事例 家庭 家族の問題一覧

私には、母親の違う弟がいます。この弟は、あまり素行のよい方ではなく、友人とトラブルを起こしたり、無免許で車を運転して交通事故を起こし、警察から連絡がくることがしょっちゅうで、父が存命中は、なんとか弟を更生させようとしましたが、父が亡くなった直後に行方が分からなくなり、以来15年以上、連絡はもちろんのこと、一度も会ってはおりません。 しかし最近、弟の会社の上司だという男から突然連絡があり、「おたくの弟がうちの会社の金を持ち逃げした。これは立派な犯罪だから警察に届ける。しかし、持ち逃げされたお金と同額をお兄さんが支払ってくれるなら警察には届けない」と言います。私は、弟とはもう15年以上も会っていないこと、連絡もないし、居場所も知らない、私に支払義務はないということを相手に伝えると、「とにかく払え」の一点張りです。 相手は、「あなたの自宅の住所・電話番号なども知っているから、これから金を取りに行く。用意しておけ」と言います。そして、この日を境に毎日電話を掛けてきては、「早く払え、これから取りに行く」と脅してきます。 警察にも相談しましたが相手にしてもらえず、私も、私の家族も不安な毎日を過ごしています。 このまま不安な日々を過ごすよりは、相手にお金を支払ってしまった方が良いのでしょうか。また、弟の関係で、再び同じようなことが起こらないように、何か法的な手続を執ることは可能なのでしょうか。

(2011/4/12)

支払義務がない人間に請求することこそ、立派な犯罪です。本件事例で、警察が被害届を受けつけないとは、職務放棄も甚だしいと言わなければなりません。

 それでは、整理して考えてみましょう。
仮に『上司』を名乗る男の説明が事実であったとしても、ご質問者に支払義務がないこと、つまり、持ち逃げされたという金銭の弁済をする義務がないことは明らかです。

 民法は、私的自治の原則があります。個人の自由な行動・約束が保障される代わりに、その責任も、個人が負うという考えです。
15年以上も会っていない人間の行動について、監督を求めることが無理な話です。

 それよりも本件で、『上司』が、ご質問者と弟との親族関係を調べ、住所・電話番号を知っているということが異常です。振込詐欺ではありませんが、まず、この上司の話自体信用してはなりません。

 上司の話が虚偽であれば、恐喝(未遂)罪が成立します。仮に真実であっても、義務なき人間を脅して、その意を実現しようとしているのですから、強要(未遂)罪が成立します。

 警察が、この上司の対応の異常性に気付かない(ふりをしている)のであれば、弁護士と一緒に警察署,特に都道府県警察本部か、各本署の生活安全課に行きましょう。

 弁護士が代理人となり、また、同行して申告する刑事告訴や被害届の提出は、これを受理するかどうかは別として、警察は、無視することはありません。少なくとも、上司に対して、忠告の電話くらい入れるはずです。

 さて、問題の弟さんですが、これを機会に、行方を探す手続を執っておくべきでしょう。ご質問者の生活圏に戻すことを希望されなくても、警察署に捜索願を提出することです。
「人間ひとりの行方がわからない状態になっている」事実が公認されること自体で、一定の法律関係が『解決』することがあります。

 たとえば、住居所を離れて容易に帰来する見込みがなく、生死不明期間が7年経過しますと、失踪宣告の申立てをすることが可能です。失踪宣告制度と、その効果については、『相続・家庭の問題』事例集のQ5をご参照ください。
これら法的手続を執る場合、捜索願いが出ているかは、重要です。

名の変更については、戸籍法107条の2に規定があり、正当な事由があって、家庭裁判所の許可を得ることが要件です。

 未成年者でも、変更の許可申立てをすることはできますが、15歳未満の場合は、法定代理人(親など)が申立てすることになります。

 ここで問題は、『正当な事由』の判断基準です。帰化して日本風にするケースはともかく、一般的には、

  • 営業上の目的から、襲名する必要があること
  • 同姓同名の者があって、社会生活上、甚だしい支障のあること
  • 神官・僧侶となり、又はこれを辞める関係で、改名が必要なこと
  • 珍奇な名、外国人と紛らわしい名
  • 甚だしく難解・難読の文字を用いた名で、社会生活上、甚だしい支障があること
  • 社会生活上、長期間通称名を使用していて、社会的には、その名が通用していること

 などがその例と言われております。

 要は、ケースバイケースで、裁判所が判断することになりますが、姓名判断,迷信などに基づくとされるとき、否定的に扱われます。

 例えば「死」,「罰」等の名、「大場亀(おおばかめ)」などは、名の変更が認められるケースと考えられます。

 家庭裁判所の許可は、審判という形式でなされ、名の変更が認められた審判書謄本を本籍地役場に提出することにより、戸籍も変わります。

ご主人の相続人が、奥様とご長男であることから生じる問題です。

 ご主人が遺言をされていなければ、法定相続人(※1)はご両名で、相続分は各2分の1です。もっとも、福祉の観点から、一定の財産については、法定相続とは異なる扱いがなされるものがあります。

 例えば、退職金に加えた死亡一時金、遺族年金などは、法規や労働協約(退職金規程)によって、配偶者や故人の収入によって、生計を維持されていた人が受給します。不動産についても、いわゆる住宅ローンは、団体保険に加入していれば、借入名義人の死亡の事実により、ローンは完済扱いとなるでしょう。

 では、それ以外の財産の処理はどうなるでしょうか。

 民法は、不在者の財産管理の制度を設けております。生活の本拠地を去った者が、財産管理人を置かなかった場合には、利害関係人は、家庭裁判所に対し、不在者財産管理人の選任を求めることができます。

 『不在者』とは、住居地を去った後、容易に帰来する見込みがない者を言い、選任を受けた財産管理人が、家庭裁判所の監督を受けながら、他の相続人、すなわち、ご質問者と相続財産について協議し、手続を執るのです。

 そして民法は、『失踪宣告』という制度を設けております。これは、不在者の生死が7年間明らかではないときに、利害関係人の申請によって、家庭裁判所が宣告する制度で、不在者のかつての生活圏の権利義務関係を確定させるものです。

 失踪宣告がなされますと、不在者は、失踪したとされる日から7年経過した日に、死亡したものとみなされます。この場合、裁判所の審判謄本を本籍地役場に提出する必要があります。

 もちろん、後日、生存が判明すれば、失踪宣告は取消されますし、この間、関係者が善意でした行為の効力には、影響はありません。

 ※1 法定相続人
被相続人(=相続される人)が亡くなったときに、相続する権利がある人のこと。

  • 配偶者(ただし、内縁の妻・夫、愛人には相続権なし)
  • 子(養子、内縁の妻や愛人の子供など)
  • 直系尊属(父母・祖父母)
  • 兄弟姉妹

 などの人たちが、法定相続人になることができます。