謝っても文句を言う人、謝った後、その補填を求める人

2015年10月22日
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三井不動産レジデンシャルが、2006年ころから販売した横浜市都筑区に4棟ある大型マンションで、複数の杭が地盤に達しておらず、これがために建物が傾いていることが判明し、横浜市が調査に入ったとのことです。

 

問題発覚の経緯は、昨年1棟の外廊下の手すり部分がずれていると通報があって、三井不動産グループが調べたところ、52本ある杭のうち6本が、地盤まで達していないこと、2本がしっかり打ち込まれていないことが判明し、そのため傾いたとなったようです。

 

なぜこんなことが起きたかと言うと、このマンションの地盤調査や杭打ちを受注した下請会社に外部から出してきた社員が、別のマンションに杭を打ち込んだ際のデータを、転用したからなのだそうです。

 

当面倒壊の危険はないと発表されていますが、マンション住人の皆様には、たいへんな災難であり、お見舞い申し上げます。データ転用に関与した外部からの社員が在籍していたと言う会社は、建物の補強や改修工事に要する費用を全部負担するとして謝罪しました。

 

これを受けて販売元の三井不動産レジデンシャルは、住民に対する説明会を行いました。伝え聞くところでは、マンションは、全棟建て替えすること、建て替え完了までの仮住まいの費用はもとより、いわゆるオーナー貸しの所有者には損失補償をし、加えて精神的苦痛に対する補償も行うとのことであります。建て替え完了までには3年程度はかかるようで、相当な損害賠償を要するでしょう。 三井不動産レジデンシャルは、建物を建築したのではなく、ましてデータ転用には、関与したものでもありません。

 

しかし、例え知らなかったとしても、売主としての瑕疵担保責任があるのです。これは法律により、新築建物の場合は、10年は負担しなければなりません。もちろんデータ転用をしたその人が、民事上不法行為を行ったとして、発生した全損害を賠償しなければならないのは当然です。また、建築した会社は、注文主に対して、請負契約に基づく瑕疵担保責任、債務不履行責任を負担します。

 

そんなところから、三井不動産レジデンシャルは、不法行為をしたとされる社員が居た下請会社に対して、自社が住人に対して支払う賠償について、これの求償すなわち、支払いの補填を求めると言われております。 事態の深刻さ、被害の大きさからして、関わった会社が責任を問われるのは仕方ないことで、被害者の救済が、確実になされるよう願いたいです。

 

でも、建築瑕疵や不良物件によるトラブルに関して、少なからず関わった者として、いくつか思うところがあります。 まず、これは僻みなのでしょうが、今回のように、比較的短期に調査がなされて原因が突き止められ、相応の責任の取り方が表明されたケースはあまり聞きません。

 

これは、いわゆる大手会社が関係した大規模なトラブルであり、あらゆる観点から、その対応を考えたのだと思われます。経験上、まず瑕疵かどうか争い、また、責任と言うか、原因を積極的に調べることはなく、訴訟や調停になって、法的な瑕疵の存在が明らかとされてもなお、賠償額だとか補修の仕方、要は、費用の掛け方について、あーだこーだ言うのが普通です。

今回気になるのは、いち早く対応を発表した売主に対して、報道される範囲で、住民の一部が、社長に詰め寄ったり、資産価値が下がったから補償しろなんて要求していることです。

 

いつも言いますが、謝ることはお金を支払うことであり、本件では、いち早く損害賠償を含む相応な責任の取り方が述べられています。完全建て替えになる物件であり、もうこんな物件嫌だと思われる住民には、購入価額以上の金額での買い取りも提案されていると言うのに、資産価値が下がった云々を言うことは理解できません。 いちばん不可解なのは、問題が発覚して調査がなされ、比較的早期に原因まで突き止めたのに、なぜ建築時には、誰もデータ転用に気付かなかったのかです。

 

これもよく言いますが、安全は、無駄の積み重ね、幾重にもチェックがなされなければなりません。たったひとりかどうかわかりませんが、不埒な人間のいい加減な対処が、かくも大事になったのは、例えばネズミが配線を齧ったことで、新幹線が止まるような感じでしょうか。 このデータ転用をした社員、その動機はなんでしょう。ひとりで過酷な業務を担当させられて…、安い賃金でやらされて…とか、不満はなかったでしょうか。

 

今回は、手すりのズレと言うかたちが出て、不法行為が表面化しましたが、このようなケースは、他にもあるのでは?と思ってしまいます。職場、労働の内容や環境にも 目を凝らす必要があるのではと思います。いろいろなことを考えさせられる一件でした。