マスコミによく登場する弁護士さんの回答が、常に正しいわけではないのですが。

2015年7月3日

誤判とは、裁判所が誤った判断をした場合を指すとされています。

裁判所は、法律の適用に関しては専門家だと言う点で、判断の前提になる事実認定を誤ったことが、私たちの世界では、『誤判』とされるのです。

 

もちろん、現在審議中の、安全保障法案が合憲なんて判断が出た場合には、裁判所が憲法の解釈を誤ったわけですから、法律専門家として、誤判以上の間違いを犯したことになりますが。 誤判は、再審無罪等が報じられることでも、刑事事件のイメージがあると思います。

 

司法修習生のとき、結構好きだったある裁判官が、事実認定は刑事事件こそ重要と仰っておりました。そのときは、有罪率が99%以上で、ほとんど被告人が自白している刑事事件は、ある裁判官なんて、起訴状と同じに判決を書くことが重要なんて言ってくらいで、私は、民事事件の事実認定が大変なのでは?と感じていたのです。

 

民事事件では、まず原告被告は、真っ向から違った事実の存在を言ってきます。証人本人尋問なんて、事実はひとつなのに、双方全然違うことを証言します。

これを依頼者から見れば、「嘘ばっか言って!」と頭に来るわけです。勿論、反対尋問の機会はありますが、最も良い反対尋問は、反対尋問をしないことだと先人が言われるごとく、理詰めで追い詰めようとしたら、反対に、相手方の主張を固めるだけになってしまうからです。

何処かで述べたと思いますが、裁判所は、それ自体が、また、存在する客観的証拠と照合して、不合理な弁明、証言は排斥します。そして、あるきっかけにより、『心証の雪崩現象』を引き起こして判決に至るのです。

 

さて、ある民事事件の判決で、裁判所の判決文に、41箇所間違いがあったと報じられております。主として判決文に添付する一覧表の数字とか、曜日の誤りで、判決内容には直結する誤りかどうかはわかりませんが、この誤記?多数の判決文を手にした当事者にとりましては、裁判そのものの信頼を失うのではないでしょうか。

 

この判決文を書いた裁判所は、判決を『訂正』するようです。 おそらくこの判決を書いた裁判官は、自分の意図したところと、判決文の表示が異なっていたのでしょう。

よく入札等で、1000円だと思って品物を買おうとしたとき、間違って100円と希望価額を書いしまったなんて事態はありますね。これは、表示上の錯誤と言われます。しかし、表示上の錯誤ではなく、完全な間違いをするケースもあります。

先日、テレビの法相談番組なんかによく出てくる⚪️⚪️女性弁護士と言われている方が、一緒に出演していた芸能人から、「無期懲役と言っても、15年くらいで出てくるんでしょう」と尋ねられて、これを肯定する回答をしたことが、ネット等で議論されています。

これは完全な誤りです。

 

細かい統計を見たわけではありませんが、この数年、裁判員裁判が始まり、有期懲役刑の最高が30年となりうるようになって、少なとも20年未満で、いわゆる仮釈放される受刑者はいないはずです。先の『30年』との均衡からか、30年以内で仮釈放された無期懲役囚がおられたならば、マスコミ挙って取り上げると思います。

「被害者の…」「遺族は…」 件の⚪️⚪️女性弁護士さんは、表示上の錯誤、すなわち、「言い間違えた」のではありません。本当に、無期懲役受刑者は、15年くらいで出てこれると思っていたのです。

 

しかし、ネット上のやりとりは、もっと私を驚かせました。ほとんどが、この弁護士さんを批判する投稿かと思いきや、そうではありません。 曰く、「30年でも早い」「無期懲役なんだから生涯入っているのは当たり前」「ここぞと言うときに『人権派』が出てくる」等等です。公共の電波から、間違った回答をした法律専門家をバッシングするのだろうと予想していたのですが、実に意外でした。

 

でも、無期懲役囚の方々は、飛んだとばっちりではないでしょうか。裁きを受けて受刑中ですが、また「そんな奴…」と非難される羽目になったのですから。

 

もっとも、受刑者の方々は、件の『法律番組』を見聞きすることはないですかね。

世の中の風潮として、テレビ番組等で発言する弁護士等法律専門家の見解が常に正しいと受け取る向きがあるのではないでしょうか。確かに、法律相談をしたいとき、『敷居が高い?』法律事務所をわざわざ訪ねずに済みますから便利ではあるでしょう。

そう言えば、当時弁護士だったマスコミによく登場する弁護士が、⚪️⚪️地区の番組で、ある刑事事件の弁護団を許せないなら所属弁護士会に懲戒申し立てしよう!と呼びかけたとかで、弁護士会には懲戒申立てが続出、当の弁護士本人も、所属弁護士会から、『弁護士として品位を欠く行動』だとされ、懲戒処分を受けております。

 

マスコミに露出する弁護士は、世間では応援され、弁護士仲間からは批判される例のようです。

おそらく「無期懲役囚は15年で仮釈放されて出れる」との見解を示した弁護士が、市民から、懲戒申立てをされることはないでしょう。

むしろ、所属弁護士会が、『無期懲役囚は、ここ数年30年未満で仮釈放されたケースはないのに、間違った情報を社会に広めた』として、不勉強ゆえにこの弁護士を懲戒処分にしたら、社会世間の皆様は、どうされるか興味があります。(極めて稀有な例ですが、)30年経ったら出れると説明(事実なのですが、)する弁護士会がおかしいなんてご意見が寄せられるような気がいたします。

事は、裁判官が、判決を訂正して済まされるようなケースとは異なった結果となると思われるのです。