終戦から71年経過した現在、8月15日の意味を、後世まで引き続ぐ重要性が言われます。もちろんそのとおりです。ポツダム宣言を詳らかに読んでいない、学生時代を含めて日本国憲法を学んだことがないと仰る方が、『戦後レジームからの脱却』を訴え、その人気は留まることを知りません。
日本人は『戦後の出発点』を忘れたのでしょうか? 『終戦』と言いましたが、その意味は深いものがあります。日本は明治維新を成し遂げ、最後の内戦と言われる西南戦争が終結して70年、日本国、当時の大日本帝国は、戦争ばかりしていました。『戦争ばかり』と言うのは、私は、戦争そのものが悪であり、現に引き起こされた戦争を、自衛・侵略の議論をすることは無意味と考えるからです。戦争で苦しみ、被害を受けるのは、戦争をしたい、しようと決意した人ではないのです。
その意味で、あえて『敗戦』と言う必要もないと思っています。1945年昭和20年8月15日は、日本が戦争を止めた日です。そしてその反省から、人間の尊厳を根本規範とする日本国憲法が生まれ、すべて人は個人として尊重され、持って生まれた権利が存在することが確認されました。それを実現するための国の運営は、国民が行う国民主権のもと、選挙により政府に託され、人間の尊厳を破壊する最たるものである戦争は、日本国民は永久に放棄したのです。
8月15日は、単に戦争を止めた日以上に、日本人にとって重要な日であります。 今年の8月15日に解散した安保法制反対を訴えて活動していた学生中心の若者の団体SEALDsのメンバーのひとりは、毎年12月8日に、祖父から電話をもらったと言っていました。さて、今年ほど12月8日が、日本人に知れ渡った年はないでしょう。
1941年昭和16年12月8日未明、アメリカ合衆国ハワイ州オアフ島の真珠湾にあったアメリカ海軍の太平洋艦隊とその基地に対して、大日本帝国海軍が、戦闘機・潜航艇により奇襲攻撃を行いました。当時のアメリカは、モンロー主義が浸透していて、当時ヨーロッパで行われていたナチスドイツを中心とする戦争にも、日中間で戦火拡大していた中国大陸での戦争にも、せいぜい武器輸出くらいの『支援』で、戦闘には関与しない姿勢をとっていたところ、いわゆる日米交渉の決裂の通告前に、日本側が、アメリカに対して攻撃を仕掛けたことで、戦火はアジア太平洋地域に広がりました。アメリカ合衆国ルーズベルト大統領は、日本からの宣戦布告と表明、アメリカ国内では、卑劣な騙し討ちと世論が盛り上がり、時を同じくしてナチスドイツによるアメリカへの宣戦布告がなされ、ここに第二次世界大戦、太平洋戦争が始まったのです。
この大戦の結果、惨状は、言うまでもありません。アメリカに戦争を仕掛けた、そしてその緒戦が真珠湾攻撃であったことは、日本人は忘れてはならないと思います。戦中を生きた方が、後世の人間に対して12月8日を肝に命じて生きろ!と教えることは凄い重みを感じます。戦争を終えると言うことは、戦争を始めた日があったからです。
人間の尊厳を損なう忌むべきもの、破滅破壊を齎す最低最悪なもの、それを先人らは経験してきたのです。二度と繰り返してはならないとの叫びです。 さて、そのハワイオアフ島の真珠湾、日本国内閣総理大臣安倍晋三氏が今月訪問されるそうです。歴代総理大臣として初のことです。これは先月ペルーのリマで開催されたアジア太平洋経済協力機構で顔を合わした先、オバマ大統領との立ち話で決まったかに伝わっています。なぜ安倍晋三内閣総理大臣が真珠湾に?はいろいろ憶測を読んでいます。
安倍首相の思惑はともかく、日本国民がそれぞれに受け取ればよいのではと思います。 リオデジャネイロオリンピックの閉会式、土管からスーパーマリオに扮したお方が登場したその日、真珠湾にある記念館で、献花した方がおられます。このお方、懐が深いことで知られています。『アベ政治を許さない!』とカードを掲げた若者と一緒に写真に収まり、いわゆる安全保障法が成立した直後に、ご主人と一緒に鑑賞したコンサート、主役のアーティストから、これを批判するメッセージが発せられたときも、音楽を楽しまれたと伺っています。
一説によると、このお方が説得した、あるいは安倍晋三内閣総理大臣の心を動かした、見習ったとの声があります。来年1月任期を終えるオバマ大統領への餞けとの説もあります。広島へ訪問された返礼だとも。また、先月オバマ大統領の所属する政党から立候補した元国務長官を選挙で破って次期アメリカ合衆国大統領に就任するトランプ氏の私邸を訪問してまったフライング?に対するお詫びだとも。さらにまたしても『ポチ』との辛辣な意見も上がっています。
私にとってはどーでもよいです。 肝心なことは、アメリカ国民に対しても、戦争を仕掛けて多くの人命を落とすところとなった事実を厳粛に受け止めて反省の意を表すこと、また日本国民に対しても、日本を破滅に至らしめるきっかけとなり、シンボルともなりうる真珠湾、これを忘れてはならないと警鐘を促すことであります。真珠湾を訪問したことを持って一区切りがついたなどと言って、決して『戦後レジーム』からの脱却を求めたり、『戦前』を肯定することは許されません。あの場に立っていただいて、明治維新以来日本は『大日本』なんて名を冠し、優れた民族であるかに勘違いして、特にアジア諸国に対して、甚大な被害を齎した負の歴史を思い至って、恒久平和を祈念する原点と感じていただきたい。まして日米同盟の揺るぎなき強化……なんて的外れであります。
昔『大日本帝国』なんて言っていましたが、近ごろ『世界一』を、そのご発言の随所に散らべる方がおられます。世界一とは、なんか世界征服とか侵略を思い出します。今回真珠湾を訪問する安倍晋三内閣総理大臣、この次は、ぜひ南京あたりをお訪ねになって、アジア諸国に対しても、日本の過去の過ちを率直に認めてもう安心、日本は『戦前』には戻らない、あの時代やそれを率いた人たちを賞賛することは絶対にない、『戦後』を日本国憲法とともに忠実に歩んでいくことを見せていただきたい。
そうでないと、巷では『プーチン解散』が得策ではないと見た安倍晋三内閣総理大臣が、『真珠湾解散』を狙っているのではとの憶測を否定することは難しいでしょう。 沖縄の返還を受けた後の解散総選挙でもしかり、時の政府が、アメリカ合衆国との間をうまくやっていると国民に映った時、政権与党は議席を伸ばしているからです。安倍晋三内閣総理大臣、Pearl Harborで、長州人からもたらされた明治維新、そしてその後70年続いた負の部分に思い至って、戦前に戻らぬ不戦の決意を確認してきてください。