事例 破産・債務整理 事例 相続・遺言の問題

母が亡くなりました。既に父は無く、相続人は弟です。母は、土地・建物を所有しておりましたが、老朽化したので建替えて2階に母が住み、1階に3部屋造って、賃貸借する計画をもちました。  この建替えについて、私が母のため銀行からローンを組み、賃貸借契約は母名義で行なって、ローンはこの家賃で支払うこととしましたが、この段階で、建物は私名義になりました。以来5年が経過して、相続が開始しました。 この間家賃収入が途絶えて、私が自腹で住宅ローンの支払いをしたことや、建物は私名義ですから、固定資産税を支払い、また、修繕費用を出したこともありました。 私としては、建物の所有権も、住宅ローン等の債務や諸経費も、母に実際は帰属するものとして、弟との間で遺産分割の協議をしたいと思っております。何か注意することがありますか?

(2018/09/03)

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 相続の対象となるのは、形式的には母名義の土地ですが、『遺産分割』は、『遺産の範囲』について当事者間で合意が成立すれば、形式的な名義に拘束されるものではありません。実際当事者が合意して協議,そして調停を進めることは多く、裁判所も中間調停といって、調停調書上遺産の範囲を当事者が確定  したことを証する調書を残しておくことがあります。

 

本件で、もし建物が相続財産ではないとすると、賃貸人の地位は共同相続され、賃料は共同して取得し、税金や住宅ローンは、相談者が支払うことになります。そのいっぽうで、相談者は、建物所有者として、相続財産たる土地に対して、一定の使用権限を有しなければならず、これは、建付地として土地の権利が制約を受けることを意味します。

 

つまり、法律関係が錯綜し、相続後も将来にわたって面倒を残すことになってしまう。このような事態は避けるべきでしょう。

そうすると、相談者が希望する土地・建物は、相続財産と扱うほうがわかりやすいです。その場合、住宅ローンも実質的には、相続債務とみなければなりません。また、過去相談者が負担した税金や修繕費の精算も必要でしょう。

相談者と弟の希望によるところですが、第三者に賃貸していること,その賃料収入をもって相談者名義の住宅ローンを支払っていること,そして何よりも、本件建物は相談者の名義なのですから、本件土地・本件建物を相談者が相続し、弟は、他の相続財産,たとえば預貯金を相続するような落ち着きが求められるでしょう。

 

もちろん預貯金等換価できる財産の額によっては、そもそも本件土地・本件建物以外に相続すべき財産がない場合は、『代償金』を弟に対して支払うことになります。

もし、代償金の引当てとなる金額が都合できないときは、本件土地・本件建物を一括して売却して、代金を受けることにならざるをえないと思われます。ただし、売却処分と言っても、現に賃借人がおり、現在のローン残額を考えると、事実上困難であったり、「もったいない」場合もあるでしょう。

結局遺産分割の問題は、法律論,理屈や机上の評価額だけを言い立て、並び立てても、解決にはならないことが多いことを理解されなければなりません。

相続問題では、えてして相手方が得をしているとか、もっともらえるとか、不公平との声が聞かれます。しかし、絵に描いた餅となりやすいのも、この遺産分割の類型です。現実的判断が求められます。そこは、経験を積んだ弁護士が対処する場でもあるのです。