「ドイツは、過去と向き合った」

2015年3月16日
テーマ 
ドイツのアンゲラメルケル首相が来日しました。

物理学者でもある旧東ドイツ出身のメルケル首相は、洞爺湖サミット以来の来日で、わずか2日間の公式実務訪問でありましたが、私たちに重要なメッセージを残しました。

かつての大戦では、ドイツは日独伊三国同盟の枢軸国と言われる関係の敗戦国でありながら、国際社会に受け入れられたのは、

『ドイツは過去ときちんと向かい合った』からだと言われました。

確かにナチスの戦犯に対する時効を廃止して、地球上あらゆる場所まで追いかけていることはよく知られています。
そう言えば、今年94歳で死去したヴァイツゼッカードイツ連邦共和国大統領は、今から30年くらい前に、「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在も盲目になる」と述べられました。
メルケル氏によれば、かつての敵国との和解は、「近隣諸国の温情なしには不可能だった。

ただドイツ側も過去ときちんと向かい合った」と言うことでありました。

弁護士として仕事をしていると、よく謝れとか謝罪しなければとの声や場面に遭遇することがあります。
以前もお話したかもしれませんが、他人に損害を与えた、精神的に苦しめたような場合、お金を支払うことで謝ったかたちにする、それしかないのが、この業界の良いところ悪いところで悩ましいものです。

でも、お金を支払うイコール謝罪となるのであれば、以後「謝れ!」と言われることはありませんし、ましてこうしてなされた謝罪が撤回されることもありません。

お金なんて要らない、こんなもの返すから謝れ!なんて司法の世界に身を置く者として、経験したことはありません。


戦後70年の今年、安倍晋三内閣総理大臣は、『安倍談話』を出すようです。
巷では、かつての侵略戦争と植民地支配に対する痛切な反省を込めて出された『河野談話』『村山談話』そして靖国神社に参拝した首相が出された『小泉談話』を修正するかもしれないと囁かれています。

今、談話の内容について論じるのではありません。
確かに、近隣諸国から、なんでもかんでも謝れ!謝れと言われたら、気分が良いものではないでしょう。だってもう謝ったのですから。

司法の世界では、謝った者に対して繰り返し『謝れ!』はないと申しました。
でも、ひとたび謝った者が、それを撤回することもありません。

謝る必要があるかどうかは議論されるべきですが、かつて謝ったことが間違い、謝罪を撤回するなんてあり得るのでしょうか?謝ったことにより収まった紛争は、蒸し返されるのでしょうか?

メルケル氏が言われる過去ときちんと向かい合ったと言う意味は、先人が辛い、また、恥ずかしながら現在そして将来のため、向かい合ったことそのものを否定することは、なお認められないと聞こえました。

メルケル首相、良いときに来日してくださいました。