小選挙区制が生んだマズイヒラメについて。

2016年11月18日
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現在『一強』無敵で『永遠の与党』自民党。報道されるその支持率、安倍政権への支持率の高さは凄いですね。

以前は、内閣は支持しないが、自民党は支持するとの層がありました。例えば『加藤の乱』のときは、国民の4分の3が支持していない内閣が、自民党だと言う理由だけで自民党議員は信任して良いのかが問われました。でも、結局自民党は支持を失なっていないとして、『反乱』は、鎮圧されました。安倍政権になって、自民党も合わせたように高い支持を得ています。なぜでしょうか?

日本国憲法が施行された後、いわゆる保守合同がなって以来、2回自由民主党は、政権を失いました。最初は、『政治改革』を旗印に、日本新党ブームで沸いた細川護煕連立内閣です。

そしてその後は、いわゆる『政権交代』選挙で大きく議席を獲得した旧民主党による国民新党と社民党との連立政権です。でもその末期と残した遺産?と言ったら小選挙区制と消費増税。とんでもない遺産です。と言うか、その当時から、まんまと自民党にしてやられたと思いました。

天下の悪税消費税については、これまでこの『ひとりごと』で繰り返しその不当性非合理性とその『意図』等について言いましたからもう書きません。小選挙区制の弊害と言うか、これにより何が起きたか、何がもたらされたかについても、ときに応じて言いました。今日は、チョット違った側面からお話したいと思います。折しもアメリカ合衆国次期大統領選挙では、得票総数が勝るヒラリークリントン候補ではなく、各地区に割り当てられた選挙人数を多く獲得したドナルドトランプ氏が当選しましたから、なんとなく死票が多くなる選挙の恐ろしさに気づいた向きもあるかと思います。

小選挙区制の最大の弊害は、死票が多くなることです。つまり『2番』以下の候補者に投じた民意は反映されないことです。保守党と労働党、民主党と共和党のような歴史的にも二大政党制が確立していない国では、馴染まない制度と言わなければなりません。

そして日本では、今この国特有な問題が起きていると感じます。それは、『一強独裁』とヒラメ議員の誕生です。

中選挙区制と言われた旧衆議院議員選挙、同じ選挙区に複数の当選者が出る仕組みです。例えば東京都には、11の選挙区がありました。私が住む旧東京11区は、当選者が5人おりました。定数5の選挙区だと、自民党が2議席くらいで、あとの議席をその他の野党が獲得することが多いです。複数の当選者がいる選挙区では、全て自民党はなかったと思います。中選挙区制の良いところは、得票率にほぼ匹敵する議席が各政党に分配されることです。死票が少ないことは、民意が数字として現れます。この制度のもと、力を発揮してきたのは田中角栄氏率いる旧田中派でした。

中選挙区制は、同じ選挙区内で同じ政党から複数の当選者が出ますので、政党内での争いにもなり得ます。そこで力を結束するため派閥ができます。当選するためには派閥のボスより資金なりを提供され、また、党内での役職獲得にも、派閥の力が左右され、政党の総裁・代表も、各派閥の意向を無視できないところがありました。

中選挙区制は、派閥を促進し、派閥が政治を行う、同じ政党内での争いであるから、候補者は政党を当てにしてお金を用意できない、従って派閥は部下を養うためにお金を集めなければならない、その象徴が、『田中金権政治』と称されるものでした。今でも『政治と金』の問題が露わになりますが、中選挙区制当時のそれとは、質的に異なるのです。

『政治改革選挙』は、派閥政治、金権腐敗政治を無くす!として自民党の分裂、日本新党ブームにより、保守合同以来は初めて、自民党は政権を失いました。そして細川内閣がやったのは、金がかからない選挙として、小選挙区制だったのです。細川護煕氏やこのとき多く誕生した日本新党出身の議員は、米英のような政策本位の二大政党制を目指す意図もあったとされます。でも、実際たくさんの政党が存在する日本では、二大政党制への移行は難しい、結局『一強とその他』になると思われ、その場合、選挙制度を小選挙区制にしたらとんでもないことになると思っていました。悪いのは金権腐敗政治であり、中選挙区制ではありません。当時30代半ばの私は、小選挙区制になった数年先の恐怖を思ったのでした。

さて、旧東京11区、現在複数の選挙区に分かれましたが、全て議席を持つのは自民党です。自民党は、金権腐敗政治をやっていてダメだとされながら、結果として国民から多くの支持を受けたかたちになっています。消費税もそうですね。

それまで選挙が怖くて問題の先送りをしていたところ、名宰相(迷宰相?)野田佳彦氏により、『もう税金は、選挙の争点にしない』と約束していわゆる三党合意により、消費増税がなされました。自民党安倍政権は、消費増税をしたのは民主党、増税の可否について国民に聞くなんて言って、2回も選挙を行い、かつ、2度の機会とされた増税を見送りました。野党の増税できないのはアベノミクスの失敗だとの指摘は、全然国民受けしませんね。

小選挙区制になると、とにかく選挙区で公認されなければなりません。派閥はほとんど機能せず、政党の資金も総裁から託された党幹事長が握ります。中選挙区制で勝ち残るためには、政党内でも勝たなければなりません。自ずから党内は緊張し、派閥内でも勉強します。

ところが今はどうでしょう。党のトップの意向がすべてです。総裁に逆らったら公認されない、自ずから総裁の提灯持ち、腰巾着と成り果てるのです。2012年問題と言われる議員の資質の低下は、端的にこれを物語っています。

細川内閣そして旧新生党羽田孜氏の内閣後、おそらく一生の不覚と思われているであろう小沢一郎氏の読み違いにより、うまいことやられて自民党が政権を取り戻し、二大政党制を目指す建前で、新進党が結成されたもののすぐに解党となり、今日に至ります。本当に、政治改革だの二大政党制だの余計なことをしてくれたと思います。確かに政党である以上、政権を目指すのは当たり前ですが、それは建前であり、誠に失礼ながら、このところ唯一?調子の良い野党日本共産党の政権を希望する国民ってたくさんいんのですかね。

自民党の批判勢力であり、勝手はさせない、緊張感を持って政治を行い、国民隅々まで、小さな弱い意見にも真摯に耳を傾けなさいとなバランスを期待されているのではないですか。

最近田中角栄氏を見直そうとの声があちらこちらから上がっています。日本列島改造論と言う地方にも分配の政治を行いました。確かに派閥を結束するためカネを集めましたが、田中政治により、地方にも、弱者と言われる方にもお金は回りました。元日本共産党書記局長不破哲三氏は、こう言いました。『田中さんのころは緊張感もあったし、真剣な議論ができた。日本列島改造論と言い、決して田中列島改造論とは言わなかった。自分の政策に自分の名をつけるなんて、全く謙虚さがない』。

小選挙区制の罪は重いです。死票が多いのは制度上の問題点です。しかし現在の日本では、『一強』ゆえに、その『一強』の中でしか生きていけなくなるがゆえに、そのトップになんでも従うしかなくなっています。仮に、そのトップがそんなことは考えていないとしても、部下は、きっとトップはそう考えているに違いないと思い込んだら突っ走りますね。先TPP承認を審議する先の衆議院特別委員会、安倍晋三内閣総理大臣は、『いまだかつて自民党は、強行採決をしようと考えたことは一度もない』と述べました。


しかるに、総裁の真意?を忖度した担当の農林水産大臣、『強行採決するかどうのか判断は、自民党の国会対策委員長がする』と発言しました。トップが、『考えていない』ことを、勝手に『考えてしまった』のですね。
日本中、まずいヒラメだらけとなっていきますね。