エアドゥの機内誌から、なぜか存在する北海道への思い、自分祖先や親に対して、柄にもなく思いを馳せたひとりごとです。

2016年9月5日
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森進一さんのヒット曲の中に、『港町ブルース』がありました。「背のびして見る海峡を、今日も汽笛が遠ざかる。あなたにあげた夜をかえして。港、港函館、通り雨…」。これは北海道の入口津軽海峡を臨む街函館から、森進一さんの故郷、旅路の果て鹿児島までの港町を、女心に合わせて歌ったものです。

港町と女心、酒、別れ、なんか合うのですね。その他、港町を歌った数々の名曲があります。

特に北海道は、演歌の舞台。石原裕次郎さんの名曲、『北の旅人』では、釧路、函館、小樽が出てきます。確かにこの3都市は、道内の港町として知名度があります。釧路の夜、釧路川、函館の女、立待岬、小樽のひとよ、小樽運河等等、この港町を舞台にした名曲は、時を超えて日本人の心にしっかりと刻まれているようです。
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ところで先日、北海道を本拠地とする航空会社エアドゥの機内誌に、釧路、函館、小樽とは違った港町3都市が案内されていました。『ぶらり港町』と題する旅人への誘い、それは太平洋、日本海、オホーツク海の3方を海に囲まれた北海道の海岸線の至る所には、漁港と人の暮らしがあって、北の海の幸と風情を求めて気ままにのんびり歩くのもまた一興と受け取りました。「あぁ、そうなんだ」と気づかされて興味をそそられ、また、「うん、知ってよ」と納得し、少し嬉しくなった箇所もありました。しばし『ひとりごと』に付き合いください。

今回エアドゥの機内誌が誘うのは、網走、えりも町、室蘭市の3箇所でした。網走と言えばオホーツク海の代表的都市、厳冬の時期には、シベリアアムール川から流氷が接岸します。えりも町は、森進一さんの『襟裳岬』で知られる岬から太平洋沖へと、ただひたすらに岩礁が続く強風の町です。室蘭市は、内浦湾に面する道内では降雪の少ない工業都市、かつては『鉄の町』と言われた景勝地でもあります。この3都市に、それぞれ秋の味覚を味わうテーマで、のんびりとした旅が始まるのです。

網走の海の代表は、『きんき』です。この機内誌にも、詳しく案内されていました。基本的に秋から冬の魚ですが、網走では、『きんきの一本釣り』の漁師さんがいらっしゃいます。都内の百貨店でも、たまに目にしますが、かなり高い魚です。脂ののりから、煮付けと焼きが美味しいと言われます。

たまにすすきので出会う機会がありますが、なぜ私がきんきを知り、それなりに詳しいのかと言えば、九州そして福岡大好き人間の私は、『赤むつ』贔屓だからです。白身のトロとも言われる、かの錦織圭さんの「のどぐろが食べたい!」発言で、のどぐろの呼び名で知られてしまった赤むつ、私は、赤むつこそ私が知りうる魚の中で、最も美味しい魚だと思っていて、『きんき』はライバルに当たるからなのです。

煮付けは赤むつと信じている私からいたしますと、一本釣りであること、煮付けと焼きも美味しいこと、白身で脂ののり抜群であること等、赤むつが西の横綱なら、きんきは北の横綱なのです。きんきは、流氷が来るころには漁が終わります。流氷を見損じた人が、また翌年流氷遭遇に挑戦して、網走を訪れるのと交代するように、きんきはその時期、厳冬の海の中に姿を隠すのだそうです。実は私も網走からの流氷を見損じたひとりです。数年後再挑戦しようと思っていますが、そのとききんきには会えないでしょう。やはり幻の手が出ない魚なんです。

えりも町は、日高山脈がそのまま海中になだれ込んだような地形の風が強い町として知られています。なんでも風速10m以上を超える風が、年間260日も観測される太平洋に突き出た港町です。えりも町と言えばまず、『日高昆布』ですね。それと、この近くには太平洋に注ぐ川が幾つかあり、この時期は、サケ漁も盛んです。北海道を代表する貝は、ホタテ、ホッキ、ツブの3つですが、札幌や小樽の市場でも、大きな殻に入った日高産真ツブを見かけます。この日高地方、実は、私の父方の祖母が生まれたところであることが、祖母が亡くなって30年も経過した数年前にわかりました。

祖母自身、おそらく道内での生活は、覚えていなかったのではないかと想像される戦前戦中、そして戦後の引き揚げ等の厳しい生活を余儀なくされていたのです。未だ見ぬ襟裳岬、いつか私は立ってみたいと思いました。

そして3つ目は室蘭市です。室蘭は、高度経済成長期には、製鉄、造船等の重工業を支えたパワー溢れる町でした。私の父は船乗りで、世界各地に貨物を運んでおりましたが、ときどき北海道では室蘭港に入った記憶があります。かつては北海道の工業の中心の町であり、政財界で名を成した人が多く出入りしていたことから、和食や懐石料理店は、古くからあったそうです。

室蘭市は、穏やかな内浦湾に面しているので、カレイやコマイ等の北海道の食卓に上がる常連の魚はもちろん、最近では、『ソイ』の町として売り出しているのだそうです。ソイ、東京あたりでは、『黒そい』と呼ばれる白身の刺身として重宝される魚は、鯛が獲れない北海道では、『北海道の鯛』とも称されるようです。確かに鯛に、大きさでは見劣りしませんし、値段もそこそこ、都内の北海道をウリにする居酒屋でも、お目にかかれる逸品であります。

ソイの生態は知りませんが、寒さが緩む室蘭あたりの海には、本当に鯛が現れるのではないかと思わせる『ソイ』の水揚げの話題です。そしてこの室蘭市、今では、夜景都市としても、道内では有名だそうです。夜景と言えば、昨年日本三大夜景に藻岩山からの夜景がランクインした札幌市が有名ですが。室蘭市のそれは、ひと味違うのです。すなわち、工場群の室蘭港からの夜景なのです。この工場夜景は、川崎市が力を入れていることが知られています。室蘭市と川崎市、後先に関係なく、街づくりにアピールしていただきたいと思います。

そんなことを考えておりましたら、新千歳空港からの搭乗機は、羽田空港A滑走路に進入しました。A滑走路の左手には、川崎市の工場群の夜景が、煌びやかに見えます。川崎市は、私の両親が定着した都市、私も数年暮らしました。

北海道と東京、遠くて近い、違うようで似ている、機内誌を読んで、なぜ私が祖母や両親のことに思いを馳せたか、数日したらここに書くことがあるかとしれません。『北海道の港町』から、いささか脱線した『ひとりごと』だったかもしれません。