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遺言内容を相続発生時実現できない状態に至った場合、遺言はどのように扱われるのでしょうか。

(2021/12/27)

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相続が発生すると遺産分けをする前に、税金をどうする、申告をしなければと考えられる方が少なくないと思います。

 相続税が発生しないケースは、そうではないのかもしれませんが、プラスの相続財産が存在する場合は、相続・遺産分割は、必ず履践しなければならないとお考えください。

 

平成28年に裁判例が変わり、預貯金については、「遺産共有」という実務になったと申しました。

 公正証書遺言で、預貯金口座が明確に特定され、ただひとりの相続人が、全遺産を相続する内容にでもなっていれば、金融機関は遺言どおり対応するかもしれません。

 

しかし、全相続人の同意・協議により預貯金の分配が決まらない限り、金融機関は、相続財産である預貯金の解約・引出しには応じません。

 ところが不動産については、各相続人が法定相続分に従った相続を原因とする持分移転登記が可能です。いわゆる共有登記となり、これの解消は遺産分割ではなく、共有物分割請求手続となります。

 

前回までに、これはご説明いたしました。

 

預貯金口座が相続発生により凍結されてしまったら、もし多額の預貯金が存在したならば、共同相続人としても「何とかしたい」、つまり遺産分割協議を成立させたいと考えるかもしれません。

 

しかし、不動産についてはこれまでご説明したとおり、決して持分に対応した共有登記をすべきではありません。特に、相続人名義のままで困らないケースも少なくないと思われます。

 昨今しばしば報道される「空家問題」もあります。

 相続発生により、相続財産である土地建物を使用する人がいなくなり、その不動産が相続人にとって遠方にあって利用する可能性がない、あるいは資産性がなく、維持費がかかってしまうケースなどでは、むしろ「そのまま」にしておく、面倒を避けたいのが相続人の大半の見解ではないでしょか。

 こうして被相続人名義、つまり亡くなった人の登記名義のまま残された不動産が、全国に存在しているのです。

 令和3年4月21日参議院で、民法及び不動産登記法の改定が議決され、法律として成立しました。

 

これは、空家問題等として所有者がわからない不動産の放置を、発生させないことを目的としたもので、不動産の相続を知った後、3年以内に相続を原因とする所有権移転登記を行うことや、引っ越し等で住所が変わった後、2年以内の表示変更登記を行うことなどを義務付けし、違反者には過料を科す内容となっています。

 

過料を科せられたらいやですから、不動産の相続登記は進むと思います。

 

しかし、すぐに遺産分割が成立するわけではありませんし、かと言って、とりあえず持分に応じた共有登記をしてしまうと、繰り返し申し上げるとおり、もはや「遺産」ではなくなり、これの分割は、地方裁判所で共有物分割請求訴訟で決めることになっています。

 

また遺産分割協議が整わない場合は、10年経過したら決定相続によると決められたようです。

 この法改正は、あくまで空家問題等の観点から導かれたものですが、「問題の先送りはしてはならない。」と申し上げたところをさらに加速させるものです。

 相続が発生したら、相続税がどうのを考える前に、まずは弁護士にご相談ください。「遺産分割」手続を、必ず進めなければならないとお考えいただく必要があるからです。