私がちょうど長野県内に所用があった日の未明、前夜都内を発車して、長野県内のスキー場に向かった夜行スキーバスが、長野県軽井沢町の国道で事故を起こし、多くの死傷者が出る惨事がありました。
ちょうどこの日から、大学は、センター入試で休校となるので、この機会にスキー、スノーボードを楽しもうとした大学生が、多く乗車していたのです。
なんとも痛ましい災難であり、言葉を失います。 事故原因については、これから捜査調査がなされるでしょうが、ひとつはっきりしていることがあるそうです。それは、事故を起こしたバスは、ツアー主催会社が予定した運行指示とおりの道路を通っておらず、運転手から、バス会社に対しても、ルート変更の連絡はなされていなかったことです。
法律実務家である私は知らなかったのですが、ツアーバスを運行する際には、主催会社が指示した運行計画とおり運行しないと、道路運送法に違反するのだそうです。
ツアー主催会社が、運行を委託したバス会社に交付した行程表では、事故現場は通らないはずだったのです。地理に詳しいと自負する私は、この事故の一報を聞いたとき、都内を出て、長野県志賀高原方面に向かった深夜バスが、なぜ『あんなところ』で事故になったの?と不思議に思いました。
いつかこの『ひとりごと』でもお話したように、群馬県と長野県との県境は碓氷峠、そこはかつての信越本線横川軽井沢間であり、この区間、機関車を連結しなければ運行できないような難所だからです。国道18号線、通称碓氷バイパスは、ほぼ直角になるようなクネクネ道で、峠を越えると一気に下ります。
大型自動車は、かなりの運転技術を要するでしょうし、峠越えには時間もかかります。それゆえ、安全面からも、上信越道が開通したと理解しています。 事故が起きた後、巷での噂話として、高速代を浮かしたのではないかと言われています。
交付された行程表によれば、都内を出た後、関越道で東松山インターまで行き一般道へ、そこから上信越道の松井田妙義インターに入って佐久インターで下り、志賀高原等のスキー場で乗客を降ろしながら、最終目的地である斑尾高原のホテルまで運行されると言うものでした。
ところが、事故を起こしたバスは、関越道東松山インターでは下りず、そのまま進んで高崎、藤岡から上信越道に入り、松井田妙義インターで下りて、国道18号線で碓氷峠を越えていたのでした。どうやら東松山インター手前のサービスエリアが混雑して停車できず、その先のサービスエリアを利用したため、関越道の通行距離が増えたことから、繋がっている上信越道に入って、松井田妙義インターで下りなければならなかった、つまり、高速代の帳尻合わせをしたのではないかと言われているのです。
奇しくも高速に入る予定のインターから、出てしまったのです。 真相はわかりません。ただ、同僚の運転手は、かつてこのような節約、帳尻合わせをしたことを述べています。ツアー主催会社から、バス運行会社に対して支払われる金額は決まっているので、バス会社が割りを食わないよう、考えられなくはありません。
サービスエリアでの休憩をカットすることができないのは、乗客の健康と運行の安全面から、やむを得ないとは思います。
しかし、私が「あれっ」と思ったのは、別のところにありました。そもそもツアー催行会社が発行した行程表が、奇妙に思えたのです。 都内と長野市は、250kmくらいだと思います。新宿と長野市を結ぶ高速バスは、4時間はかからないはずです。
このスキーバス、前夜23時に渋谷区を出発し、終点には午前7時30分ころに到着する行程とのことです。これだけ時間をかけるのですから、全部高速道路を通行しないのもうなづけます。もし、都内から関越道を通って斑尾高原に車で行く場合、上信越道の豊田飯山インターまで行くでしょう。
もともとこの事故車が予定していた佐久インターで下りたならば、長野市はまだまだ先であり、降雪がある志賀高原や斑尾高原はさらにその先です。つまり、あえて基本的には、高速道路の利用をしていないわけであります。
少子化に加え、スキー人口の減少もあり、スキーツアー会社の運営は厳しいです。もともとツアーを利用して、スキーをするのは若者が多いこともあり、『割安』『格安』『激安』等等価額競争が繰り広げられているようです。
高速道路を利用しないことで、値段を下げることができます。スキーツアーバスは夜間運行、すなわち、乗客は車内で眠っており、どこを通っているかわからないでしょう。速く目的地に到着すべき高速バスとは違って、スキーツアーバスは、急ぎ到着する必要はないがゆえに、料金を睨みながら、運行予定を作ることができるのでしょう。
反対に言えば、到着地まで、高速道路を通行すれば、価額を安くあげることは不可能でしょう。これが激安のカラクリです。 高速道路を通行するときは速度を上げますから、ひとたび事故が発生すると、被害は大きくなる危険性はあります。一般道より高速道が安全とは、常に言えることではないとは思います。
ただ、峠を越える危険性からバイパスができ、そして高速道路ができます。この事故に見舞われたツアー主催会社は、松井田妙義インターと佐久インターの間を高速道路の利用を設定したのは、まさしく碓氷峠を一般道で通行する危険性を考えたからでしょう。
ここだけは必ず高速道路を通ることを最優先して、行程表を作成したと考えられます。 でも、そこに来るまでのサービスエリアの問題は、予想できなかったのでしょうか。こんなことがあったら、碓氷峠は、一般道を通らざるを得ないことを。
過当競争による価額破壊は、むしろ本件にストレートには当てはならないと思います。さらなる危機管理が不十分だと言うことだと思います。とは言え、もし民主党政権が続いたら、高速道路は無料化され、本件のような悲劇は起こらなかった?とは言えませんね。