私たちの業界では、よく、「費用はいくらですか?」と尋ねられることがあります。
日本弁護士連合会は、平成16年に、戦後の新憲法のもとで確立した弁護士法に基づいて規定していた報酬会規を撤廃し、費用は、弁護士と依頼者との間で、自由に決めてよいことになりました。一連の規制緩和なのですが、私自身は、撤廃には賛同できませんので、きさらぎ法律事務所内での初回の相談料を無料にしている以外は、基本的に以前存在した会規をベースとして、ご説明しております。
弁護士報酬会規にも、『標準』と言う用語があります。標準額はいくらで、そこから30%の範囲で決める等がそれです。私は、この場合の標準とは、『真ん中』を意味するとご説明いたします。そう言えば、地球は丸いから生じるのかわかりませんが、イギリスロンドン郊外のグリニッジ天文台が、世界の経度および時差の基準を担うことから、航空会社の時刻表には、時差は、グリニッジ天文台を標準とすることが明記されておりますね。
『標準』とは、常に『真ん中』を指すと言うことなのでしょうか?昨年来ある地域、ある団体で、さんざん議論され、解決し得ない問題が生じておりました。
きさらぎ法律事務所は、サッカーJリーグ『アビスパ福岡』の法人後援会に登録されていて、私は昨年何回か、アビスパ福岡の試合を観戦しました。J1への昇格プレーオフが行われた師走の大阪長居の試合に居合わせたことは、本当にしあわせでした。その福岡県にはもうひとつ、『ギラヴァンツ北九州』があります。
このギラヴァンツのサポーターが掲げた横断幕が、物議をかもしていたのです。 選手を応援する、鼓舞するために、試合会場にサポーターらが横断幕を張ることは、主催者側から認めれれています。チームコンセプトを掲げることも、選手個人名を張ることもいろいろあります。ギラヴァンツ北九州のサポーターが掲げたのは、『ぶちくらせ!』でした。
『ぶちくらせ!とは、北九州地方の方言で、『殴り倒す』の意味なのだそうです。
サッカーも、勝敗を決するスポーツです。選手はピッチがまさに戦いの場、相手をノックアウトするまでやり通せ!の応援は、わからなくはありません。サッカーJリーグは、ここ数年差別的表現が問題にされたこともあって、各チームは、ある意味応援の際のルールに慎重なのかもしれません。ギラヴァンツ北九州のサポーターは、横断幕だけではなく、もともと『ぶちくらせ!」「息の根止めろ!」と立ち上がって連呼し、選手を鼓舞しておりました。
相手の息の根止めろなる表現は、世上簡単に用いられている感があります。私は、好きな表現ではありませんでした。こちらは、競技場を訪れた子どもたちへの教育的配慮と言う理由で、クラブ側とサポーター団体は、以後使用しないことで合意したとされます。
しかし、『ぶちくらせ!』は、地元北九州の方言であり、これは郷土愛を意味する、ギラヴァンツ北九州と言うクラブが地域に根ざし、浸透していくために、また、北九州を広く知ってもらうためにも、引き続き使用すると言うのが、サポーター団体の回答だったのです。 私は、『ぶちくらせ!』の意味は知りませんでした。
同じ福岡県にあるアビスパ福岡では、ぶちくらせ!を聞いたことはありません。
いわゆる九州ダービーで、ギラヴァンツ北九州の本拠地本城陸上競技場を訪れた他チームのサポーターは、『ぶちくらせ!』は、最初『撃ち殺せ!』に聞こえ、ゾッとしたと感想を寄せ、また北九州市在住の母親は、『ぶちくらせ!』の意味がわかるだけに、子どもを連れては行けないと述べたそうです。チームを運営するクラブには、その使用目的は皆理解しつつも、どちらかと言えば、『ぶちくらせ!』に批判的な意見が届いたとされます。
それでクラブは、サポーターらと協議を重ねたものの、サポーター側は、郷土愛を言い、合意を見られないことから、『子どもに夢と感動を!』の理念に照らすと、『ぶちくらせ!』は不適当と判断したとして、クラブ側は、これの使用禁止をサポーター側に告知したのでした。 ところがこれに従わないサポーター14名は、引き続き『ぶちくらせ!』の横断幕を掲げた等の理由で、試合会場への入場禁止措置を受けました。
さらにこの問題を収拾できなかった責任を取るとして、株式会社ギラヴァンツ北九州の代表取締役社長が任期を残して辞任するなど、未だ問題解決に至らぬまま、2016年に入ったようです。 確かに『ぶちくらせ!』は、方言であり、世間一般には知れ渡っていないでしょう。ここでは、知られていないから使うなではなく、『ぶちくらせ!』の意味が不適当だから使うなと言うことでした。でも、わざわざ本来の意味を露わにする必要ってあるのでしょうか。
それを聞いたら、やはり不適当となるのは大方の意見だと思います。しかし、ギラヴァンツ北九州のサポーターは、本来の意味、すなわち『殴り倒せ!』と囃し立てているのでしょうか?それは違うと思います。本来の意味なんてどうでも良く、ただ、この地域で普段使われている囃子言葉で盛り立ているだけのように思います。 標準語って、何を基準に決めるのでしょう。
以前山梨県警が、交通安全キャンペーンとして、『気をつけろしね』と書かれた看板を置いたことが問題になりました。甲州地方では、『何何してね』のとき、『何何し』と言います。そして、より丁寧な表現をするとき、語尾に『ね』をつけることがあるのだそうです。『気をつけてくださいね。』の意味が、『気をつけろ死ね!』と受け取れらたと言うものでした。それで批判を受けた山梨県警は、標準語に変えると言い、その結果掲示された看板が、『気をつけるじゃん』であります。
東京生まれ東京育ちの私は、子どもころから『……じゃん』に慣れています。でも、大人になって、全国あちらこちらに行って、『じゃん』は、東京地方独特の言い方ではないかと思っております。いわば東京の方言です。これを東京以外の方々が、標準語だと捉えられるのは、何と無くこそばゆい感があります。
要は、なんでもかんでも東京中心、東京に習えの悪しき例なのではと思います。 再度問います。標準語って何でしょう。先のギラヴァンツ北九州の件、標準語だと『殴り倒せ!』となるはずです。殴り倒すことが良くないことは、北九州市民にも当然わかっていることです。それでも『ぶちくらせ!』を使いたいと言うのは、殴り倒すことを目的にしているのではないことが明らかだと考えます。
方言は、まさにその地方を表すシンボル、郷土愛と言われましたが、ひとつの誇りでもあるのではないでしょうか?さて、今年株式会社ギラヴァンツ北九州には、前アビスパ福岡株式会社の取締役(元アビスパ福岡株式会社代表取締役)だった野見山篤氏が、取締役強化本部長に就任しました。
この『ひとりごと』でも何回か感謝の念を述べた方です。野見山篤さんならば、この『ぶちくらせ!』問題、良い解決策を考えられるはずです。それにしても、なんでもかんでも東京なんですね。