司法委員として感じること(2)弁護士は誰のために仕事をするのか
(2020/05/11)>> 一覧に戻る
前回「久しぶりに」と附記して、「司法委員として感じること(1)」を書きましたが、続くその(2)を書くことなく、昨年12月、私は東京地方裁判所管内の簡易裁判所の司法委員を退任しました。
民事調停委員は、40代のときに退任しました。裁判所側から、裁判所から見た法的紛争を解決する場に長く携われたことはとても有意義でした。このことにまず感謝しなければなりません。
「その2」を書く今回は、「弁護士は誰のために仕事をするのか」についてです。
私は、委任契約を締結した方から、必ず弁護士費用を頂戴します。もちろん委任契約書に拘束されますが、「このお金を払う人」と「委任状をもらう人」とが異なることは、大いに問題だと思っておりました。
簡易裁判所で現在多い案件は交通事故です。簡易裁判所は、訴訟物の価額(原告の請求額と言っても良い)が140万円以下の事件を取り扱いますので、交通事故でもいわゆる物損がほとんどです。
交通事故の場合、もともと裁判所に出てくる代理人は、保険会社から派遣された弁護士がほとんどです。事故の当事者も保険でやってもらうとの意識が強いので、つい任せてしまう。当然弁護士費用も保険会社から出る。事故の当事者は、実は委任状を書くだけになっている。
このような場合事故は存在し、損害が発生しているが、何らかの理由でその事故が保険適用にならず、事故を起こした本人が、現実に損害金を支払わなければならないとされたらどうでしょう。実際そのような事例が、最高裁判所で示されたことがあります。
これとは別に最近よく見かけるのは、個人で契約する保険に、一定範囲で無料で弁護士に委任することができる特約が付いていて、これを利用して保険会社が選んだ弁護士が代理人として出てくるケースです。
全てが交通事故ではありませんが、数万円から数十万円の訴額が多いです。
どのような事案でも、困っている人のために弁護士が出てくることは重要です。「10万円の事件だからやらない」という態度は、好ましいものではありません。
しかし当事者となった人は、保険会社の選んだ弁護士が割り当てられるので、もともと自身が選んだわけではない。依頼者と受任弁護士との間に、信頼関係が形成されていくのです。
実際司法委員として、主張整理や和解の手伝いをする過程で、代理人弁護士が、事件本人と打ち合わせをしていないと感じるケースは多々あります。またこのような代理人の対応主張は、真に事件本人が希望するのだろうかと疑問に思うことはあります。
受任弁護士としては、数万円の違いでも訴訟等の結果、その報酬は保険会社から支払われるので、事件本人、即ち委任状を書いてもらった人の顔を見て、仕事をしているのかということです。
司法委員の立場として、基本的には当事者に法律専門家である弁護士・司法書士が就いていただく方が有難いのです。
しかし時として、これは事件本人、委任者の意向なのだろうか、これは委任者事件本人の利益となる訴訟活動なのかと思うことがあるのです。それは委任契約書を締結する人と、お金を支払う人が違うことから導かれる現象です。
私の場合、解決のため弁護士が必要だと判断したならば、数万円、数十万円の事件でも、所定の弁護士費用を頂戴して必ず事件受任します。ただし、依頼者と支払者は同一人です。
これが、弁護士と依頼者間の信頼関係構築の基本と考えています。