踏んだり蹴ったりの言葉があります。3月のある日、鹿児島空港に居た人の思いです。その前日の午後、鹿児島空港に着陸しようとした小型機が、前のめりで着陸して前部が破損、滑走路上で動けなくなった『重大インシデント』が起きました。 インシデントと認定されたとおり、さいわい怪我をされた方はおられませんでしたが、これがために滑走路が4時間以上閉鎖され、鹿児島空港を離発着する航空便に、欠航遅延が発生しました。ちなみに、昨年も、鹿児島空港では、小型機が、管制からの指示を聞き間違えて、民間旅客機の着陸進路を妨げ、重大インシデントとされる事態が起きています。 鹿児島空港での重大インシデントの翌日、ANAホールディングスの全日空空輸で、朝8時20分ころ、航空便の発券システムに不都合が発生し、予約、販売、搭乗手続きができなくなり、この日日本中の空港で、全日空146便が欠航、多くの遅延が発生し、この日の全日空国内線の半数以上が影響を受け、数万人に影響が出たと報道されていました。 最終的には、12時間経過した同日午後8時を過ぎたころに、完全に正常に戻ったことが確認されたようでした。なんでも複数のデーターベースのサーバー間で、情報を共有する機能に不都合が起きていた可能性が高いとのことです。この影響で、前日鹿児島空港で足止めを食らって『宿泊』を余儀なくされた北海道に帰ろうとする方が、この日も搭乗できず、結果鹿児島に2泊する事態になったと嘆いていた姿が、報道されたていたのです。 私は、全日空便にも搭乗しますから、決してANAホールディングスに、他意を持つものではありません。しかし、今回のシステムダウン?に関しては、全日空には多いに反省していただきたいと思います。特に私は、このところ、ANAには、気になる2つの出来事があったから、そう思うのです。これのうちひとつは、今回のシステムダウン?が発覚して、「少しだけ」記事にされている事柄です。 私は、今年の2月24日午後、鹿児島空港におりました。さて、搭乗前に、鹿児島最後の焼酎をと思ったそのとき、全日空からアナウンスがありました。「搭乗手続きを中止します。コンピュータシステムが故障したので、復旧までしばらくお待ちください」とのこと。そして30分くらい待ったでしょうか。システムが回復したので、搭乗手続きを再開しますとアナウンスがあったのです。 こんなことを言ったら失礼ですが、鹿児島空港から各地に向かうANAは、頻発しているわけではありませんから、鹿児島空港では、欠航遅延は起きなかったようで、ここに居合わせた方は、『影響』を感じられなかったと思います。 トラブルの原因は、説明ありませんし、私はこのとき、当初鹿児島空港だけのトラブルと思ったのです。要は、トラブルによる実害がなければ、どうでも良かったのです。ただ、羽田空港に到着したら、この日のアクシデントは、ANAグループが関わる全国の空港で起きていたことを知りました。コレってしっかり原因を突き止め、責任の所在を把握しなければ、同じことが起きるなと思ったことを覚えています。 今月21日、経済誌に、ANA元会長が、リーマンショック後、会社一丸となってどん底を脱するまでと題して、公的支援を受けるに至ったJAL日本航空と対比しながら述懐する記事が載っておりました。JALを批判する意図に出たものではないと思いますし、苦境を脱するために会長はじめ、ANAグループ一丸となって努力したことには敬意を評したいとは思います。 ただ、全体の論調が、『競争』であり、随所にコストダウンなる言葉が出ていました。『競争』は、福本悟が大嫌いな言葉です。会長は、社員一丸となって頑張ったと仰りたいのでしょうが、露骨に労働時間を増やしたなんて言われると、やはり利益のため、生き残るためたは、人件費なんだなと思わざるを得ませんでした。競争と安全は、どうやって調整するのでしょう。このコンピュータシステムの不都合が起きる前日、春の陽気に囲まれた三連休の最終日に発表された全日空元会長の談話、あまり好きにはなれませんでした。 さて、この日の『不都合』は、不都合で済めば、いずれ人々の記憶から抜けるでしょう。それにしてもコンピュータシステムって脆いですね。便とお客さんが少ない鳥取空港では、『手書き』で搭乗手続きを行うことができ、影響はなかったと報じられていました。航空機は、魔の15分と言われる離発着の時間以外は、計器飛行です。 いわゆるコンピュータ管理されて、運航されているのです。9.11同時多発テロでは、このコンピュータシステムが、犯人にハイジャックされたと言われております。 人件費を落とし、長時間労働については、社員一丸となってと捉える企業経営者からすると、コンピュータ管理されることは、時代がもたらすものなのでしょう。でも、離発着は手動で、ひとたび故障したコンピュータは、人の手を借りなければ復旧しない現実が未だ存在する以上、やはり人を大切にしなければならないでしょう。 2月24日のコンピュータシステムの不都合の教訓は、活かされなかったのでしょうか?公共交通機関の経営者が、『競争』や『コストダウン』を誇示するような論調を露わにしたとき、たまたま発生したこのアクシデントに、真摯に向き合って、空の安全を守り抜いていただきたいと思いました。