今上陛下が、生前退位のご希望をお持ちであるとの報道を知った福本悟が、思うところを記します。

2016年7月19日
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私は、参議院議員選挙が行われた7月10日、宇佐神宮に詣でました。
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ここは、昨年から今年にかけて、4回天皇陛下のお遣いの勅使が見えられた場所です。この『ひとりごと』で、宇佐神宮についてお話しし、ここに行きたかったこと、そして皇室の御祭神を祀るこの地で、あることを祈願したことを申しました。

その理由をいつかお話しすることがあるだろうかと思っておりましたら、こんなに早くこれを申し上げることになるとは……。それは、先ごろ天皇陛下が、生前退位を希望されているとの報道がなされたことにあります。

この『ひとりごと』では、今上陛下が、常に国民の幸せを願い、世界平和を希求されていることに関して、記述してまいりました。陛下は昨年も、沖縄、パラオ、フィリピン等先の大戦で尊い命が失われ、甚大な戦線の爪痕を残した地に、慰霊の旅を続けられました。

終戦の日には、先の大戦への反省を、天皇誕生日には、憲法のもと、平和な生活が続くことを国民ために願っておられることを述べられました。畏れ多くも有難い御心は、この『ひとりごと』でも、平成27年の締めくくりに、忘れてはならない昨年の大きな記しとして、挙げさせていただきました。宇佐神宮御本殿横には、今上陛下からの4回の勅使の記しが残されておりました。

日本国憲法第1条をご存知ですか?9条は、よく話題になりますが、第1条は、象徴天皇制が書かれています。『天皇は、日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権が存する日本国民の総意に基づく』であります。つまり、天皇制は、国民主権のもと、日本国民が決めた国民と皇室のあり方であり、天皇陛下は、日本のシンボルとして、国民に支えられ、慕われていると言うことです。

天皇は、憲法で定めれた国事に関する形式的儀礼的な行為のみを、しかも内閣の助言と承認によりなされているのです。そして憲法は、天皇は、国政に関する行為は、一切行わないと明記されています。

これが天皇の国事行為と言われるものです。事柄の性質上、例示列挙ではなく、制限列挙ですが、それでも国務大臣の任命、外国の特使行使の接待、栄典の授与、国会の召集等等多岐に渡ります。加えて今上陛下は、国内の被災地をご訪問され、また、先の大戦の戦地等海外へ、異例の旅を続けられています。

82歳のご年齢を考えますと、単にご公務の負担を軽減すべきとの議論に留まることなく、日本国民の象徴である天皇陛下、そして皇室の平穏安寧であられることを、考えるべきときかもしれません。

天皇および皇室に関わる事柄は、日本国憲法をもとに、皇室典範に定められております。この法律は、天皇の生前退位を認めていないと解されています。それは学説のみならず、歴代の内閣も、同様に解しておりました。

ですから、天皇の生前退位を承認するには、まず皇室典範を改正する必要があるのです。大方の国民は、かくも過酷とも言うべきご公務に携わる心優しい強靭な責任感をお持ちの今上陛下には、望まれるとおりご退位を承認して差し上げるべきとの考え方かと思います。さて、私が言いたいこと、問題の本質は、以下のところにあります。

現在の天皇の地位は、日本国憲法による象徴天皇制として存在します。つまり、自民党改正草案にあるような『国家元首』ではありません。現在日本国の象徴であり、この憲法のもと、その地位が確立している天皇制に関わる変更等は、日本国憲法により、なされなければなりません。

例えば、今上陛下が、現憲法での生前退位を望まれたとして、そのためには皇室典範の改正を要するとするなら、自民党安倍政権が意図する自民党改正草案とは、『憲法』の根元となる規範が異なるので、自民党草案を基にする憲法改正は、優先することはできないと言う結論になるからです。端的に言えば、今上陛下のご意思を尊重する限り、政治日程としては、皇室典範の改正が先であり、憲法改正は、後になることを意味するのです。

ごくごく一部に、私と同じように、この問題を指摘する声があります。気になるのは、これまで歴代内閣が、憲法上認めれないとして否定していた集団的自衛権を、閣議決定により承認したり、いわゆる三党合意により税率アップを決めていた消費税の増税を、参議院議員選挙前に、ーーアベノミクスの失敗ではなくーー『新しい判断』により延期した(早速選挙後に、消費税アップは、ほとんど国民が支持しているなんて報道がありましたが)現政権が、直ちに皇室典範の改正に着手するだろうかでありました。

豈図らんや、恐ろしい発言がもう出されました。安倍政権を支える菅義偉内閣官房長官は、今上陛下の生前退位そのものを承認できないかの発言をしております。

すなわち82歳の陛下にまだ働け!と言っているのです。

陛下は、国民のために充分国事行為を成し得なくなった、天皇である限り、公務を軽減されることは潔しとしないお考えです。国会議員は知りませんが、会社だって定年制はあります。崩御するまでひとりの人間になることを認めなないとは……。

本当のところ、ここで今上陛下に退位される、皇室典範を改正すること、そして皇室典範改正後に、徳仁殿下が即位されることを、殊の外回避したいのが、安倍自民党の本音なのではないでしょうか?

