民法の大家の遺言

2015年2月25日
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 私が法学部の学生だったころ、民法の大家は我妻栄先生で、『民法講義』と言う分厚い本を民法総則から債権各論まで、何分冊も購入しました。

その後数年続く司法試験の勉強でも、この民法講義は、繰り返し基本書として使うことになりました。

私たち以上の年代の法曹で、刑法の団藤重光先生、民法の我妻栄先生の名を知らぬ者はいないでしょう。
この我妻栄先生の『民法講義』は、債権各論すなわち財産法のところで終わっております。言うまでもなく民法は、市民と市民の間の決め事を定めた法律で、財産と身分関係、すなわち親族相続の分野に分かれます。


特に戦前作られた民法は、現憲法になって戦前の家族制度が崩壊し、全面的に改正されたのです。


我妻先生を承継された星野英一先生によると、財産法分野はもう様々な議論がなされ、幾つも判例があるが、親族相続分野は、研究も判例もこれからだと我妻先生は、親族相続分野の研究と発表、そして新書籍が書店に並ぶ日を待ち望んでおられた由です。

我妻栄先生によるこの分野の『民法講義』は、ついに私たちが見る機会はもたらされなかったのです。

我妻先生らの予言とおり、親族相続分野は、このところ次々に新判例が出ています。一昨年嫡出子と非嫡出子の法定相続分に差を設ける民法の規定は、憲法14条の法の下の平等の平等に反するので無効とする最高裁判例が出されたことは記憶に新しいです。


その後も、いわゆる性同一性障害の父、すなわち出生時は女性だった親が、人工授精等により授かった子との父子関係を認めた判例、いったん嫡出子として届け出された子は、たとえDNA鑑定等により、生物学的には実の親とされた男性と一緒に――母とともに――暮らして居たとしても、法律上の父が嫡出を否認しない限り、実の親との父子関係は認められない等幾つも新判例が最高裁より出されております。

そして近いところでは、婚姻した夫婦は、夫または妻いずれかの性を称しなければならないとする規定、また、妻にのみ離婚後6ヶ月間は婚姻(再婚)を禁止する規定が憲法に違反するかどうかが最高裁により判断されます。

このとおり親族相続分野は、私たち法曹の間でも解釈が分かれ、また、全く予想出来なかった事案に遭遇する可能性がある
ある意味では学び甲斐あり、対応が期待される神秘的分野であります。確かにDNA鑑定など、民法制定時には考えられなかったことでしょう。

特にいわゆる300日問題は、巷間しばしば聞かれますね。婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定されると規定する民法772条は、その2項で、『婚姻解消から300日以内に出生した子は前夫の子と推定する』と規定されていて、これがために明らかに前夫の子ではない子、現在のパートナーとの子であることが明らかであっても、前夫の戸籍に入ってしまって子の出生届が出来ない、それには前夫の『協力』を得る必要があると言う問題がこれです。

因みに、最近あるアスリートが、交際中の女性との間に新たな命を授かったと自ら公表しましたね。

共に離婚歴あるこの方々、女性が前夫との離婚を発表したのが昨年9月だったことから、下衆な世界では、余計な心配をしていると報じられておりました。