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離婚の要求を拒絶し続けることの勘違い(続き)

(2022/03/26)

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例を出しましょう。

 

夫Aと妻Bは、婚姻5年後に代金4800万円でマンションを購入した。このとき婚姻後夫の給与の中から積立てしていた貯金500万円を頭金にし、残金4300万円は、Aが30年ローンで支払うことになり、マンション名義はAとした。Bは専業主婦で、AB間には婚姻2年後に生まれたC子がいる。

 

Aは、Bとの離婚を求め、婚姻10年後(マンション取得5年後)にBが強く拒絶したことから、マンションを出て別居した。Aは、住宅ローン・管理・税金等を全て支払い続け、「婚姻費用」を本で調べ、適正と考える金額を毎月Bに送金していた。このときのマンションローン残高は、3800万円だった。

 

なおAは、別居直前に勤務先を退職し、婚姻前から勤務した会社から退職金200万円を受取ったが、転居費用としばらくの無職の間の生活費に全部使い切って、別居後次の職場に勤め現在に至った。

 

Aは、別居5年が経過したとき、次のような条件を示して、Bに対し強く離婚を求めた。すなわち、マンションのローンは完済まで全て責任を持って支払う。このまま住み続けてよく、Cの大学学費は全て支払う。しかしBは、離婚に応じなかった。

 さらに5年経過した時点で、Aは弁護士に依頼して、Bに対し離婚を求めた。

なお5年前、つまりマンション取得後10年時点のローン残高は、3000万円だったが、Bは別居後高給取りになり貯金もできたので、いわゆる繰り上げ返済を続け、この時点(マンション取得後15年)でのローン残高は、1500万円になっていた。Aとしては、後10年のうちに、1500万円を支払うのは容易な状態にある。現在マンションは、別居時と同じ時価4000万円程度とされる。

 

Bは、Aに弁護士が就いたので、もう離婚しても良いとも見えた。そこで5年前と同じ条件ならと考え、弁護士に相談した。すると相談した弁護士から、意外な回答がなされた。

 

「あなたが暮らすマンションを維持するのは、難しいかもしれない。」

 

これは、財産分与について説明したものです。以前ご説明したとおり、離婚による財産分与は、「基準時」の財産を対象に考えるからです。

 本件では、別居時のA名義で存在する婚姻中夫婦が共同して築き上げた財産はマンションだけだからです。別居時、すなわち基準時の評価額は4000万円でした。

 

ところで、その時点でのローン残高は3800万円でした。マイナスの財産も、分与の対象となります。そうすると、分与の対象となるマンションの価額は、200万円です。夫婦の割合は均等ですから、この時点でAは、Bに対し、100万円の請求ができる計算です。

 

(4000万円-3800万円)÷2=100万円

 

つまり、100万円を受取って、マンションを――離婚により――退室しなければなりません。以後Aは、マンションのローンを支払うことを前提に、これを維持できます。Aはマンションを売却処分しも構いません。

 何年別居が継続し、いつ離婚となるかに関わりなく、離婚時の財産分与は基準時のそれによるので変わりません。

 

つまりBは、いつ離婚に応じても100万円を受取る替わりに本件物件を使用・占有する権利を失い、ここから退去しなければならないことに変わりはないのです。長く無償で使用できたのが利益であり、この間に人生設計すべきでした。

 

もしBが、離婚後も引き続き本件マンションに居住し、これの所有権を取得したい場合は、どういう計算になるでしょう。はっきりしていることは、このマンションを売却処分したとしたら、AもBもそれぞれ100万円を得るという結論です。正確に言えば、Aは、売却代金からこのときのローン残高と100万円を引いた金額を受け取れます。Bの協力なく、一人で本件マンションを維持してきたからです。

 

Bがマンションの所有権を取得するということは、当然ローンは完済されなければなりません。理論上・観念上Bは、マンションに対して100万円の「権利」しか有していないからです。

 

そうするとBは、A名義の基準時のローン残金3800万円の半額と、Aが権利を有する100万円をAに渡さなければなりません。そして金融機関は、ローンを完済しないと名義変更は認めませんから、少なくとも離婚による財産分与時点でのローン残を支払う必要があります。

 

自らの権利が100万円なのですから、4000万円の財産を手に入れるには、計算上当然と言えます。繰り返しますがBの権利は、100万円ですから。

 

実質的にみても、基準時のローン残が3800万円だったところ、別居後Aの努力のみでローン残が1500万円になったのですから。要するに、Bが協力してローンが減ったのではないのですから、4000万円の物件を手にするBが、別居後のAの繰り上げ返済分の利益をそのまま受けるのは、公平ではありません。

 

この理屈を相談した弁護士から説明されたBは、こう言いました。Aは、別居後高給取りになって貯金もある。Aは、相当多額の退職金を得られるはず。それらを考慮して欲しいと。

 

結論から申しますと、一切考慮されません。基準時以降に取得・形成された財産だからです。分与の対象とはなりません。Aは言うでしょう。別居してよい仕事ができるようになった。一緒に暮らしていたら、今の自分はないと。

 

納得できないBは、なおも尋ねました。ならば、別居時に勤務していたAの会社の退職金は、分与の対象となるはずだと。先に示した200万円のことでしょう。しかし、これはカウントされません。

 

別居時、つまり基準時には既に退職し、退職金200万円は現金となったからです。そしてこの現金200万円は、ほぼ別居のころまでに、Aが全て使ってしまって存在しないからです。

 

基準時に存在しない財産は、分与の対象とはなりません。

 

なお今年4月より、18歳で成人になります。

 

この事例では、Aは、もともとこのマンションは要らないのでしょうから、これを売却してBに対し、100万円を渡すことを希望すると思われます。

 

この時点での残ローンは1500万円ですから、4000万円で売却できたとすると、Aは、100万円を渡しても2400万円を取得できます。

 

これは、別居後ひとり努力して繰り上げ返済してまで支払ったことの「ご褒美」と考えるかもしれません。

 

今回の結論は、はっきりしています。Bの勘違い、あるいは誤りは、早く離婚しなかったことです。

 

昔歌にもありました。「いつまで待っても来ぬ人は、死んだ人と同じこと。」

そういうパートナーを心底あなたは愛せますか。本当に愛していたと言えますか。

 

理不尽を受けたら、ご自身の幸せを考えるべきです。あんな奴(私を捨てた、ないがしろにした奴)に未練はない。

 

私は、これから幸せになってみせる。あんな奴が、私と別れたことで後悔しても、そんなこと知ったことではない。

 こういう考えに至って欲しいものです。そして、こういう境地に達した方は、実は、パートナーに対するリスペクトのお気持ちを持っておられます。

 

そういう方は、とても素敵だと感じます。