共有名義となった不動産について
(2021/03/23)>> 一覧に戻る
平成28年12月の最高裁の判例により、相続発生によって当然に法定相続分に従った「遺産分割」にはならず、「遺産共有」となることをご説明しました。
この遺産共有は、預貯金について意義がありました。
それは、法定相続分に従って当然分割になり、各相続人が金融機関に対して預金の引出しを求めて取得することが、その人に対して生前贈与などがなされていた場合に、共同相続人間に不公平が生じるからでした。
しかし不動産については、法定相続に対応した共有登記をすることが認められています。つまり、法定相続人の誰かが、法定相続分を各持分とした相続を原因とする移転登記をすることは、実務上可能です。
それは、とりあえず相続人に登記を移しておく、つまり保存した状態にして、これからゆっくりこれをどのように分けるか、遺産分割の協議をしよう…と思われるかもしれません。
しかし、それはできないのです。不動産に共有関係が生じたら、要するに共有持分登記が現れたら、その原因が何であれ、その『共有関係』を解消するには、共有物分割請求によるしかないのです。
世の中には、共有関係が生じることがあります。例えば夫婦で不動産を購入して、持分登記をするとか、何らかの組合が存在して、各組合員が持分を有するとか、建物建築ができるよう、公道につながる『私道』が共有関係になっているとかいくつもあり得ます。
つまり、相続だけが共有を生むわけではないのです。民法では、共有状態の解消という観点から、共有物分割請求という制度を執っています。
共有関係の解消を求められたら、つまり共有物分割請求を受けたら、どのように分けるかの協議をします。この協議をしないとか、話し合いがまとまらない、うまい分割、つまり共有関係の解消の仕方が導き出せないときには、共有物分割請求訴訟が提起されます。
共有物分割請求訴訟の中で、話し合いがまとまればよいですが、それも無理な場合は、裁判所は当該不動産について、競売を命じます。競売をして、手続費用を控除して、買受人から支払われた『売買代金』を、各共有持分に応じて分配することになります。
共有物分割請求訴訟の判決主文は、競売に付することを決定するに留まり、確定判決に基づいて別途競売申立てが必要です。
さて『遺産共有』状態にあるから、ひとまず相続人間の持分に応じた共有関係にしてしまうと、もはや『遺産分割』手続はできなくなります。
遺産分割の管轄は家庭裁判所で、調停・審判と進みますが、共有物分割は地方裁判所の裁判、そして判決となります。
共有状態が生じた理由は関係ないので、遺産である不動産を共有登記(持分登記)にしてしまったら、実務上遺産ではなくなります。
複数の遺産があって、かたや預貯金は遺産分割、不動産は共有物分割に手続きが変わるのは、非合理的です。
遺産の中に不動産が存在する場合、急ぎ持分登記をしないよう注意する必要があります。