ある県議会が、2016年の県予算の概要を、県から議会に説明する前に、地元のNHK放送局が報道したことを遺憾として、放送局担当者を呼び出して、説明を求めることを決めたと報道されました。 なんでも県政記者クラブに加盟する新聞社、放送各社には、県が予算案を説明し、県議会議会運営委員会の終了後に報道するよう求めたところ、NHKは、独自取材に基づいて、件の委員会の開催前に、予算の規模や事業の概要を放送したそうです。ちなみに、報道機関と県議会との間には、報道の時期について、取り決めはなされていないようです。 この報道を聞いたとき、「ほら、来たか」と、「何を偉そうに」の思いが湧き出ました。 先日、現内閣の総理大臣が、放送局に対して、電波停止を含む指導の可能性を発表した『効果』がもう現れたかの恐怖と、このところ露わとなっている国会をはじめとする議会、議員の奢り、能力の低さを感じざるを得ません。特に驚いたのは、『こんなこと』を言い出すのは、県議会自民党であるにせよ、『全会一致』でNHK担当者を呼び出すことを決めたと言う点です。 国会では、現在2016年予算が審議されています。この『ひとりごと』でも、その内容を取り上げたかもしれませんが、政府の予算案は、国会で審議される前に、マスコミ各社は概要を報道しました。 そもそも予算は内閣(自治体の長)が国会(自治体の議会)に提出して、国民住民の代表者に審議してもらって決議を得て成立する仕組みですから、国民住民は、代表者が審議する予算案がどのようなものか、また、国会議会は、きちんと対応しているかをチェックする機会、その情報を得る機会があってしかるべきです。それを議会が把握するまでは、自分たちを選んだ住民には知らせるなとは、あなた方は随分偉くなったのですねと言いたいです。 まして、総理大臣が仰ったような『国論を二分する政治課題』とは思われませんし、NHKが、『公正中立』『不偏不党』に逸脱する報道をしたとも思えません。県議会の先生方、報道機関は、自分たちの単なる広報機関くらいの感覚なのでしょう。 こんな態度を向けられたNHKをはじめ全ての報道機関は、メディアの使命は、独立して権力を監視すること、厳重に抗議すべきです。 そもそも議会が、権力を使って報道機関を呼びつけること自体、報道への介入になることが全く理解されていません。自分たちが知る前にメディア、そして主権者である住民が知るのはけしからんと言っているのと同じで、かつて『マスコミを懲らしめる』と発言した自民党若手議員の存在が露わになりましたが、地方議会まで、自分たちは偉いかの錯覚による高飛車な態度が蔓延したと思います。 それにしても『全会一致』とは驚いたと言うか、呆れました。国会の『一強他弱』の状況は、この国の隅々まで蔓延したのでしょうか。先日の『ひとりごと』にも書いたとおり、このところの政府与党の高圧的な姿勢は、政権や地方の与党まで、マスコミを統制しても、批判されないどころか、一定の支持を得ている感があります。 この県議会の民主党「突然の自民党側の提案で、いいも悪いも判断できなかった」。共産党「県民の代表が知る前に報道されるのはおかしい。議会にとって大きな問題と思って賛成した」そうです。 ここで助け舟が出ました。 この県議会の全会一致の決議が出た直後、県の広報課が、県議会議長である自民党県議に対し、「ルールを逸脱したことについて、既にNHKに抗議した」と連絡、それで各会派を回って、NHKの招致は撤回することの同意を得たのだそうです。 ちなみに、問題となったNHK支局、「議会から連絡を受けていないので、お答えできない」とのことであります。そしてこの県議会議長、「報道への介入という意識はなかった」と述べたそうです。 この日、国会では、安倍内閣総理大臣が、先日の発言は、表現の自由、報道の自由を侵害するものではない、安倍内閣は、これまでの報道に関する見解を変更したものではないと国会で答弁したばかりでした。 さすが一強他弱、直ぐに地方まで『一声』が飛んで、徹底されたのですね。安倍総理は、報道の自由、表現の自由は、安倍内閣になってより強く守られたと国会で述べられました。 この一地方に起きた報道の自由、表現の自由を侵害しかねない深刻な事態を、この国会での一言で、救ったことになるのでしょうか。