『ひよ子』は、『面白い恋人』とは違うんです。

2015年7月14日
北海道札幌みやげは、今でこそたくさんありますが、昔から出張族の定番だったのが、石屋製菓株式会社が販売する『白い恋人』だったと思います。

淡い白い雪と、恋の街札幌のイメージは、これを貰った人もまた、北への思いを馳せたのではないでしょうか。


ところで数年前、『面白い恋人』なる商品が、大阪伊丹空港や新大阪駅で販売されて、議論を巻き起こしたことがありました。これは、『白い恋人』をパクった吉本興業の子会社が販売したみたらし味のゴーフレットであります。


最初のころ、白い恋人だと思って購入した客から、「違う!」との苦情が石屋製菓に入ったようで、やがてお笑いの吉本興業が、模倣品を販売して利益をあげていると指摘されたものです。

石屋製菓は、商標権侵害、不正取引防止法違反を理由に、販売禁止や損害賠償を求めて民事訴訟を提起しました。そして最終的に、吉本興業側は、パッケージの図柄を改め、販売地域を関西地区のみにすることで、両社間に和解が成立して終了したと言うことでした。

私も、大阪伊丹空港の売店で、『面白い恋人』が並べられているのを目にしました。恋人とおぼしきふたりが、大阪城等の大阪周辺の場所を訪ねるパッケージであり、札幌によく行く私からすると、明らかに『白い恋人』をパクって面白おかしく、そして利益をあげようとしているのだとわかるものです。はっきり言って、気分が悪かったです。なんでもお笑いで済むのかと言う疑問です。和解になってよかったです。

ところで、福岡から上京した学生や、東京に転勤してきたサラリーマンたちも、東京での生活が始まった当初、『なんで!』とある光景を見て、ショックを受ける例があります。それは、『銘菓ひよ子』が、東京みやげとして、東京駅等に並べられていることです。


ひよ子は、福岡の吉野堂グループの銘菓だからです。

吉野堂グループのひよ子は、明治も末のころ、当時炭鉱の街とされた福岡県飯塚市に、炭鉱で働く人たちのエネルギーとなる甘い物を作ろうと言うことで初代が考案し、福岡県はまた、当時より美味しい鳥と卵を生み出す都市として定評があって、ここに大正元年、『ひよ子』の販売に至るのです。吉野堂の名称は、飯塚から福岡市内に行く途中の難所八木山峠に咲く染井吉野から名を取ったのだそうです。

あの可愛いらしいひよ子が、なんで索漠とした東京みやげなの?。それなりにショックだったと思います。

実は、吉野堂グループを統括する株式会社ひよ子は、飯塚から福岡天神に、そして東京にも出店したところ、折から東京オリンピックで沸く東京では、ひよ子のかたちをした可愛いらしい、そして焼きあがって数日しても、皮と餡が絶妙に馴染んだこの味に魅せられた人々から口コミで広がって、ひよ子は、関東でも工場を建設して直売することもなったのです。

こうしてひよ子は、福岡と東京に別会社を設け、それぞれ協力しあい、また、競いあって、『福岡』『東京』それぞれのひよ子として、今日まで愛されていると言うわけであります。決してどちらかがパクった訳ではないのです。

それで福岡から東京に来て、生活することになった人たちは、東京のひよ子を見て、ふるさとを懐かしみ、愛着を持つようになっていくのだそうです。福岡に帰省するときには、東京のひよ子をおみやげにするとも聞きます。

今では、東京ご出身なんですよと言われたら、福岡市民には、『あれっ』て思われるであろう王貞治ソフトバンクホークス名誉会長が、初めて東京から福岡に赴任したとき、ひよ子があるのを見て、全く同じことを思ったそうです。


福岡と東京は、なんか近しい、仲良くなれる素地があるようです。きな臭い?話が続く昨今、ひとりごとには、こんなひよ子今昔物語も良いのではと思いました。