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裁判所に出頭する前に、一度弁護士に相談しましょう

(2010/03/22)

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『今回は、簡易裁判所の司法委員を務めている経験から、お話ししたいと思います。

 簡易裁判所の司法委員が担当する具体的な『仕事』は、裁判官の命により、これを補佐すべく、①訴訟上の和解の試み ②当事者の主張の整理 ③当事者の立証準備に有用となる助言・指導・仲介等です。

 これまで実際に多いのは、金融業者から支払いを求められた私人(債務者)の支払可能性に配慮した和解の勧試であります。

 司法委員として、簡易裁判所で業務に従事する際、しばしば思うことがあります。それは、『弁護士(又は認定司法書士)に相談し、できれば事件依頼して欲しい』ということです。

 言うまでもなく、裁判所は、現に係属する1件について、解決を求められます。

 しかも、当事者、つまり、貸金請求事件であれば、債権者と債務者の双方に、公平でなければなりません。

  もちろん、弁護士の立場から申せば、もともと力関係に差がある当事者(会社対個人等)にあっては、『実質的公平』こそ重要であり、この観点から、あくまで裁判所の立場を大きく外れることがない範囲で、補佐・フォローすることはあります。

 しかし、司法委員は、代理人,すなわち、当事者の補助者ではないのです。

 たとえば、金融業者から訴えられた債務者は、代理人(弁護士又は認定司法書士)に事件処理を依頼することなく裁判を続けていたところ、司法委員が入ることで、分割払いが可能であることがわかると、『毎月5,000円ずつ支払う』など、ご自身の生計,すなわち、支払能力を振り返ることなく申し出され、これを受けた業者,つまり、債権者との間で、金額増減の交渉が始まるのが実際の例です。

 しかし、たとえば生活保護受給者、無職・無収入の方、さらには、いわゆる多重債務者の方が、本当にそのような支払いを継続することができるのでしょうか。

 ある債務者の場合、A社からD社までの4業者から次々と訴えられ、その都度、分割払いの和解を成立させて、訴訟を終結させたと聞くことがあります。

 せっかく裁判所に来て、『和解』するのですから、当事者にとって、意味のある内容、つまり、ご自身の生活状況や生計に見合った内容の『和解』でなければなりません。

 ところが、裁判所に係属した『貸金請求訴訟』では、債務者の支払能力を細かく検討することは困難です。

 弁護士等であれば、単に一つの訴訟への対応のみならず、問題を抱えている当事者(依頼者)にとって、最も良いと考えられる解決策を示します。

 そして、司法委員として、裁判所から、当事者の主張を整理する役割を仰せつかるケースも多いです。

 これは、裁判所は、特に、法律的な問題点があると見ているゆえに、弁護士資格を有する司法委員に、割り振りすると考えられます。

 例示すれば、『自動車の物損事故の被害者は誰か』、『請負契約は誰と誰の間に成立したか』、『この売掛金の消滅時効は何年か』、など、法律的な判断を要するものがありえます。

 また、外形と真実が異なる場合,あるいは、権限の有無の法理論を巡っては、実にいろいろな法規の適用が考えられます。

 たとえば、民法の心裡留保(93条),虚偽表示(95条),表見代理(110条),商法の表見支配人(24条),会社法の表見代表取締役(354条)などが、これです。

 裁判所は、上記に述べたような問題点について、その『解決法』や『筋道』などを教えることはできません。つまり、司法委員も、基本的に同じ立場なのです。

 司法委員として、専門家に相談するよう勧めるケースは、その当事者にとって、『専門家の援助を得ることにより、可及的速やかな解決が可能ではないか』と見ている証なのです。

 「裁判所が理解してくれない」と不満気な感を持たれる当事者を見受けることがあります。

 確かに裁判所は、紛争等を解決する機関です。しかし、その『場』は、利用する当事者によって、いかようにも活用できます。

 民事も刑事も、『当事者主義』といわれます。裁判所が、積極的に何かしてくれると思わないことが大切です。裁判所は、当事者から与えられたテーマについて、『場』を提供するのです。

 改めて、援助者である弁護士の重要性を申し上げたいと思います。

 そして、このような案件に精通した弁護士に巡り会い、まずは相談をするということが望まれます。

 たとえば、弁護士会の法律相談は、30分5,250円が基本ですが、日本司法支援センター法テラスは、相談料は無料です。

 しかも、法テラスでは、弁護士が必要と判断されて、法律援助決定された案件については、弁護士費用を立替えてくれます(サービス一覧)。

 簡易裁判所は、訴額140万円以下の案件の管轄を有する関係で、比較的少額な訴訟が多いのですが、日本弁護士連合会の弁護士検索や、ひまわりサーチ、各地域の弁護士会の法律相談所を利用することにより、それぞれの紛争の内容に精通した弁護士を見つけることも可能です。

 そして、きさらぎ法律事務所は、どのような案件であっても、事務所内での初回法律相談は、無料です(『無料相談の理由』)。

 裁判所からの呼出状を受けたら、裁判所に行く前に、必ず弁護士と会って、相談することを、ぜひ実践していただきたいと思っています。