2月になると、札幌雪まつりをはじめ、雪国では、寒さや雪にちなんだイベントが行われます。 12月ころから降り続けた雪が、厳冬の1月を過ぎて、積雪量が多くなるのが2月です。2月も後半になると、水分が増えた雪に変わりますが、それまで山は、静かに眠るのです。北国では、特に酒と演歌が似合う時期だと感じます。 雪に弱い首都圏の交通機関は別としても、やはり鉄道や航空路に影響は出てきます。日本の飛行場で、最も降雪量が多い空港をご存知ですか?私は、女満別空港か旭川空港だと思っておりましたが、違うようです。 正解は、青森空港なのだそうです。多い年には、積雪量が10mを超えるそうです。羽田空港から東北地方には、青森県、秋田県、山形県を結ぶ航空路がありますが、なぜか私は、青森県の空港(三沢空港、青森空港)は、利用したことがありません。 確かに青森は、雪のイメージです。特に「上野発の夜行列車降りたときから、青森駅は雪の中…」で始まる『津軽海峡冬景色』が浮かぶ世代には、インパクトがあるでしょうか。津軽地方には、7つの雪が降ると歌われたのは、新沼謙治さんの『津軽雪女』でした。こな雪、つぶ雪、わた雪、ざらめ雪、みず雪、かた雪、氷雪だそうです。都会では、水分が強い雪しかお目にかかれませんが、雪国では、いろいろあるのですね。私が知っていたのは、パウダースノーと言われる、北海道に降るサラサラのこな雪くらいでした。 雨や雪が降ると、歩いて帰るのは面倒で、飲んだ後等にはタクシーを利用する人もいると思います。実際青森県には、タクシー業界の規制緩和の後、新規参入があって、青森市内にはその数およそ900台、18社が営業しているそうです。八戸市と弘前市は、7社であることから、際立って多い感じがするのです。 青森県の地理に詳しい方ならお分かりでしょうが、同じ青森県であっても、八戸市や県南方面と津軽地方とでは、積雪量は全然違います。青森市では、ねぶた祭りがある8月と、冬季の降雪の期間が、タクシーの需要が多いとされ、これを当て込んで、新規参入が増えたと言われます。 しかし、青森市のタクシー運転手の年収は、177万円で全国最低だそうです。全労働者の平均がこれですから、生活保護の支給額より低い給与額しか支給されない運転手は、少なくないと想定されます。雪の時期を期待したものの、実際タクシー代行を頼んだり、歩きやバスを利用する酔客が増えたとかで、タクシーは、『余っている』らしいです。 この傾向は全国的であり、行き過ぎた規制緩和が生存権を脅かし、ひいては安全性に影響しかねないとして、数年前に、いわゆる改正タクシー特措法が、議員立法で成立はしました。これは、ひとつの営業区域に一定数の人口がある場合、その区域内には、新規参入や増車を禁止することを可能とする『特定地域』に指定できるという内容です。 ところがその要件は、『人口30万人』となっています。青森市の人口は29万4.000人で、特定地域に指定されません。この6.000人の差で、指定を受けられないことから、青森市では減車が進まず、これがために低賃金を強いられているとして、昨年市内のタクシー会社に勤務する運転手8名が、国を相手に、供給過剰状態が解消すべく制定された特措法の不備を指摘して、損害賠償請求訴訟を提起しました。 現在の民事訴訟は、具体的な権利侵害があって、損害が発生することが要件です。つまり、法律や通達それ自体が違法だとの争い方は認められません。 このような訴訟が提起されると、一部からは、『結局は金目』との声が出るわけですが、実態に合わない規制緩和を続けていては、運転手の生活が成り立たず、なり手がなく、いずれ業界の崩壊に繋がりかねない、そうなると、本当にタクシーを必要とする人が利用できなくなる事態に至るかもしれない危惧から、実態を知ってもらうために提訴された背景があるのだと考えます。 交通機関で事故が起きると、利益のため安全性を無視したとの批判が常に出てきます。その道のプロは、安い賃金だから、安全性なんか関係ないなんて思って、人の命を預かる業務に携わることがあるとすれば、それはもってのほかです。そんな姿勢で臨んでいる人はいないと信じたいです。 ですが、低賃金重労働を強いられていると、こころとからだのバランスが崩れることがないとは言えないと思います。そんなところから、最初は、やる気が出ないくらいから、やがて生活基盤が不安だと、何から何まで不安となり、足元がぐらついて、『本来の責務』を果たせなくなるように思われます。 これは現代日本の構造であり、タクシー会社や運転手だけに責めを帰すのはおかしいです。雪があることが、産業を成り立たせるかと思いきや、それを当てにして、大勢が集まってパイを取り合うようでは、雪は単なる厄介物でしかないと言われそうです。 雪と縁がない首都圏に住む私は、いつか7つの雪を体験したい、そのときは、青森市のタクシーを利用しようと思いつつ、この項を書きました。