NHK大河ドラマ『真田丸』、犬伏の別れを終えた感動です。

2016年9月6日
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NHK大河ドラマ『真田丸』は、最大の見せ場と言われた『犬伏の別れ』のシーンが放映されました。放送終了直後から、視聴者から多くの声が寄せられ、そのツィートの数1時間で5万件に達したそうです。その中でも、真田信幸役の大泉洋さんの演技を絶賛するものが多かったようです。

『犬伏の別れ』に関する従来の歴史家の定説、ほぼ固まっている事実関係については、先般の『ひとりごと』で書きました。真田家存続のため、父真田昌幸と二男真田幸村こと信繁が石田三成側に、長男真田信幸が徳川家康側に付く決断をしたことは間違いありません。ただ、誰が、どのような理屈理由をつけて、また、それぞれどのような受け取り方をして、さらにこの決断後、3人はどのような態度を取って別れたのか……諸説入り乱れていて、三谷幸喜さんの脚本に期待が膨らんでいたのです。ある意味予想を裏切られる?展開で、感動した方が多かったでしょう。それはまさしくこの日の主役は、真田信幸すなわち大泉洋さんとなったからです。


もしかしたら…と思わなくもなかった『くじ引き』のシーンこそありましたが、その前に、信繁が、後の世に、天下分け目の関ヶ原と言われた石田三成側と徳川家康側の戦は、国内を二分する結果にはなるけれども、短期間に終結すると予想し、その後、真田家は、どこにも属さないで生き抜くことは不可能と父に意見します。すなわち、家康が上杉攻めをしている最中に家康側を襲い、かつて武田家の支配下にあった信濃甲斐を押さえるとの目論見が奏功する見込みはないことを言います。これは、意外とこの先の伏線になっていると思いました。大泉洋さん扮する真田信幸は、もう、そんなことは止めましょうと父に言い放って『くじ引き』を引っ込めさせ、『私は決めた!徳川に付く』と。

そして、石田三成側が勝利したときは、命を懸けて自分を守れ、徳川家康側が勝利したときは、自分は命を懸けて父と弟を守る!そしていずれにせよ真田家は残ると言うのです。これを真田信幸すなわち大泉洋さんに言わせるのは、流石三谷幸喜さんですね。大泉洋さんは、大河ドラマへの出演が決まった喜びとともに、その難しさをしばしば言われており、特に、長いセリフは経験がなくてからっきりダメ、時代劇は苦手と謙遜されていたことを思い出します。アレ、もしかして、三谷幸喜さんとつるんで、わざと言っていたのでしょうか?


父昌幸は、おそらく自分を超えた息子たちを誇らしげに思って安堵し、最後の戦いを徳川家康に向けられることを、再確認したと思われます。兄弟涙して酌み交わす酒、親子3人で笑いながら飲み交わす酒、イイですね。最後の韓信の戦術のくだり、流石真田昌幸の息子と思わせる真田信幸の『解説』にも唸らさらましたが、真田昌幸の『韓信はバカだ』は、面白かった!その戦術の本当の狙いを書に残したら、誰も実践で利用できないと。流石父上の貫禄でしょう。


舞台が多い大泉洋さんは、私のイメージは、『北海道』『札幌』に、そして憎めないダメ男でした。その演技力は、まさに彼しかできないと思わせるような凄みもありました。でも、ご自身仰っていました。自分は、結婚しているし、家庭もある、本当はダメ男ではないと……。

そのとおりですね。お見事!


真田昌幸が、信濃甲斐に拘りを持ち続けるのは、信玄公への崇敬の念もあるでしょうが、この大河ドラマの最初のシーン、お館様武田勝頼を岩櫃城にお連れできずに、子らのみ人質を免じられて生き残ったことが、何か重みになっているような気がします。また、犬伏の別れの回での大谷吉継と石田三成とのシーンも良かったですね。こちらは、片岡愛之助さんと山本耕史さんですから、期待とおり出来て当たり前でしょうか(失礼!)。

史実では、上杉攻めに向かう大谷吉継が、蟄居中の石田三成を訪ねたところ、「家康を討つ」と打ち明けられて賛同を求めれ、親友に殉じたと言われます。豊臣秀吉亡き後、秀吉末期の混乱の中で治めるのは家康だと大谷吉継は認識していて、例の『直江状』にも、大谷吉継に対する徳川家康の信頼が見て取れます。実際大谷吉継は、3度に渡って勝ち目がないことを石田三成に言って翻意を促すのですが、勝ち負けではなく信義であるとする石田三成に従うことに決めたとされます。
それは、この『ひとりごと』でも書きましたが、大谷吉継は、石田三成に対しては、特別な思い入れがあるからでした。

『真田丸』では、石田三成が訪ねてきたことを、もはや武将として働くことができない大谷吉継は、自分は、三成が来ることを待つていた、つまり死に場所を貰いたかったのかもしれないと描いた上で、その三成のため、また、自分らしく生き抜く証のため、必ず勝たなければならない!と鼓舞して、石田三成に同心したのでした。真田昌幸にも届けられ、『犬伏の別れ』を演出した全国の豊臣恩顧の武将に対する文書を書くシーン、名優の演技に引き込まれます。

さて、いよいよ関ヶ原です。でも『真田丸』の視点では、真田信幸の居城沼田城を死守するその妻稲こと小松殿の憤然とした姿、そして徳川秀忠の関ヶ原参陣を遅らせた第2次上田合戦、これらが楽しみです。三谷幸喜さんの隠し玉?でもない限り、おそらく『犬伏の別れ』が、真田親子の最後の一緒にいるシーンとなるはずです。いっぼうで、関ヶ原では、大谷吉継が注目されます。

こうしてみると、三谷幸喜さん流の真田丸、毎回主人公があり、スポットライトが当たる人がいて、それがさらに今後の真田幸村こと信繁の活躍に、期待が高まるものです。関ヶ原の後、高野山九度山での蟄居の生活の描かれ方も気になりますが、それは満を持しての大坂の陣、『真田丸』へ向かう全ての仕組みプログラムと考えましょう。

それにしても、男たちの世界、そして素晴らしい俳優陣、男って、そんな『つまらないもの』ではないと思います。ひとつの大山を終えたNHK大河ドラマ『真田丸』、放映翌日の福本悟のひとりごとでした。