人間が危機的状況に陥ったとき、パニックとなりうることは、様々な場面で実験されています。
過日広島空港に着陸しようとした韓国アシアナ航空機が、滑走路手前の高さ6.4メートルの着陸誘導用アンテナに接触して、滑走路を外れて停止した事故は、一歩間違えば大惨事となりかねない衝撃を受けました。
広島空港は、山を開いた高台にあり、雲や霧が発生しやすく、着陸寸前まで、どこを飛行しているのか、乗客として把握しにくい空港だと思っています。
今回の事故は、かなり低空で進入したと想像されますが、計器が不都合だったのか、パイロットの技術が問題だったのか、はたまた別の原因があったのか、現時点では、明確とされておりません。
この段階で報道されたところで気になるのは、客乗務員の対応です。予め言っておきますが、これが韓国の交通機関だから……ではありませんので、誤解なきよう願います。
複数の乗客の話として、衝撃が起き、酸素マスクが降りて来て、煙(炎?)が見えて、乗客から泣き声等が起きる中で、ようやく航空機が停止したとき、客室乗務員は、韓国語で「ドアが開かない!」「爆発するから早く降りて!」等叫んでいたと言うことです。
これはいただけませんね。乗客の生命安全を守るプロがこれでは、乗客は、さらにパニックとなるでしょう。 数年前、ANAグループのプロペラ機が、高知空港に胴体着陸したことがありました。
このとき、誰ひとり怪我はしませんでした。前輪が出ないアクシデントに見舞われたコックピットは終始冷静で、「われわれは、日頃胴体着陸の訓練を受けています」とアナウンスしました。客室乗務員も、火災の発生等の万が一に備え、乗客の座席を移動させるなど、『サラリと』と対応したと言うことです。
ところが実際は、パイロットは、胴体着陸の訓練は受けていないのです。機体が激しく損傷する胴体着陸の実験などないのだそうです。咄嗟の機転なのか、これこそ日頃の訓練なのか私にはわかりませんが、見事ですね。あの機長の一言で、どれほど乗客は落ち着いたか、少なくとも胴体着陸までパニックにならず、それどころか乗務員と心を一にして、信頼関係を保てたことは素晴らしいことです。
昭和60年8月12日、御巣鷹山に墜落した日航機の乗務員にも、最期の最期までプロを貫抜いた秘話がありました。機長は、操縦不能となったコックピットで、副操縦士に「どーんと行こうぜ!」と励まし、入社数ヶ月の20代の客室乗務員の女性は、緊急着陸(不時着)した場合に備えて、乗客を誘導する手順等をメモした紙を握りしめて絶命したと報道されました。
これがプロがプロたるゆえん、だからこそ私たちはプロを信頼し、生命他を預けることができるのだと思っています。
広島空港での事故が起きた同じ日、福井地方裁判所は、福井県高浜原発の再稼働を差し止める仮処分決定をしました。
個人的には、幸い大惨事に至らなかった広島空港の事故よりも、こちらをマスコミは大きく取り上げて欲しいと思うのですが、早速この仮処分決定を受けて、様々な意見が寄せられております。
政府は、国は、事件の当事者ではないから司法の判断についてコメントする立場にないと言いつつも、原発再稼働については、例によって『粛々と進める』のだそうです。
いろいろな意見があるのはわかります。
現在報道されたところで、私が気に入らないのは、「自分たちはプロなのだ、何も知らない裁判所が何を言うか!」と聞こえる原発再稼働に関わった人の意見です。
この方々は、高度の政治的な問題には、司法は黙っているべきとも仰いました。
司法は、法律や政府の行為が、 人々の権利を侵害するか、その恐れがあるかどうかの観点で判断します。
原発が必要かどうかに論及するものではありません。
原発再稼働を推進したいプロの方々は、謙虚さがないと思いました。
プロは、ある分野でのみプロなのであって、プロである自分たちの意見や、やってきたことは全て正しくて、とこにでも通用すべきかに考えるのは過信であり、バランス感覚に欠けると思うのです。
以前にもお話したと思いますが、高知空港のときの機長は、乗客を目的地まで送ると言う、ただ当たり前のことをしているだけと社内で語ったそうです。
この謙虚さが、プロたるゆえんなのかもしれません。