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遺産分割の際の不動産の評価について

(2021/07/06)

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遺産分割は、相続人の確定、遺産の範囲の確定がなされると、その遺産の評価を行います。

 

遺産の評価としてしばしば争いになるのは、不動産、特に土地です。

 不動産の評価は、分割時点での時価を基準とします。これが教科書的な回答です。時価とは、不特定多数の人の間で、通常の自由な取引がなされるとした場合に用いられる代金額を意味します。

 相続発生から実際の分割時期までに、時間を要することもあります。そして様々な事情で、相続発生時と分割がされようとする現在とでは、価格がかなり変わるケースもあるでしょう。でも基本は、現在の分割時とされる例です。

 そして何を基準にするかで、常に争いになります。

 

時価といっても、現実にその不動産を売りに出すわけではありませんから、売買契約が行われるときの売出価格、あるいは成約価格を意味するものでもないのです。

 何をもって「時価」とするのか。実務上は、各不動産会社から取り寄せた査定書のオンパレードになることが、少なくないです。

 

そこで裁判所では、国土交通省が毎年1月1日現在の都市及びその周辺地域の標準値の地価として発表する「公示価格」を出すよう求めます。

 公示価格は、一応その標準値について、自由取引が行われる場合の正当な価格を計算したものとされていて、これを基に相続税や固定資産税を決定すると扱われているからです。

 

もっとも全ての土地に、公示価格が示されるわけではありません。まさしく標準地しか発表されないので、その場所からの距離・地域性(商業地域か低層住宅地かなど)、そして地形などが違えば、基準としては使いにくいでしょう。

 

ある程度客観性という点では、相続税を申告する際に用いられる路線価、また、固定資産税を課するための評価としての固定資産税評価額も利用されることがあります。

 ただし相続、そして固定資産税評価額は時価より低いので、固定資産税評価額に0.7を割り算するよう算式が用いられたり、1.2倍にするなど調整されることがあります。

 路線価と時価は、地域にもよりますが、近時は大きな差は見られない傾向にあります。しかし路線価とは、まさしく路線、すなわち道路に面している土地を対象とします。で、これまた利用しにくいケースがあるのです。ただ裁判所の調停では、相続税の申告書があるケースでは、まず路線価に従った財産表を作成する実務です。

 こうしてみると、時価といっても基準とするものはないに等しいことに気付きます。要するに「時価」とは、あくまで講学上机上の概念であり、実際の遺産分割の場面では、いろいろな要因により当事者双方が合意できる評価額を、決めていく作業がなされるとしか言いようがありません。

 なお合意できず、審判等になるにあたっては、裁判所による鑑定が利用されることがあります。ただし、これを利用するには、出された鑑定価格を当事者は受け容れるよう、予め裁判所から求められることが少なくありません。

 鑑定をしても、また争われたらその意味がないとの判断でしょう。しかし私は、これまでの経験から、決してお勧めいたしません。

 不動産の「時価」とは何か。それは決して教科書どおりには収まりません。

 

しかし実際の調停・審判では、収まるところに収まります。

 

ここではまさしく机上でありますから、実際の遺産分割例に携わってきた経験と申し上げておきます。