論点とすれば、あながち今回の全日空の対応判断は、受け入れ可能なところとなりましょうか。でも、私は、全日空の本音は、果たしてそこにあったのか、甚だ不謹慎な捉え方をすれば、ここで論じているような捉え方があることを『渡りに船』とした、本当の問題点を見えにくくしたのでは?と疑いたくなります。


それは、今日が、8月12日と言う航空会社にとって特別な日であり、トラブル発生による騒ぎの拡大を防ぎたいと、頭によぎらないはずがありません。それよりも、航空機は飛ばしてナンボなのだと思われるからです。

ベルトコンベヤーが復旧して、荷物室への収納が可能になるまで航空機の出発を見合わせたら、遅延が続くのみならず、到着地での折り返しも遅れますから、機材のやりくりができなくなり、欠航が続出します。事は羽田空港だけに留まりません。例えば、私も時々利用するANA51便羽田空港7時発新千歳空港行きは、新千歳空港到着後、折り返しANA54便9時30分羽田空港に向けて出発します。


もし、羽田空港をANA51便が1時間遅れたら、新千歳空港の折り返しは1時間後になります。そして羽田空港到着後、これが福岡空港に向かうとすれば、こちらも影響します。航空会社にとって、定時運航が生命線であることは明白です。そして機材のやりくりです。航空会社は欠航になること、ついでカラで飛ばすこと、すなわち座席を埋めずに飛ばすことは、営利企業である以上、回避したいのです。

もし、この事実を出発時に露わにしたら、出発が遅れたり、荷物はいつ来るかわからないと知れば、搭乗を止める人はいるでしょう。それでカラではないにしても、このお盆の時期に予約がキャンセルされては堪らないのが本音ではないでしょうか?

今回の全日空の判断、現場での咄嗟の逃げや先送りではないと思います。企業としての判断かあったはずです。公共交通機関の使命、それは安全運航が全ての前提のはずです。


31年後の8月12日に起きたベルトコンベヤー不良事件、空の安全への警鐘にならなければと思いました。