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調停手続を利用するのにふさわしい案件は?

(2013/07/12)

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調停とは、裁判所・調停委員会を介して、話し合いによって、当事者間の紛争を解決する手続です。

 

 どのような案件が、調停手続を利用するのにふさわしいのでしょうか。

 

 1つは、判決を得ても、本質的な問題は解決しない,あるいは、積み残しとなってしまうケースです。

 

 たとえば、家賃を滞納した賃借人に対し、契約を解除して、建物の明渡しを求める場合、明渡しを命ずる判決が出されても、被告,すなわち、現に居住する賃借人が家を出て、他に住居を定める資金に事欠けば、出て行こうにも出られません。

 

 あるいは、夫(又は妻)の不倫相手に対し、妻(又は夫)が、そのような関係は認めることができないとして、慰謝料を請求した場合、夫(又は妻)と不倫した被告に対し、お金を支払うよう命ずる判決が出され、その被告が、現に判決とおりのお金を支払っても、夫(又は妻)との不倫関係を止めなければ、本当の意味での解決にはなりません。

 

 もう1つは、事件の筋,正義はあっても、それを裏付ける証拠に乏しく、裁判を起こすことに躊躇されるケースがあります。

 

 きさらぎ法律事務所にいらっしゃる方で、よく『証拠』に関して言及され、不安を述べられるケースは少なくありません。

 

 私は、大切なことは、『証拠』ではなく、『事実』だと申し上げます。

 

 とはいえ、証拠裁判主義といわれるように、当事者の主張を、証拠によって認定された『事実』が、法律上真実とみなされるシステムであることは間違いありません。

 

 そのようなケースにあっては、民事調停を選択することが考えられます。

 

 もちろん、裁判所の手続ですから、法律に基づかない主張を言うだけでは何も進みません。

 

ただし、調停を申立てした当事者の要求は、充分ありえる話であり、それを裏付ける主張も、それ自体としては、決して不合理ではないと調停委員会が関心を持てば、たとえ証拠に乏しくても、調停相手方を、相当強く説得することが期待されます。

 

 しばしば申し上げるバランスに配した着地点に導くということです。

 

 たとえば、ある業者が、工事を頼まれて、現に着工して仕事を完成したが、契約書どころか、注文書も見積りもなく、誰が発注したかわからない,つまり、この工事を請負った業者は、誰に対して、いくらの工事代金を請求すべきか問題になるケースを聞知します。

 

 この場合、実際に工事が行なわれ、『誰か』は利益を得たことは間違いないのです。このようなケースで、厳密な法律論のみを言い、また、証拠云々の議論に留まることは、正義公正といえるのかということです。

 

 上記のようなケースは、これまで機会を得て、申し上げてまいりました。主として、これは調停を利用する代理人弁護士としての視点です。

 

 ところで、平成20年までの8年間、東京簡易裁判所の民事調停委員を担当した経験から、もっと裁判所の調停手続を利用していただきたいと感じることがあります。これは、いわば調停委員会としての目線かもしれません。

 

 次回以降にお話しいたします。