東京で仕事をしていると、出頭する裁判所は、東京地裁、東京家裁が多いです。
いずれも千代田区霞が関にあります。どの裁判所で審理されるかは、管轄と言う問題で、基本は、裁判所法に規定があります。その規定に、理論と実務を当てはめるのが、民事訴訟法であり、刑事訴訟法です。刑事の場合は、『事物管轄』つまり、どの罪名で起訴されたかで、地裁か簡裁かは分かれますが、基本的に犯罪が起きた場所、捜査を担した警察署が送致した検察庁がある裁判所で審理される実務です。
民事の場合は、事案によって、いろいろです。これも地裁か簡裁か、また家裁なのかーー一部高裁が第一審となるものもありますーーの区分はありますが、民事事件では、『土地管轄』により、アレつて思う場所で、裁判が係属することがあります。今日は、神奈川県平塚市に所用があって、湘南電車に揺られてまいりました。車内で管轄のことを考えましたので、私たちの経験から、管轄、特に、『土地管轄』について、お話したいと思います。
きさらぎ法律事務所は、時間を制限しない初回無料相談を実施しております。
これは、私福本悟が、ホームページほか、あらゆるところでお話しており、ご好評を得ていると自負するものです。その延長上に、『出張相談』『訪問相談』も行いますので、私の場合、依頼者が、東京から離れた地域におられて、その関係で、管轄裁判所が地方となることは珍しくありません。ここでお話することは、依頼者の関係で、裁判所が遠方になったのではないケース、『遠方』ではないけれども、依頼者が、普段行き来することが少ない『関係ない土地』にある裁判所に出向くケースについてです。
調停は、相手となった側が、話し合いを行うために裁判所に来やすいようにとの建前で、相手方の住所地が、管轄裁判所とされます。また、民事訴訟の基本中の基本は、被告すなわち訴えの相手方の住所地を管轄としていることです。もっともこちらは、他の要素を利用して、必ずしも被告の住所地ではない地域の裁判所に係属することが多く、後でまとめてお話します。きさらぎ法律事務所弁護士福本悟は、家裁に行くことが多いので、『またか』と思う事態にしばしば見舞われます。
依頼者には、『えっ』のようですが。
常磐線快速電車の終点が、茨城県取手駅となったのは、いつからだったでしょうか。取手市そしてその先の牛久市や、つくばライナーの開通で発展する守谷市の事案は、竜ケ崎の裁判所が担当します。おそらく取手市等にお住まいの方は、竜ケ崎にはほとんど縁がないのではと推測されます。
ご依頼者にこのことをお話しますと『えっ』であります。
東京ディズニーランドのある浦安市のご夫婦が、離婚調停を行う場合、千葉家裁、つまり千葉市に出向かなければなりません。市川市、船橋市、習志野市等にお住まいの方は、おそらく都内にお仕事を持たれていることが多いかと思います。都内、例えば霞が関や新宿に出勤している方が、千葉市に出向いて調停裁判を行うのは、「面倒だな」と仰ることがままございます。
これは、人々の実際の活動に対して、司法の容量が追いついていないことを示すひとつの例かと思います。そうではなく、事案の性質と原告の都合で、被告とされた方には縁がない土地に裁判が係属することがあります。これは、お金の請求に関する事案で、民法の『持参債務』と民事訴訟法の『義務履行地』から求めれた帰結です。お金を借りてお返しするとき、『ありがとうございました』と言ってお持ちし、自分の不注意で損害を与えた方に賠償金をお支払いするとき、『ご迷惑おかけし、すみませんでした』と言ってお持ちするのが通常でしょう。つまり、お金は、相手のところに持って行くものです。この便宜から、銀行送金が使われます。
この義務履行地にも、民事訴訟の土地管轄が認められます。お金を支払ってもらう側、要するに相手にお金を請求する側、つまり『債権者』は、自分の住所地を管轄する裁判所に訴訟を提起するのです。そのため被告、すなわちお金を支払えと求められた側は、自分の住所から遠い地の裁判所から、呼び出しを受けることになります。
これが代理人として弁護士が地方に出るひとつの理由となっているのです。私は、依頼者と弁護士は、地理的よりも心理的な繋がりが大切と思っております。裁判所が遠くても、依頼者と弁護士の距離が近ければ、信頼関係に綻びはありません。ですから私は、「地方の事件だからやらない」はないのです。要は信頼関係です。
今日訪問した平塚市の土地管轄は、横浜地方裁判所小田原支部です。隣の茅ヶ崎市は、横浜地方裁判所、すなわち本庁となります。同じく相模川を隔てた厚木市は小田原、海老名市は横浜となります。この点、横浜地方家庭裁判所川崎支部ははっきりしています。土地管轄は、川崎市のみだからです。しかし、『川崎都民』と言われるごとく、縦に長い川崎市の住民のほとんどは、都内に通勤します。私も一時期川崎市内に住みましたし、息子は、川崎市内の学校に通いました。それが川崎市民が通う裁判所は、JR川崎駅からさらに海に向かった南にあるので、ほとんどの方は、それまで縁がなかったと思われます。
東京は、23区と島嶼部を除く全地域、すなわち、かつて『三多摩地域』と呼ばれた地域の管轄は、東京地方家庭裁判所立川支部となります。私の住所も、立川支部が管轄なのですが、立川市には、弁護士として仕事で行く以外、全く用がありません。ちなみに、東京都町田市は、神奈川県相模原市と県境ですが、町田市民が、立川支部に行くとき、隣町の相模原市を管轄とする横浜地方家庭裁判所相模原支部の最寄駅相模原は、電車で5~10分で到着するのです。
さて、相模川を渡りました。もうすぐ平塚駅です。小田原はさらに先、東京駅からは新幹線、新宿駅からはロマンスカー、何か物見遊山のようですね。でも、これが弁護士のストレスの発散になっているとの意見もあります。
全然知らない土地に行くのは、私たち法律実務家だけではなく、依頼者の皆さんにも、新たな発見となることがあるかと思います。それぞれの街の空気を吸って、またひとつ経験をしていくのです。