オーストリア大統領選とイタリア憲法改正国民投票がもたらしたものと学ぶべき事柄。

2016年12月6日
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アメリカ合衆国次期大統領にトランプ氏が就任することが決まり、ポピュリズムの台頭を懸念するとの論調が目立ちます。確かに選挙期間中のトランプ氏の言動から、民族や宗教、そして性別に関しても独自の言動が見られました。

また、トランプ氏が勝利したのは、1%の富裕層が政治を支配すると言われるアメリカ合衆国の現状で、職を失い、収入が途絶えた労働者らの共感を得られたことがあったと思います。

そういう意味では大衆迎合かどうかはともかく、選挙戦をうまくやり遂げと言えるかもしれません。ただ、『強いアメリカを取り戻す!』の叫びに、民主主義国家から、懸念が保たれているのことは事実です。

でも、なんで次期大統領とは言え、まだ経済人、私人であるトランプ氏の私邸を、日本国内閣総理大臣は、お金を使って訪ねたのでしょうね。これこそ『トランプ外交』に降ったのもしれません。

さて、12月に入って、ヨーロッパで、注目される選挙・投票がありました。ひとつは、オーストリアの大統領選、ひとつは、
イタリアの憲法改正国民投票です。その結果次第では、EU離脱、金融不安、難民受け入れ等ヨーロッパ諸国に大きな影響が起こるであろうと言われておりました。

オーストリアでは、難民排除等民族主義を全面に出す極右政党自由党の党首ホーファー氏は、年齢も若く、見てくれも良く、その語り口はとても極右とは見えない?ところで、特に若い層から人気を得ていたと言われます。国の南側に壁を!と、最近どこかで聞いたような政策を打ち出し、今年4月に行われた大統領選では、勝利するのではないと言われていました。

それが人口850万人のオーストリアで、ヨーロッパ初の極右政党が政権を獲得かとの騒ぎに繋がりました。しかし最後の最後、不在者投票の開票の結果、僅か3万票の差で逆転され、移民・難民政策等に寛容なヘレン氏が当選と発表されました。ちなみにオーストリアは、北欧諸国と並んで、福祉教育が充実していて、日本と違って貧困率が低い国です。なんで極右政党が?の思いがありました。

ところが先の大統領選、開票作業に不正があるとか、マスコミが途中でホーファー氏の当選確実を報じたのは不公正とか、ホーファー氏陣営が、選挙無効を提訴したところ、オーストリアの憲法裁判所はこれを認め、選挙の無効とやり直しを命じたのでした。裁判所、しっかり仕事していますね。そして当初10月に予定された選挙が準備不足で延期となり、ようやく12月4日に投票が行われたのでした。

いっぽうのイタリア、この国は伝統的に少数党が多くあり、日本の国会に当たる上院と下院に優越はなく、しばしば両院では別々の決議がなされ、それが政権の安定に繋がらないと言われてきました。イタリアにはムッソリーの悪夢があり、独裁の温床となる政府の権限強化に繋がる恐れのない政局運営をなすべしとされてきました。しかし、それが少数政党の連立政権になったり、選挙ごとに政権が替って金融不安を齎す等問題があったとされます。レンツィ首相は、上院の権限を縮小すること、地方に委託していた決定権を、中央に移譲するように憲法を改正したいとし、これの国民投票を決意したとされます。

結果は、オーストリアは、現大統領が当選し、イタリアは、憲法改正は否決されました。形式的には、現状維持となりましたが、この結果と効果、そしてヨーロッパ諸国への影響に関しては、いろいろ言われています。オーストリアは、移民難民排斥の極右政党の政権奪取はなりませんでした。いっぽうイタリアは、政権が安定せず、金融不安が募るであろう、しかしそれが孤立化と他国からの干渉を嫌う国民世論が現れたとの評価があります。

ただ、議会の権限を弱くする政府の思惑による憲法改正は、それ自体として疑問はあるのです。イタリアのレンツィ首相は、辞意を表明しました。さらに政局は不安定になり、それこそここぞとばかりポピュリズムや排斥思想が跋扈する懸念があります。

6月のイギリスのEU離脱、先月のアメリカ合衆国トランプ大統領誕生等、国の独自性を重んじる空気がありました。他国との関わり、他民族の受け入れは、国家を危うくするかの流れがありました。国の運営が上手くいかず、人々の生活が良くならないとき、決まって敵を作る、大衆を煽るやり方は、残念ながら国民受けする歴史があります。

次元が異なると言われるかもしれませんが、日本でもア◯ノミクスって何年も言っていますが、これと並行して中国、北朝鮮の脅威や領土問題等を煽り立てて人気を博しようとするやり方があるのではと危惧します。

オーストリアのホーファー氏、直ぐに負けを認めました。また、レンティ首相は、ご自身の信任投票と位置付けておられたので辞任するようです。その意味では民意を尊重して、潔いです。イギリスのEU離脱の国民投票から始まって、『トランプ現象』そして極右政党とか国民投票とか、国のあり方を二分する流れが一気に押し寄せた感がある2016年です。

ただしイギリスにせよアメリカにせよ、今回の時を同じくしたヨーロッパ2カ国にせよ、国民がそれなりに考えて結論を出した、つまり民主主義は機能していたことは忘れてはなりません。それにしても内閣支持率60%超えの日本、独裁国家は別にして、凄いことになっています。このこと自体がポピュリズムに陥った結果ではないことを信じるしかありません。ヨーロッパと日本は違うようです。