芋焼酎の本場鹿児島県では、『黒千代香』と言う器があります。これは、『くろじょか』と読み、昔から伝わる焼酎の燗付けの器具です。『ちょこ』を意味する『ちょか』が方言だったとか、琉球王朝から入ってきたとか諸説あるようですが、この黒の鉄の容器に焼酎と天然水を混ぜて一晩寝かせ、囲炉裏などで暖めて翌日飲むやり方が美味しいとされ、ここから焼酎のお湯割りが生まれたとも言われます。確かに鹿児島県の焼酎の名店で芋焼酎を嗜むとき、黒千代香の容器に入れて、出されることがあります。 もともと焼酎と水を混ぜていたので、これを暖めたのが焼酎のお湯割りだとすると、どの程度割っておくとよいのかの疑問が出されるかもしれません。黒千代香による飲み方が始まったころは、何気なしに半々だと言われます。ところが、焼酎好きには、半分水では物足りないとなって、7•3とか6•4等いろいろ広まっていきました。 やがて、ウイスキーの水割りの真似かもしれませんが、焼酎の水割りが誕生しました。私のように、酒飲み焼酎党は、焼酎を味わうではなく、ぐいぐいやりたく、家でも冬季以外では水割りで、そして福岡の屋台では、決まって水割りでやっています。 先ほど7•3とか6•4とか割り方を申しました。これも地域やお店、また飲む人等によっていろいろだなと思います。私の行きつけの屋台『しんきろう』では、さすが20年も通い続けて歳になりましたから、最近は、5•5としています。因みに、大将(店主のこと)は、『芋水』と言います。芋水用のグラスには、ちゃんとメモリがついております。 さて、しんきろうでは、まず焼酎を5のラインまで注ぎます。もっとも、そうは言っても、常連客に対するサービスなのか、5と6(の間くらいまで、焼酎を入れてくれますが。ついで氷をドバッと入れます。この段階で、氷はもう、グラスをほぼ覆いつくします。グラスを越える塊も出てきます。それで、最後にグラスのいちばん上まで、水を入れます。しかし、水は、かたちだけ、合わすだけで、ほとんど入らないのです。これが福岡博多の屋台での飲み方です。知人を同行すると、口々に「濃い!」とびっくりされました。 焼酎を飲ませる店舗とすれば、焼酎は、薄くしたほうが採算が取れるでしょう。でも、より大切なもの、守りたいものがあるのだと思います。屋台は、『袖振り合うのも多生の縁』の世界、たまたま隣に座った人が有名人だったりします。店主もお客さんもすぐ近くにいます。今日の出来事と縁、それは焼酎の濃さとともに、その人それぞれに、濃く残るのように思うのです。いつもの『指定席』で、今日もビールを飲みながら、考えてしまいました。