不貞行為と商行為――枕営業の判決に寄せて

2015年6月3日
きさらぎ法律事務所のホームページ『離婚、男女問題』のコーナーに、男女問題を担当する福本悟の基本的な考え方を記載してございます。

特に、取り扱わせていただくケースが少なくない『不貞行為と慰謝料』の箇所には、A.B.Cの事例で、具体的にご説明してあります。

これをお読みいただいた方は、先のA.B.Cのうち、いちばん悪いのは誰で、きさらぎ法律事務所の依頼者となられることが滅多にないのは誰か、想像できるかと思います。

さて、数日前、夫の不貞行為の相手となった女性に対して慰謝料請求した妻の請求を認めない判決が、東京地方裁判所で言い渡されていたことが明らかとされました。

まず前提として、夫婦は婚姻中互いに貞操保持義務があり、配偶者がいることを知ってこれと肉体関係を持った第三者は、その違反をしたその相手とともに、被害者となる配偶者に対して損害賠償をする義務がある(慰謝料を支払わなければならない)のです。ただし、その夫婦の婚姻関係が完全に破綻してもはや互いに貞操保持義務がなくなると評価されるような事態であれば、不法行為責任を負わないとされることもあります。

さて、東京地方裁判所が、妻の請求を棄却した理由は、この女性は、いわゆるまくら営業をしていたと認定されたからです。すなわち、枕営業とは、業務上付き合いのある者どおしが、性的な関係を持つことにより、取引を有利に行うことを言いますが、判決によると、この女性は、この男性に対して性的関係を維持することで、この男性が定期的に来店することになり、経営する店舗の売り上げを確保していたと言うものであります。いわば、性行為が商行為とされたわけで、妻の権利を侵害するものではないと言うわけです。

ちなみに、夫が風俗店で遊んで、そこで働く女性が気に入って、継続的に性行為を行ったとしても、その女性は、不貞をしたことにはなりません(夫側からもよく、あれは遊びであって、特定の女性と付き合っているのではないから不貞ではない!と抗弁されますが、この点については、機会を改めます)。

なんだか銀座マダムも、これに似た商売なのでしょうか?

結構判決に対しては、批判的な意見が目立ちます。枕営業と言われるような業態があることは公知の事実だそうですが、古い考えの私なんかからいたしますと、こんな業態取引自体が、公序良俗に違反しており、無効と言いたいです。

それはそれとして、この奥さん、何がしたかったのだろうと思いました。福本悟の立場からすると、この関係者3名のうち、いちばん悪いのは誰か、皆さんおわかりです。おそらく判決が言うような取引の実態があったのだとしたら、この夫は、女性の店舗に少なくないお金をつぎ込んでいるのです。奥さん、家庭からすると、それもまた困ったものではなかったでしょうか?

この判決のことか報道された時点では、『夫』と出ていましたから、この夫婦、未だ離婚していないのでしょう。この奥さん、こんなことをする夫を許していたのでしょうか?

女性と浮気はするは、その相手のために少なくないお金をつぎ込むやら、奥さんは、酷い仕打ちを受けたことになると思われるのですが。もちろん、これが不貞だと認められたら、夫も、その女性とともに、妻に対して慰謝料支払義務があります。

また、仮に、女性が不貞を理由に、奥さんに対して慰謝料の支払いを余儀無くされた場合には、この夫に対して求償できることは言うまでもありません。要は、お金の還流ですかね。このあたり、『離婚男女問題』に記載したとおりです。

銀座のクラブのママさんが、どれくらい資産を持っているのか、その世界とは全く無縁の私にはわかりません。ただし、枕営業を長く続けているような夫には、お金をがあったのです。この奥さん、もし、お金の請求をしたいのであれば、夫に対して行えば良いですね。なんで件の女性に訴訟を起こしたのでしょうか?

お金の問題ではなかったのでしょう。何が動機かわかりませんが。余計なお世話ですが、このご夫婦、この先仲良くやっているのでしょうか?

きさらぎ法律事務所では、依頼者は、本当は何をしたいのか、何に悩み、心を乱されているのかをじっくり一緒に考えます。

その結果、夫の不貞行為の相手方に対して慰謝料請求をしたことが、全くないわけではありません。本件の奥さんの立場のご相談者であれば、じっくりしっかりお話をお聞きして、真に悩んでいたところ、頭にきていたところをすっかり吐き出していただくことで、ほとんど『解決』となっていると、厚かましくもずっと信じております。ですから、枕営業の是非に関する裁判などには、遭遇することはあいのです。