事例 相続・遺言の問題一覧
相続が発生すると遺産分けをする前に、税金をどうする、申告をしなければと考えられる方が少なくないと思います。
相続税が発生しないケースは、そうではないのかもしれませんが、プラスの相続財産が存在する場合は、相続・遺産分割は、必ず履践しなければならないとお考えください。
平成28年に裁判例が変わり、預貯金については、「遺産共有」という実務になったと申しました。
公正証書遺言で、預貯金口座が明確に特定され、ただひとりの相続人が、全遺産を相続する内容にでもなっていれば、金融機関は遺言どおり対応するかもしれません。
しかし、全相続人の同意・協議により預貯金の分配が決まらない限り、金融機関は、相続財産である預貯金の解約・引出しには応じません。
ところが不動産については、各相続人が法定相続分に従った相続を原因とする持分移転登記が可能です。いわゆる共有登記となり、これの解消は遺産分割ではなく、共有物分割請求手続となります。
前回までに、これはご説明いたしました。
預貯金口座が相続発生により凍結されてしまったら、もし多額の預貯金が存在したならば、共同相続人としても「何とかしたい」、つまり遺産分割協議を成立させたいと考えるかもしれません。
しかし、不動産についてはこれまでご説明したとおり、決して持分に対応した共有登記をすべきではありません。特に、相続人名義のままで困らないケースも少なくないと思われます。
昨今しばしば報道される「空家問題」もあります。
相続発生により、相続財産である土地建物を使用する人がいなくなり、その不動産が相続人にとって遠方にあって利用する可能性がない、あるいは資産性がなく、維持費がかかってしまうケースなどでは、むしろ「そのまま」にしておく、面倒を避けたいのが相続人の大半の見解ではないでしょか。
こうして被相続人名義、つまり亡くなった人の登記名義のまま残された不動産が、全国に存在しているのです。
令和3年4月21日参議院で、民法及び不動産登記法の改定が議決され、法律として成立しました。
これは、空家問題等として所有者がわからない不動産の放置を、発生させないことを目的としたもので、不動産の相続を知った後、3年以内に相続を原因とする所有権移転登記を行うことや、引っ越し等で住所が変わった後、2年以内の表示変更登記を行うことなどを義務付けし、違反者には過料を科す内容となっています。
過料を科せられたらいやですから、不動産の相続登記は進むと思います。
しかし、すぐに遺産分割が成立するわけではありませんし、かと言って、とりあえず持分に応じた共有登記をしてしまうと、繰り返し申し上げるとおり、もはや「遺産」ではなくなり、これの分割は、地方裁判所で共有物分割請求訴訟で決めることになっています。
また遺産分割協議が整わない場合は、10年経過したら決定相続によると決められたようです。
この法改正は、あくまで空家問題等の観点から導かれたものですが、「問題の先送りはしてはならない。」と申し上げたところをさらに加速させるものです。
相続が発生したら、相続税がどうのを考える前に、まずは弁護士にご相談ください。「遺産分割」手続を、必ず進めなければならないとお考えいただく必要があるからです。
相続の対象となるのは、形式的には母名義の土地ですが、『遺産分割』は、『遺産の範囲』について当事者間で合意が成立すれば、形式的な名義に拘束されるものではありません。実際当事者が合意して協議,そして調停を進めることは多く、裁判所も中間調停といって、調停調書上遺産の範囲を当事者が確定 したことを証する調書を残しておくことがあります。
本件で、もし建物が相続財産ではないとすると、賃貸人の地位は共同相続され、賃料は共同して取得し、税金や住宅ローンは、相談者が支払うことになります。そのいっぽうで、相談者は、建物所有者として、相続財産たる土地に対して、一定の使用権限を有しなければならず、これは、建付地として土地の権利が制約を受けることを意味します。
つまり、法律関係が錯綜し、相続後も将来にわたって面倒を残すことになってしまう。このような事態は避けるべきでしょう。
そうすると、相談者が希望する土地・建物は、相続財産と扱うほうがわかりやすいです。その場合、住宅ローンも実質的には、相続債務とみなければなりません。また、過去相談者が負担した税金や修繕費の精算も必要でしょう。
