ある日父を奪われたら

2015年11月23日
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俳優の大沢樹生さんと女優の喜多嶋舞さんとの間の長男に対し、大沢さんが、親子関係が存在しないことの確認を求めた訴訟の判決が言い渡されました。判決主文は、『原告と被告との間に親子関係が存在しないことを確認する』となったようです。

 

この『事件』、2年ほど前に、大沢樹生さんが、あるきっかけでDNA鑑定をしたところ、長男との間には、99.999%以上、親子関係は存在しない鑑定結果が出たことから、家庭裁判所で、親子関係がないことを前提にする調停を申し立てたことが明らかとなり、マスコミを賑わしたものです。調停は不成立となり、訴訟となって、判決が言い渡されたわけです。 大沢さんと喜多嶋さんは、当時いわゆる『できちゃった婚』と言われ、6月に婚姻し、翌年の1月に長男が生まれたとのことす。

 

その後両名は離婚し、当初親権者に就任したのは喜多嶋さんでしたが、再婚をきっかけに長男の親権は、大沢さんとされ、大沢樹生さんが、約3年間男で1人で育て、その後大沢さんも再婚し、ある出来事がきっかけとして、大沢さんが、長男とのDNA鑑定に踏み切り、その結果、親子関係がほとんど存在しないと鑑定されたころから、長男は、アメリカ合衆国で生活する喜多嶋舞さんの親が引き取って、監護しているようであります。 マスコミ等では、『大沢樹生さんは、長男の実の親なのか?』だけがひとり歩きし、『嘘をついているのは大沢樹生か喜多嶋舞か?』の論戦となり、この判決が出るや、喜多嶋舞は最悪の女だと言ってみたり、父親探しを早くも始めているのです。

 

世間では、DNA鑑定等で、実親子関係があるかないかハッキリする時代なのに、なんで揉めてんの?との感想があるかと思います。それは、民法は、単なる血縁関係だけで親子関係を割り切る考えを取っていないからです。例えば、昨年最高裁判所では、明らかに血縁関係がないと証明された父親であっても、その子が、妻との婚姻中に懐胎され、生まれたのであれば嫡出子であり、嫡出子の身分を失わない、つまり、血縁関係がなくても父親なのだと言う判断をしています。

 

もし、この判決の結論だけ見れば、今回の大沢樹生さんのケース、親子関係は否定されず、実の親ではなかったとしても、長男は、大沢樹生さんの嫡出子の身分を失わないとなるはずでした。 細かい事実関係を知らない、と言うか、興味がない私なんかからすると、大沢樹生さんの思いや『正義』はともかく、当然大沢さんの請求は認められないと思っていたのです。ポイントは、『嫡出推定規定が及ぶか』にあります。

 

すなわち、民法772条は、1項で、『妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する』、2項では、『婚姻開始後200日経過して生まれた子、婚姻解消後300日以内に生まれた子は、『婚姻中に懐胎したものと推定する』と規定しているからです。これはよく『300日規定』として問題にされるところです。例えば、長く夫と別居していた妻が別の男性と交際して懐胎したが、夫との離婚届の300日以内に子が生まれた場合、そのまま出生届を出すと、前夫の子となってしまうと言う問題がありました。 時代遅れ!女性差別!非科学的!様々な批判がなされる現状です。

 

もともとこの規定は、『嫡出否認の訴え』と一体として捉えれば、多少は、当時の立法者の意思がわかります。すなわち、この規定を受ける子について、もし、父親とされた男性が、『自分の子ではない』と言いたい場合、その手続きは、子が生まれてから1年以内に行わなければならないと言う決まりがあるのです。 これは、まずもって、婚姻中の夫婦の間に生まれた子は、その夫婦の子だとの社会的観念があるでしょうし、嫡出子とされた子の法的身分関係を早期に確定したあげて、保護する必要があるとの考えに基づくものです。

 

相当後になって、父親だと信じていた人から、『親でも子でもない!』と言われたらどうでしょう。従って本件で、もし、この民法772条2項に該当するならば、もはや18歳となった長男について、大沢樹生さんは、DNA鑑定がどうであろうと、嫡出否認は認められない、つまり、長男との親子関係不存在は認められない結論になるからです。

 

報道されたところでは、この判決、長男は、大沢樹生さんと喜多嶋舞さんが婚姻して200日以内に生まれており、民法772条の推定は及ばない、つまり親子関係を否定するには、1年以内の嫡出否認によるしかないとの解釈を取る場面ではなかったと言うことだったのです。前年6月に婚姻、翌年1月に出生と聞いておりましたから、200日超えたかどうか、まさに『ボーダーライン』だったわけです。そうすると、裁判所は、証拠調べをして、長男が大沢さんと血縁関係があるかどうか判断します。おそらく長男すなわち喜多嶋さん側が、改めてのDNA鑑定をする意思がないとみなされ、大沢さんが拠り所としていたDNA鑑定を覆す証拠は存在しないと認定して、原告大沢樹生さんの請求を認めたのだと想像されます。

 

本件訴訟は、『DNA鑑定により大沢樹生さん勝訴!』ではありません。

 

『長男が生まれたのは、婚姻後200日を超えたか超えていないか』なのです。200日を超えていた日に生まれていれば、昨年最高裁判所において、3対2の微妙なところで判決されたところを踏襲し、血縁関係よりも、長年の培われれた子の身分を重視する判決となったでしょう。種明かしすれば、マスコミや世間がワーワー言うところとは関係ない入口、それも計算で決まりだったわけです。

 

こんなふうに言いますと、大沢樹生さんは、罪のない子の身分を奪ったとして福本悟は、『他人』の子を育ててきた事実を無視して批判するのか!と言われるかもしれません。それは違います。報道される範囲で、大沢樹生さんが、DNA鑑定をした契機に打たれるものがあったからです。大沢樹生さんは、この長男が障害をもっていることや、再婚して不妊治療の末授かった胎児が死産となったこと等から、自分のDNAに異常があるのではないかと不安になり、いわば家族のため、DNAを調べたのだそうです。その結果の…であります。

 

そして一部報道されるところでは、このような結果になった以上、あいまいなままにしておくわけにはいかない、しかし、それでも親と思ってくれるなら、いつでもアメリカから帰って来い!と言ったと伝えられています。

 

これは、まさに私が大切だと信じ、また、法の趣旨でもある子どもの身分地位を不安定にしない、より直裁に言えば、子どもから親を奪わないことを『父親』として認識されていると思えるからです。

 

本件で、もし、長男の誕生が、婚姻後200日を経過していたらと思うと、おそらく全く反対の結論になったでしょう。

 

その場合マスコミは、『大沢樹生さんの訴え認められず』とか、『喜多嶋舞さん側勝訴』なんて書き出すのでしょうね。繰り返しますが、血縁関係が認められなくても、『父親とされた側』が勝訴することは、この推定規定のため、稀有なケースとなります。

 

そんなことは、大沢樹生さんは百も承知、このような案件に精通した弁護士が就いていたのです。この長男の今後に思いを馳せつつも、200日のボーダーラインでセーフとなったことは、おそらくこれまで大沢樹生さんは、長男くんと親子として接し、また、今後も、その意思を変えないであろうことを、天は見ていたのだと思います。

 

なお、長男の母親喜多嶋舞さんに関する私からのコメントは、控えさせていただきます。