まず、天皇を元首に祭り上げた戦前回帰の目論見が、象徴天皇制のもとで、皇位の承継を願う陛下のご発言で沙汰止みとなる恐れが出て来ました。

陛下は、ご自身のお立場が、日本国民統合の象徴であり、国民主権が前提にあることを、完璧なまでに実践されようとしています。自民党の改正草案、アレは、国民主権と言えますか?皇室典範の改正は、日本国憲法の規範を維持することが前提です。

そんなこと、今の自民党がいちばんしたくないこと、ようやくここまでたどり着いたのに、首相は、忸怩たる思いでしょう。

さらに申します。報道によると、今上陛下は、以前から生前退位をお考えで、皇太子殿下、秋篠宮様ともお話しなさっていたとのことです。

もし、先の参議院議員選挙で、国民が、『3分の2』に危機感を持って行動していれば、この時期に、今上陛下のご希望が明らかにされることはあったでしょうか。宮内庁は、慌ててコレを否定しています。畏れ多くも天皇陛下ご自身、日本国憲法が破棄されようとしているこのとき、歴史ある日本の皇室、国民を誰よりも大切にして来られたご自身の魂の雄叫びではなかったでしょうか。これが、生前退位と言う『ウルトラC』かもしれません。

さて、皇位承継第1順位の皇太子殿下が、今上陛下と同様に、日本国憲法を強く遵守するお立場お考えであることは、広く知られております。既に彼方此方で動画等となってアップされているので憚りなく申し上げます。

皇太子殿下は、象徴天皇制の意義と皇室のお務めをしばしば語られ、特に日本国憲法の平和主義は、全世界に訴える必要があって、何よりもご自身の役割は、日本国憲法を守り抜くことだとハッキリ仰っておられます。コレ気に入らない人が、有権者の3分の2なのでしょうか?そうなのです。今上陛下と皇太子殿下は、国民ため、気づかぬ国民のため、御身を張って行動に出られたと、私は思います。

皇室典範の改正が議論されると、小泉内閣のとき、立ち消えとなった女子の皇位承継の議論が再燃することもあり得ます。そうすると、皇位承継順位が現行と変わる可能性があります。皇太子殿下そしてそのご家族が、皇室と国民の関係を重視され、世界平和への深い思い入れ、そして或いは日本国民の誰よりも、日本国憲法を大事にされていることは、改憲派と言われる勢力、なかんずく安倍晋三内閣総理大臣は、よくわかっているのです。

今上陛下の生前退位、それを可能にする皇室典範の改正と、これに続く皇太子徳仁殿下の御即位に、どんな思いでいるかは、護憲派には、手に取るようにわかるのです。〇〇会議の面々、陛下の生前退位をあからさまに否定しませんが、皇室典範の改正をしなくても良いなんて早速発言しておりますね。菅義偉内閣官房長官は、またしても『汚れ役』を果たしたかたちです。

話を最初に戻します。

私は、今年、参議院議員選挙の日に、宇佐神宮に詣でました。同じく日本の皇室の御祭神を崇敬する伊勢神宮に詣でなかった理由は、誰かさんと張り合ったわけではありません。昨年から今年、特に安保法制が確立した昨年10月以降、今上陛下が4度も勅使を遣わして皇室の祖先となる大神に祈願されていたと言う事実の重みを、日本国民として受け賜わりたかったからです。

そしてこの日、参議院議員選挙の結果、『3分の2』が実現しました。今上陛下は、如何にお思いだったでしょう。その3日後、東京都知事選挙の告示前日に、生前退位のご希望が明らかにされました。畏れ多いことです。

私は、宇佐神宮に詣でて、やはり日本国民だったことを実感しました。この国に生まれ、こんなにも国民を大事になさる天皇陛下を象徴として仰ぐ日本国憲法、これの遵守を天皇陛下直々に行動に移された重みを決して忘れたり、よもや無駄にすることは許されないと、宇佐神宮の方角に向かって誓いました。

天皇が退位して上皇になるのかとか、元号が変わって面倒だとかそんなレベルの国民意識は、嘆かわしい限りです。

どうか陛下がいつまでもお元気で、そして、平穏安寧の日常を送ることができますよう、これまでのご苦労ご尽力に感謝の念を失うことなく、永遠に願うものです。宇佐神宮、行ってよかった!