相談者と弟の希望によるところですが、第三者に賃貸していること,その賃料収入をもって相談者名義の住宅ローンを支払っていること,そして何よりも、本件建物は相談者の名義なのですから、本件土地・本件建物を相談者が相続し、弟は、他の相続財産,たとえば預貯金を相続するような落ち着きが求められるでしょう。
もちろん預貯金等換価できる財産の額によっては、そもそも本件土地・本件建物以外に相続すべき財産がない場合は、『代償金』を弟に対して支払うことになります。
もし、代償金の引当てとなる金額が都合できないときは、本件土地・本件建物を一括して売却して、代金を受けることにならざるをえないと思われます。ただし、売却処分と言っても、現に賃借人がおり、現在のローン残額を考えると、事実上困難であったり、「もったいない」場合もあるでしょう。
結局遺産分割の問題は、法律論,理屈や机上の評価額だけを言い立て、並び立てても、解決にはならないことが多いことを理解されなければなりません。
相続問題では、えてして相手方が得をしているとか、もっともらえるとか、不公平との声が聞かれます。しかし、絵に描いた餅となりやすいのも、この遺産分割の類型です。現実的判断が求められます。そこは、経験を積んだ弁護士が対処する場でもあるのです。
相続人は、3人で、法定相続分は均等ですから、お母様に相続が発生した当時の名義を前提にすると、500万円の不動産と、200万円の預金があったので、これを均等に分けるには、どうすればよいか、という問題と思われがちです。これを、『遺産分割』といいます。
もちろん当事者3人で、いかように話し合ってもよく、合意ができれば、それで構いません。これに従って、預金の引出しや、不動産の名義移転(変更)の登記手続に進みます。
しかし、「相続財産とは何か」という問題があるのです。すなわち、相続人の中に、被相続人から生前贈与を受けた者があるときは、その相続が開始された時点で存在した財産の価額に、当該贈与の価額を加えた額を、相続財産とみなします。
要するに、相続財産の前渡しがあったとの考え方で、これを『特別受益』といいます(民法903条)。
従って、本件では、相続財産は、お兄さんに対して贈与された200万円が概念上戻って、トータル900万円となるので、各自300万円相当の権利があるということです。
そして、もしお兄さんが、現在住んでいる500万円相当の土地を相続取得したいとの意向でしたら、計算上は、取り過ぎになった200万円を、他の相続人に支払ってあげるという理屈です。
ただし、200万円を作るために、生活の本拠を売却しなければならなくなるなどの事態は、お気の毒とも思えます。
そこで、遺産分割の話し合いがうまく進まないときは、家庭裁判所で、調停、又は審判という手続が行われ、その場合、遺産の状況,性質,各相続人の年齢・職業・生活の状況等一切を考慮しなければならないとされております(民法906条)。
まずは、弁護士に相談することが第一です。なお、お兄様の立場では、『寄与分』(民法904条の2)のご主張があり得るでしょう。このことも、専門家にお尋ねください。
あなたがお父上から認知を受けていれば、当然相続人となります。
認知を受けないまま死亡した場合はどうでしょう。この場合は、父が死亡した日から3年以内に、検察官を被告として、家庭裁判所に対して、認知請求訴訟を提起する方法によって、あなたは父から認知された、すなわち、実子として認められることが可能です。
判決によって、父の子であることが認められると、法律上、非嫡出子となり、本妻との間の子の相続分の2分の1の相続分を取得することになります。
認知というのは、人の身分関係を形成する、いわば公益に属することですから、公益の代表者である検察官を相手にして、裁判を受けることができます。
もちろん検察官は、あなたがたの父子関係の『真実』は知らないでしょうから、裁判所は、あなたが相続人になることに、法律上、利害がある人に対して、このような裁判が、行われていることを通知します。
実質上、この訴訟に参加するであろう、本妻との子が相手といえるかもしれません。もちろん、争点であり、証明されるべきは事実です。通常、鑑定などが行われて、最終的に裁判所が判断します。
なお、非嫡出子の相続分が、嫡出子の2分の1とされている民法上の規定は、当の本人にとっては、どうしようもない事柄で差別されているというべきで、法の下の平等に反するという見解がかなり有力です。
追記(2018.8.21)
「その後民法が改正され、嫡出子と非嫡出子の相続分は、同じとなりました」