自衛隊員が、現地で判断を要するのは、災害時だけではないと思います。

2015年9月18日
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先日の鬼怒川の堤防決壊により、茨城県常総市が水没した災害で、屋根の上で救助を待っていた住人2名が、犬2匹とともに、自衛隊員により、ヘリコプターに吊り上げられて助けられた様子が、全国放映されました。

 

これを見た愛犬家の意見は、「本当に良かった。自分も、犬を置いて出て行くことはできない。」「犬も家族、自衛隊員の機転に感動した。」でありました。

 

概して、あの危険が迫る中で、犬の命まで助けた自衛隊員に対する賞賛の声が、寄せられております。 ところが、この様子についてあるTweetが、「自衛隊が、要救助者に抱えられた犬を救助するのはルール違反。しかし、要救助者から、『家族』との申し出があったので融通を効かせた」と出たことから、ネット上で、さまざまな議論がなされたようです。

 

「そんなルールあるの?」の素朴な意見です。

 

このTweetをした方は、身内が、自衛隊員であることを明かした上で、『あくまで国民の人命救助』が任務であるけれども、ルールに縛られる中、なんとかして『国民の小さな家族』を救おうとした現場の自衛隊員には、好意的な立場で問題提起したようです。

 

確かに、そんなルールが自衛隊法?にあったとしても、自衛隊員は、人命優先で活動していた過程で、たまたま『小さな家族』を引き受けたのであり、違反とは言えないでしょう。これは、警察や消防でも同じことがあり得るわけで、どうなっているのか興味はあります。ただ、東日本大震災の後、環境省が出した災害時のガイドラインでは、災害時には、ペットと一緒に避難することが、勧められております。もっともこれは、置いてきぼりとなったペットが、野獣化して、人畜や環境を破壊しないようにとの意図が読み取れます。

このネット論争がたけなわになって、防衛省広報室から『正解』が発表されたようです。結論としては、ペットの救出に関する根拠法令はないが、人命救助を最優先する中で、要救助者からの要請には、対応できるようにしていると言うことです。私は、2点申し上げたいと思います。ひとつは、何処かで述べたかもしれませんが、国民は、自衛隊を、災害救助のエキスパートと見て、強い信頼と尊敬の念を持っていると言うことです。

 

これは、その使命感から、自衛隊を志望する若者が多いことと表裏の関係にあることも意味します。 もうひとつは、自衛隊の裁量、現場の判断と言う問題です。我が家にもわんこがおります。この救出劇を知ったときは、単純に良かったと思いました。しかし、仮に自衛隊員が、この2匹の犬を袋に入れ、ヘリコプターで吊り上げる作業をしている間に、別の人命が危険に晒されたらどうかと言う意見は無視できません。

 

あの場面は、人命尊重と、その要救助者の求めに応じた『小さな家族』の救出でした。しかし、世界の何処かで、当の自衛隊員そのものが、人命をかけた場面に遭遇したら、その場面では、臨機応変、適切な対応ができるのか、また、自衛隊員にそれを求めて良いのかと言う問題です。

 

今まさに国会で成立するであろう安全保障関連法案は、安倍晋三内閣総理大臣がなんと言おうとも、存立危機事態の解釈は曖昧で、集団的自衛権か個別自衛権か、PKOとの違いは何処か、政府そして現場での判断に委ねられることは、避けられません。

 

そこは、国民が挙って自衛隊に期待する災害救助の場面ではなく、『現に戦闘が行われていない日本の同盟国が、攻撃されている場所』であります。要は、非戦闘地域とは限りません。自衛隊員が戦争に巻き込まれたとき、法律による歯止めがなく、明確なルールもなく、ひとえに現場の判断によるのです。それで良いのでしょうか。

 

いろいろ考えされられるわんこの救出劇でありました。