トランプ大統領に対し、日本政府は、アメリカがTPPを離脱しないよう説得するらしいです。

2016年11月14日
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衆議院で、環太平洋パートナーシップ協定、いわゆるTPP発効に向けた承認決議が、与党と維新の党の賛成で可決されました。維新の党は、民進党が決議の前に退席したことを非難していますが、そのことは取り上げません。折しもアメリカ合衆国の次期大統領にドナルドトランプ氏が就任することが決まったばかりです。貿易保護主義者のトランプ氏は、当選が決まった直後に、TPPには絶対反対、離脱を表明しました。私は、これまで聞知するトランプ氏の主張、言動を支持するものではありません。しかし、日本がTPPを急ぐことは賛成できません。トランプ氏の主張からも、論拠を拾ってみたいと思います。

第二次世界大戦後の世界の経済は、自由貿易を主導したアメリカ中心に動きました。自由貿易は、関税の撤廃・削減により輸出が拡大する、輸出産業の拡大は国内の雇用を促進し、景気を好転させる、輸入国の消費者は家電や農作物まで安く買える、経済のグローバル化は、世界規模での成長戦略でもあります。日本の高度経済成長も、その潮流に乗った側面はあるのです。

今年の9月、主要20か国・地域(G20)首脳会議は、保護主義に批判的な共同声明を出しました。これは、これまで自由貿易で利益を得ていたアメリカを牽制する狙いもあったと思います。オバマ大統領は、TPPにより、アジア太平洋地域への輸出を拡大することが、アメリカの成長に繋がるとの考えですが、アメリカ共和党は、基本的にTPPには反対であり、議会の関係、オバマ政権がいわゆるレームダック状態にあって、これまで儲けていた?アメリカが逃げるのではの観測はありました。ヒラリークリントン氏も、TPPには、慎重な姿勢を見せていました。そしてトランプ氏は……。

しかしTPPは、まさに成長戦略のひとつ、経済のグローバル化を進めるものであります。そこには、国民の年齢・産業構造等に合致するものなのか、よく見極める必要があります。自由化が進んで、『安かろう悪かろう』が蔓延し、競争力に押し潰された国内の産業は廃れるでしょう。そもそも資源に乏しく、国の自給率が低い場合には、国内の市場が荒らされた後、もうこの国・地域には用はないとして、自由競争の相手にされなくなるると、草刈り場にされて廃れていくだけです。その国内には、行き場を失った老人だらけとなる様子が見えます。

アメリカ大統領選挙戦では、特に初期のころ、トランプ氏の過激な発言が話題の中心でした。あれはもしかすると、注目を浴びるための戦術だったのではの見方もありました。やがてどのような人たちが、トランプ氏を支持するのかに関心が移り、なんとなくわかってきたことがあります。移民に仕事を取られた云々がよく聞かれました。アメリカの歴史を振り返れば、様々な人種民族により構成されることで、アメリカがアメリカたる所以がある、合衆国として巨大な力を持ち続けたことが認められます。これは移民の問題ではなく、経済のグローバル化が齎した負の遺産、日本的に言えば、格差問題と言うべきです。

トランプ氏は、鉄鋼業が廃れたアメリカ中西部等で多くの支持を受けました。トランプ氏は、アメリカ経済は日本と中国にやられっ放し、日本からの輸出がアメリカの製造業を弱らせたなんて言っています。同じことは、TPPにより日本にも齎されます。多国籍企業が関税撤廃等により国内になだれ込み、各規制を取っ払って利益追求する仕組みがTPPであり、まさに経済主権を売り渡すようなものだと私は思っています。トランプ氏が指摘する職を失った人たちは、実は経済のグローバル化に飲み込まれ、取り残された人々であります。これらは、移民のために仕事を失ったのではなく、最低限度の生活を保証されることなく、過度な自由経済により追い出されたと見るべきです。これを移民のせいだとして支持を取り付けるのは、ナチスのユダヤ人排撃と似ています。確かにトランプ氏は、排外主義者のようです。でも、それは選挙戦術であって、本当は、新自由主義の行き過ぎに、警鐘を鳴らしたと見れないでしょうか。

新自由主義の進むところは格差社会です。福祉国家の概念と相いれません。それは小泉改革以来、日本の医療・福祉・教育、特にこれに要する予算がどうなったかを見ればわかります。徹底した経済の自由化で喜んでいるのは金持ちです。ア◯ノミクスは、デフレ脱却政策として、『3本の矢』があると言われます。金融緩和や公共投資は、政権がやれ!と言えば日銀は逆らえませんから簡単なことで、誰でも出来ます。実際円安と株価が上がりました。それは投資家の期待値があるからです。しかし、円安の間に第3の矢を放たなければ、金持ちや大企業だって持ちません。いつも言うように、少子高齢化社会に『成長戦略』は合わないのです。

トランプ氏の思惑と私たちのTPP反対は、根は同じではないようです。ただトランプ氏が挙げた経済格差を継続する政治を行うべきかはとても大切な視点です。安倍晋三内閣総理大臣は、TPPを成長戦略の切り札と使いたいのでしょう。企業がいちばん活躍できる国つくりをすると言っており、国内の大企業が空前の利益を得た、つまり格差は広がった上に、今度は多国籍企業が活躍する場として、日本を提供するのですから。

しかし、トランプ氏は、強いアメリカ、昔のアメリカにしようと考えています。それは安倍晋三氏の新自由主義とは違い、極端な保護主義、そして排外思想です。トランプ大統領となれば、日本との貿易を閉ざす方向に進むので、円高になるでしょう。TPPが発効した場合、輸出を主力とする企業は儲かるかもしれませんが、海外から入った企業的農業により、戦後日本が世界に誇った家庭農業は維持困難になって、国内では食料自給率が下がるでしょ。

また、食品安全基準は緩和されますから、食の安全は疎かになります。健康保険制度が異なる海外の製薬大企業の登場により、安価なジェネリックの普及は遅れ、医療の現場にも影響がでます。そんな危機にあったところ、思わぬところから『救世主』が出てきたもんです。もちろんトランプ氏は、私が挙げたところを問題視してTPP反対を言うのではありません。結果オーライです。

トランプ氏を支持したとされる人たちは、リベラルとされたアメリカ民主党政権こそ、彼らの生活を苦しくさせた元凶と考えたのかもしれません。その象徴が、ヒラリークリントンです。新自由主義により生じた格差の是正こそ、政治家がやるべきことであり、国を閉ざす、他国他民族を排除するのは違うのですが。ともあれトランプ大統領が登場することになり、オバマ大統領は、任期中のTPP発効に向けた承認手続きを行うことは断念したと報道されています。

アメリカ、日本のいずれかでも調印しなければ、TPPは発効しません。アメリカが承認する見込みがらないことが明らかとなった現時点で、なんで日本の国会は、承認決議を急ぐんでしょう。強行採決で世界に恥を晒したのみならず、発効見込みがない協定のために国会を開いて決議するなんて、間抜けそのものですね。でも仕方ないですね。与党議員は、総裁の言うことは聞かなければなりませんから。そのご機嫌をとることが生きる道であると『一強』の中から学んだ処世術ですから。