太平洋上を飛行中の機内で無事出産したとの美談に隠されたもの?

2015年11月4日
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台湾の台北国際空港から、アメリカ合衆国ロサンゼルスに向けて太平洋上を飛行中の中華航空機内で、妊娠中の乗客が急に産気づき、偶然搭乗していた医師らの手により、無事出産したことがYouTube等で発信されました。無事出産を知った機内では、祝福の歓声があがり、この航空機は、母子の安全を確保するため急遽アラスカの空港に緊急着陸して、この母子を降ろし、約3時間遅れでロサンゼルスに到着したそうです。

航空各社では、妊娠中の搭乗可能期間を規定しています。報道によると、この中華航空機に搭乗した台湾の女性、中華航空の規定では、もはや搭乗できない期間に入っているのを認しながら、虚偽の申告をして搭乗したことが発覚しました。そして、このような経緯で、アメリカ合衆国アラスカ州に降ろされた後、アメリカへの入国を拒否されていると報道されています。

台湾の報道機関によると、この母親となった台湾の女性、子どもにアメリカ国籍を取得させたくて、妊娠中出産間近であるにも関わらず、アメリカに無理に入国しようとしたらしいと言うことです。つまり、アメリカ国籍取得の目的にのみ、今回の『事件』を引き起こしたとされた気配です。

国籍は、どのように決められるか、島国日本では、難民問題と同様、あまり関心をもたれないようです。隣国韓国や今回当事者を出した台湾等では、アメリカやヨーロッパ諸国への留学希望が多いことで知られています。台湾の高校生あたりは、母国語のほか英語は、普通に喋りますね。留学するとき、例えば『アメリカ国籍』を保持していると、入学や学費等の面で、かなり有利な扱いを受けるのだそうです。

このように申しても、まだピンと来ないと思われます。それは、アメリカで生まれた子どもは、その両親の国籍に関わりなく、アメリカ国籍を取得するからです。これを属地主義と言い、親の国籍で子の国籍を決める制度は、属人主義と言われるのです。日本は、属人主義です。よく、海外赴任中の日本人夫婦に、属地主義の国で子が生まれた場合、領事館に日本国籍を留保するとの届け出をするのは、世界では、二重国籍を防ぐ狙いがあるからです。また、日本国籍と別の国の国籍を持っているが、何歳になったらどちらか選択する等の話題が出るのもこのような背景があるからです。

今回の台湾国籍の女性、単に子どもにアメリカ国籍を取得させるための目的のみに、航空会社に嘘を言って、乗客ら多くの人間を巻き込み、迷惑を与えて国籍の不正取得を目論んだ疑いがあるとして、アメリカ合衆国から、捜査の対象とされているとも言われています。この女性の本国での生活等はわかりませんが、子がアメリカ国籍であれば、アメリカに移住しやすいでしょうし、先に例示したように、この子は、将来留学や、アメリカンスクールへの入国には、便宜が図られることでしょう。これは、母親の愛情、子育てのビジョン、教育方針だったのでしょうか?

私の父は、徴兵され、海軍の通信士として戦地に赴いた後、戦後は、民間船舶会社に勤務して、通信士として、船で世界各国に行き来しました。父は、常々「日本がいちばん良い」と申しておりました。私自身は、外国は知りませんので、比較のしようがなく、子どもを留学させようなんて考えたこともありません。この台湾女性の今回の動機はわかりませんし、ルールに反し、多くの関係者に迷惑を及ぼす行動は、容認できません。しかし、もしかして、子どもの将来、そしてめまぐるしく変わる世界の情勢を認識して、長いスパンを見据えて、こんな行動に至ったのかもしれません。

今、機内で出産した赤ちゃんは、アメリカ国内にいるこの女性の知人が面倒を見ているとのことです。「親思う こころにまさる親心」はそのとそおりだと思いますが、こんなことで生まれてすぐに母親と離れた赤ちゃんが、気の毒でなりません。事情は知らなかったとは言え、多くの善意によって、この世に生を受けた赤ちゃんのしあわせ福祉の観点に立って、今後この『事件』の収まりが齎されることを希望します。


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